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第28話 後悔の嘆き
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「ん……。あ、あれ、ここって……」
スイは一人、目を覚ました。
視界の先には、いつも眺めている天井。
布団の中に入っていることは、すぐに分かった。
「…………廊下が、騒がしい」
まだ意識がぼんやりしている中、体を起こす。
「――――っ!!」
頭が痛く、スイは「いったぁ……」と頭を押さえた。
眩暈も起こしており、動ける状況ではない。
すぐに布団に寝直そうと思ったが、自分が倒れた時の状況を思い出す。
「私、倒れたんだった」
まだ頭痛はするし、倦怠感で体が動きにくい。
けれど、廊下が騒がしいことと、天狗が今何をしているのかが気になる。
それに、温泉はどうなったのか。
鬼火たちが最後に眠りについたことは思い出した。
だが、その後だ。
お客様はすぐに温泉に入りたいと言っていた。
けれど、一度沸騰してしまった温泉は、入れ直さなければならない。
その時間をどう稼いだのか。
いや、素直にお客様に伝えたのか。
ふらふらの体で廊下に出ると、あやかしたちが駆け足で、タオルや子供のおもちゃなどを持ち、一つの場所へと向かっていた。
スイもゆっくりながらついて行くと、たどり着いた先は温泉だった。
女湯に入ると、ご婦人と娘の静稀が、体にタオルを巻き、温泉の準備をしている。
慌てていたあやかしたちは、脱衣所にはいない。
いや、見えなくなっているだけかもしれない。
一部のあやかしたちは見た目を変えられないため、人間を招いた際に驚かせてしまう。
そのため、姿を消せる道具を持っている。
それを悪用するあやかしには重い罰を与えることを約束し、従業員全員が所持していた。
だからだろうと、スイは一人で納得した。
「あら、こんにちは。これから温泉を頂戴するわね」
「は、はい。ごゆるりと、お楽しみくださいませ」
声をかけられてしまえば、スイは腰を折り、お見送りするしかない。
温泉へと向かった二人を見届けると、姿を現したあやかしたちが、スイの元へと駆け寄ってきた。
「スイ様、倒れたと聞きましたが、体調は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。それより、温泉は? お客様が入っても大丈夫な状態まで復旧したの!?」
二人に聞こえないよう小声で、スイが問いかける。
「大丈夫ですよ。玄様の迅速な対応で、すぐに温泉は復旧しました。鬼火たちは今休んでいるため、現在は九尾様の鬼火で温泉を温めています」
「え、九尾、様?」
スイは目を丸くし、すぐさまボイラー室へと向かった。
途中、眩暈で転びそうになるが、なんとか立ち直り、奥へとたどり着く。
「はぁ、はぁ……」
「おぉ? スイの嬢ちゃんじゃないかい。どうしたんだい?」
そこには、鬼火を操り温泉を温めている九尾の姿があった。
壊れてしまったパイプは、現在修繕作業が行われている。
「倒れたと聞いたが、大丈夫――――ではなさそうだねぇ。休まなくて大丈夫なのかい?」
「休んでいる暇などありません。私が、またうまく立ち回れなかったのですから……」
「ん? うまく立ち回れなかったから、休んではいけないのかい?」
「私は、自分に甘いので、ここで休んでは駄目なんです」
スイは、九尾の手元を見る。
小さな狐火が漂い、温度調整をしていた。
こんなことも、もしスイがうまく状況を判断し、最善の方法を取れていれば良かったのだ。
そうすれば、九尾にも迷惑をかけず、天狗の手も煩わせずに済んだ。
すべては、自分が両親のように動けなかったばかりに、事態が大きくなってしまった。
スイは、今回の出来事をすべて自分のせいだと心の中で嘆き、俯く。
涙が出そうになるが、泣く権利すら自分にはないと、ただ必死に堪えていた。
すると、九尾に突然、顔を上げさせられた。
「えっ」
「やはり、泣いておったか」
「な、泣いてなんていません!」
「なら、泣きそうになっておるな。どうした? 何を考えておる?」
九尾はスイを真っすぐ見つめ、問いかける。
赤い瞳が、心の奥の奥まで見抜いているようで、スイの体がゾクリと震えた。
「…………私は、本当に余計なことしかしなかった」
「ふむ」
顎から手を離し、九尾は静かに耳を傾ける。
「悩みは人を強くする、悩んでいるだけでは何も解決しない。そう思って、今回は天狗様の言葉も無視してお客様を出迎えました。そしたら、まさか鬼火さんが癇癪を起こしているなんて……。私は、どこで間違えてしまったのでしょうか。やっぱり私は、動かない方がいいんじゃないでしょうか。私は、両親のように動けない……」
言葉にした途端、涙が溢れ出す。
泣いてはいけないと思っていても、もう止まらなかった。
手で拭い、嗚咽を漏らす。
「うむ。なぜそのようなことで悩んでおるのか、我にはわからんなぁ」
「まぁ、九尾さんは何でもできますからね。できない人の気持ちなんて、わからないでしょう」
嫌味な言い方をしてしまい、スイはさらに自分が嫌になる。
感情がぐしゃぐしゃで、せっかくろくろ首にもらった助言も、何の意味もないように感じてしまう。
「私、なんでこんな所にいるんだろう……」
膝に顔を埋め、弱音を吐く。
そんなスイを見て、九尾は少し面倒くさそうな表情を浮かべた。
スイは一人、目を覚ました。
視界の先には、いつも眺めている天井。
布団の中に入っていることは、すぐに分かった。
「…………廊下が、騒がしい」
まだ意識がぼんやりしている中、体を起こす。
「――――っ!!」
頭が痛く、スイは「いったぁ……」と頭を押さえた。
眩暈も起こしており、動ける状況ではない。
すぐに布団に寝直そうと思ったが、自分が倒れた時の状況を思い出す。
「私、倒れたんだった」
まだ頭痛はするし、倦怠感で体が動きにくい。
けれど、廊下が騒がしいことと、天狗が今何をしているのかが気になる。
それに、温泉はどうなったのか。
鬼火たちが最後に眠りについたことは思い出した。
だが、その後だ。
お客様はすぐに温泉に入りたいと言っていた。
けれど、一度沸騰してしまった温泉は、入れ直さなければならない。
その時間をどう稼いだのか。
いや、素直にお客様に伝えたのか。
ふらふらの体で廊下に出ると、あやかしたちが駆け足で、タオルや子供のおもちゃなどを持ち、一つの場所へと向かっていた。
スイもゆっくりながらついて行くと、たどり着いた先は温泉だった。
女湯に入ると、ご婦人と娘の静稀が、体にタオルを巻き、温泉の準備をしている。
慌てていたあやかしたちは、脱衣所にはいない。
いや、見えなくなっているだけかもしれない。
一部のあやかしたちは見た目を変えられないため、人間を招いた際に驚かせてしまう。
そのため、姿を消せる道具を持っている。
それを悪用するあやかしには重い罰を与えることを約束し、従業員全員が所持していた。
だからだろうと、スイは一人で納得した。
「あら、こんにちは。これから温泉を頂戴するわね」
「は、はい。ごゆるりと、お楽しみくださいませ」
声をかけられてしまえば、スイは腰を折り、お見送りするしかない。
温泉へと向かった二人を見届けると、姿を現したあやかしたちが、スイの元へと駆け寄ってきた。
「スイ様、倒れたと聞きましたが、体調は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。それより、温泉は? お客様が入っても大丈夫な状態まで復旧したの!?」
二人に聞こえないよう小声で、スイが問いかける。
「大丈夫ですよ。玄様の迅速な対応で、すぐに温泉は復旧しました。鬼火たちは今休んでいるため、現在は九尾様の鬼火で温泉を温めています」
「え、九尾、様?」
スイは目を丸くし、すぐさまボイラー室へと向かった。
途中、眩暈で転びそうになるが、なんとか立ち直り、奥へとたどり着く。
「はぁ、はぁ……」
「おぉ? スイの嬢ちゃんじゃないかい。どうしたんだい?」
そこには、鬼火を操り温泉を温めている九尾の姿があった。
壊れてしまったパイプは、現在修繕作業が行われている。
「倒れたと聞いたが、大丈夫――――ではなさそうだねぇ。休まなくて大丈夫なのかい?」
「休んでいる暇などありません。私が、またうまく立ち回れなかったのですから……」
「ん? うまく立ち回れなかったから、休んではいけないのかい?」
「私は、自分に甘いので、ここで休んでは駄目なんです」
スイは、九尾の手元を見る。
小さな狐火が漂い、温度調整をしていた。
こんなことも、もしスイがうまく状況を判断し、最善の方法を取れていれば良かったのだ。
そうすれば、九尾にも迷惑をかけず、天狗の手も煩わせずに済んだ。
すべては、自分が両親のように動けなかったばかりに、事態が大きくなってしまった。
スイは、今回の出来事をすべて自分のせいだと心の中で嘆き、俯く。
涙が出そうになるが、泣く権利すら自分にはないと、ただ必死に堪えていた。
すると、九尾に突然、顔を上げさせられた。
「えっ」
「やはり、泣いておったか」
「な、泣いてなんていません!」
「なら、泣きそうになっておるな。どうした? 何を考えておる?」
九尾はスイを真っすぐ見つめ、問いかける。
赤い瞳が、心の奥の奥まで見抜いているようで、スイの体がゾクリと震えた。
「…………私は、本当に余計なことしかしなかった」
「ふむ」
顎から手を離し、九尾は静かに耳を傾ける。
「悩みは人を強くする、悩んでいるだけでは何も解決しない。そう思って、今回は天狗様の言葉も無視してお客様を出迎えました。そしたら、まさか鬼火さんが癇癪を起こしているなんて……。私は、どこで間違えてしまったのでしょうか。やっぱり私は、動かない方がいいんじゃないでしょうか。私は、両親のように動けない……」
言葉にした途端、涙が溢れ出す。
泣いてはいけないと思っていても、もう止まらなかった。
手で拭い、嗚咽を漏らす。
「うむ。なぜそのようなことで悩んでおるのか、我にはわからんなぁ」
「まぁ、九尾さんは何でもできますからね。できない人の気持ちなんて、わからないでしょう」
嫌味な言い方をしてしまい、スイはさらに自分が嫌になる。
感情がぐしゃぐしゃで、せっかくろくろ首にもらった助言も、何の意味もないように感じてしまう。
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