犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

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犬宮賢の方法

「俺が全てもらってやるよ」

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 目を細め、狙いを定めた心優の瞳は氷のように冷たい。

 見られてしまっただけで凍えてしまいそうな瞳。
 氷が体に張るような感覚が走り、女性は動けなくなる。

 ――――私の蹴り一本で気絶するなんて、弱い男。

 目を細め、二人に近づきながら心優は口を開いた。

「言っておくけれど、これで済んで良かったと思うべきよ」

「な、何を言って…………」

「あ、そうそう。一つ、貴方達の行いを誉めてあげる。それはね、最初に犬宮さんを撃った事」

 女性の困惑など興味ないと無視し、心優は人差し指を立てた。

「そこだけは、評価してあげるわ。もし、犬宮さんを撃っていなければ、ここに肉片が二つ、作られていたかもしれないからね」

 コツ……コツ……と音を鳴らし、心優は女性の前に立ち塞がった。
 黒上がさらりと落ち、目を細め見下ろす。

「い、いやだ。いやだぁぁぁぁああ!!」

 女性が涙を流し、這うように心優と距離を取る。
 「あらら」とマイペースな声を零し、心優は目線だけで女性を追いかけた。

「情けないですね、わかりましたよ。なら、私以外を行かせましょう」

 心優は振り向き、最古を見る。
 彼はいつの間にか折り畳みナイフを手にしており、左手の袖を捲っていた。

 ニコニコと笑い、女性達を嘲笑う。
 ゆっくりと最古は、自身の腕にナイフを当て勢いよく引いた。


 ――――シュッ


「これで、貴方は終わりかもしれないわね。いや、少しはマシかな。どっちにしろ、私達は犬宮さんに酷い事をした貴方を許さない。せいぜい、嘆いてほしいものね」

 まぁ、犬宮さんが無事なのは知っているけどね。
 でも、許せないの。

 怖がる女性を冷笑し、心優は言い放つ。

「な、何が……」

 最古の腕から流れ出る血が地面にポタッと落ちた時、三人のリーダーがゆっくりと動き出した。

 地面に倒れ込んでいた犬宮が、地面に手を付け起き上がり始める。
 体は軽く、簡単に立ちあがった。


「――――お前から放たれる邪悪な金の匂い。俺が全てもらってやるよ」


 コツ、コツと。
 足音を鳴らし、怯えている女性へと近づく。

 口元には歪な笑顔。赤い唇の隙間からは八重歯が見え隠れしており、爪は鋭く尖っていた。
 
 頭には犬の耳、臀部《でんぷ》からは尾が現れ、ゆらゆらと揺れていた。
 その姿は、まるで人間に犬が憑依したように見える。

「では、終焉の時だ」

 犬宮は、最古の隣を通り過ぎる際に、手を伸ばした
 最古の腕から流れ出ている血は、彼の右手に集まり出す。

 吸収され、肌の色が赤黒く変色。
 そんな右手を、女性の頭にかざした。

「あ、貴方達は一体何のよ!!!!」

「俺達は、ただの一般探偵だ。ただ、少しばかり仲間が大好きすぎるだけのな」

「そんな事を聞きたいわけじゃっ――――」

「何かお困りな事があれは俺達にご依頼ください、金の匂いがすればいつでも駆け付けましょう。俺達、犬宮探偵事務所がな」

 女性の言葉を遮り、最後まで言い切った犬宮。
 頭にかざされた手は目元を覆い、女性を気絶させた。

「さて、依頼は完遂。報酬をもらいに行くぞ」

 白衣を翻し、犬宮一行は歩き出した。

 その場に残ったのは気絶している男女と、その場から動けなくなってしまった子供二人のみ。

 遠くからはサイレンの音が聞こえ始め、慌てているような人の声が薄暗い路地裏を埋め尽くす。

 もう安心と心優は一度足を止め、薄暗かったはずの路地裏を振り返った。

 ――――今回も、犬宮さんに危険な事をさせてしまったなぁ。
 誰かが傷つかないと体のリミッターが外れないの、どうにかしたい。

 ※

 青空が広がり、いつもと変わらない日常。
 車の音や人の声が賑わうビル街に、女性のピンク声が響いていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁああああ、素敵すぎる。やはり犬宮さん、貴方は素敵な逸材ですよ!! 私のモデルになってくだっ――――」

「断る」

 心優が犬宮に似た男性が犬の耳を付けられ、赤面している表紙の本を片手に項垂れた。

 ソファーには相変わらずにこにこ笑顔の最古、手にはあやとり用の糸。
 隣を見て、何もいない空間に笑いかけながらあやとりをしていた。

「…………また最古君が一人で遊んでますよー」

「よっぽど楽しかったんだろうな、拓真とのあやとり」

「あぁ、やっぱりですか。今もまだ最古君の目には映っているんですかね、拓真君が」

「そうなんじゃないかな」

 大事そうに本を胸に抱きながら、心優はソファーに座っている最古を見る。
 窓側には、事務机の椅子に座る犬宮の姿。手には通帳が握られていた。

「今回はどのくらい稼げたのですか?」

「軽く百はいってる」

「あぁ、貴方って本当に悪魔のような人ですね」

「あちらさんがあげると言ったのだからもらっているだけ、今回の働きに見合った報酬をもらう事が出来て良かったよ」

「強制的に高木家に行くはずの慰謝料をもらっているくせに…………」

 今回の報酬は、浮気した拓真達の母親から支払われている慰謝料。
 男性からの分は全額拓真達の父親が受けとっていた。


 裏路地での出来事が終わり、犬宮が集めた証拠全てをいつもお世話になっている弁護士に提出、ぶんどれるだけ慰謝料をぶんどる事に成功。

 今回協力してくれた弁護士は犬宮が準備したものだったため、高木家の父親と交渉し、女性からの慰謝料分をもらう事が出来ていた。

 今、浮気をしていた二人は街から姿を消し、蟹漁船に乗っているなどという噂が流れている。
 あくまで噂、真実はわからない。

「そういえば犬宮さん、撃たれた傷は大丈夫ですか?」

「もう治った」

「さすがです…………。やはり、は普通の人とは体の作り自体が異なってしまうのでしょうか」

「そうなんじゃない? 知らないけど」

「知らなくてもいい事なのでしょうか…………」

 心優の質問を軽く流し、犬宮は通帳を閉じ鍵付きの引き出しに入れる。
 立ち上がったかと思うと、ソファーに移動。心優の頭を撫で、次に最古の頭を撫でた。

 あやとりに夢中の最古は何も反応せず、心優はきょとんと眼を丸くする。

「俺は寝る。起こすなよ」

 言いながら開いているソファーで横になり、目を閉じた。

「え、あ、はい。起きるのはいつ頃ですか」

「三日は寝る」

「わかりました。では、ドアにひっかけておきますね」

 心優は立ち上がり、事務机の横にひっかけてある”休業”と書かれている一つの木の板を持った。
 
 ――――今回は思っていた以上に早く終わったなぁ。
 相手が一度、探偵を欺いたからって調子に乗った結果かな。
 犬宮さんの荒業もあるとは思うけど。

 ふふっと笑いながらドアを出て、お休みの板を引っかけようとした時、何者かに背後を取られてしまった。

 気配に気づいた心優は、咄嗟に回し蹴りを繰り出す。

 ――――――――ドンッ!! 

 良い当たり。そう思うのと同時に、「グギャ!!」という情けない声が聞こえた。

「――――――――え?」

「ん? どうした、心優――あっ」

 下で伸びている男性を見て心優は唖然、犬宮も様子がおかしい事に気づき廊下に出た。

「や、やばっ!」
「いや、大丈夫でしょ、こいつなら。それより、こんな所で何をしているの、黒田」

 黒田と呼ばれた男性は、首に巻かれている包帯が緩み、胴体と頭が別々の場所に転がり伸びていた。
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