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秋晴れ
「もし良かったら俺の家に来ませんか?」
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銀についていくこと数分、数本の木に隠れるように小屋がポツンと建っているのが見えてきた。
「着いたぞ。銀籠、体調はどうじゃ?」
銀が小屋の扉を開け、中に入りながら寝ているであろう銀籠に声をかけた。
優輝も銀の後ろを付いて行き、小屋の中に入る。
中は囲炉裏のある部屋一つのみ。
火をおこし、部屋の中を温めていた。
その隣では、布団にくるまり赤い顔で寝ている銀籠の姿。
「っ、銀籠さん」
銀籠の姿を見て、優輝は一瞬駆けだしてしまいそうになるが、近づいては駄目だとすぐに止まる。
銀は銀籠の隣に移動し、額に乗せているタオルを掴み、近くに置かれている水の張った桶に入れた。
濡れたタオルを取り出すと、しっかりと搾り再度銀籠の額に置く。
出入口付近から動かない優輝は、辛そうに寝ている銀籠を見て、近づかなくても出来ることはないか思考を巡らせる。
「…………優輝よ、こっちに来い」
「え、いいのですか? 寝ているとはいえ、人間である俺が近づいたら駄目じゃないでしょうか。目でも覚ましてしまえば、症状が悪化してしまうかもしれないですよ」
「問題ない、心配なんじゃろう?」
ちょいちょいと手招きされる。
心配で仕方がない優輝は、そんなことを言われてしまえば我慢できない。
躊躇いながらも、ゆっくりと近づく。
銀の隣に座り、銀籠の顔を覗き込んだ。
「…………辛そう」
「熱が高いんじゃよ。寒気もあり、頭痛にも苦しんでいた。今は催眠で無理やり眠らせておるが、どうも症状が良くならん。人間世界では、この場合どうするのじゃ?」
少しツッコミたいところがあったが、そこはあえてスルーして、優輝は質問に答えた。
「普通なら病院に行って、適切な薬を頂き飲む。あとは栄養のあるものを食べて、体をしっかりと休めるんです。そうすれば体は回復し、熱も下がりますよ。ただ、これはあくまで俺のような人間の治療法です。あやかしである銀籠さんに効くかどうか…………」
「ふむ、そうか…………」
腕を組み、銀は険しい顔を浮かべる。
少しでも早く、息子である銀籠を楽にしてあげたいと考えているのは表情からでも十分伝わり、優輝も眉を下げ共に悩んだ。
「…………あの、もし良かったら俺の家に来ませんか?」
「ん? 九重家にか?」
「はい。森だと栄養の良い食べ物を探すのも大変でしょう。これからの季節は食べ物事態取るのが難しいと、銀籠さんは言っていました。なので、もし良かったら俺の家で冬の間だけでも過ごさないかなと思って。もちろん、銀籠さんの周りには俺以外の人は近寄らせないようにします」
優輝の提案に、銀は思わず頷きそうになる。
優輝の提案は、銀にとっては良い条件。
病気の銀籠をすぐに治す事が出来るかもしれないし、温かい寝床も確保できる。
食べ物にも困らず、狩人に怯えなくてもいい。
今までにない環境で、安心しながら生活が出来るだろう。
だが、それはあくまで銀にとっての話だ。
人間恐怖症である銀籠にとっては、人が住む九重家は地獄。
いつでもどこでも人の気配を感じてしまい、人払いをすると言っても出くわしてしまう可能性がある。
銀籠の意見を聞かずに、そう簡単に頷ける提案ではない。
銀の葛藤を察し、優輝はその場に立ち上がった。
「今すぐに決めてほしいわけではありません。とりあえず、今は銀籠さんの体調最優先ですね。今から一度家に帰り、なにか栄養になりそうなものを持ってきます。何かアレルギーなどはありますか?」
「いや、特にはないと思うが…………」
「わかりました。人間の食べ物で食べては駄目なものなどはありますか? 玉ねぎやチョコレートなどなど」
「わしらは猫や犬と言った動物ではなくあやかしじゃぞ、馬鹿にしておるのか?」
「少し聞いただけじゃないですか……。ひとまず、わかりました。少しお待ちください、夕方過ぎくらいには戻って来れると思います」
言うと、優輝は小屋の外に出てしまった。
銀は唸っている銀籠の頭を撫でながら、ドアの方をちらっと見る。
「…………本当に好きなんじゃなぁ、銀籠のこと」
クククッと笑い、銀は桶の中に入っている水を入れ替えようと、近くを流れている川へと向かった。
「着いたぞ。銀籠、体調はどうじゃ?」
銀が小屋の扉を開け、中に入りながら寝ているであろう銀籠に声をかけた。
優輝も銀の後ろを付いて行き、小屋の中に入る。
中は囲炉裏のある部屋一つのみ。
火をおこし、部屋の中を温めていた。
その隣では、布団にくるまり赤い顔で寝ている銀籠の姿。
「っ、銀籠さん」
銀籠の姿を見て、優輝は一瞬駆けだしてしまいそうになるが、近づいては駄目だとすぐに止まる。
銀は銀籠の隣に移動し、額に乗せているタオルを掴み、近くに置かれている水の張った桶に入れた。
濡れたタオルを取り出すと、しっかりと搾り再度銀籠の額に置く。
出入口付近から動かない優輝は、辛そうに寝ている銀籠を見て、近づかなくても出来ることはないか思考を巡らせる。
「…………優輝よ、こっちに来い」
「え、いいのですか? 寝ているとはいえ、人間である俺が近づいたら駄目じゃないでしょうか。目でも覚ましてしまえば、症状が悪化してしまうかもしれないですよ」
「問題ない、心配なんじゃろう?」
ちょいちょいと手招きされる。
心配で仕方がない優輝は、そんなことを言われてしまえば我慢できない。
躊躇いながらも、ゆっくりと近づく。
銀の隣に座り、銀籠の顔を覗き込んだ。
「…………辛そう」
「熱が高いんじゃよ。寒気もあり、頭痛にも苦しんでいた。今は催眠で無理やり眠らせておるが、どうも症状が良くならん。人間世界では、この場合どうするのじゃ?」
少しツッコミたいところがあったが、そこはあえてスルーして、優輝は質問に答えた。
「普通なら病院に行って、適切な薬を頂き飲む。あとは栄養のあるものを食べて、体をしっかりと休めるんです。そうすれば体は回復し、熱も下がりますよ。ただ、これはあくまで俺のような人間の治療法です。あやかしである銀籠さんに効くかどうか…………」
「ふむ、そうか…………」
腕を組み、銀は険しい顔を浮かべる。
少しでも早く、息子である銀籠を楽にしてあげたいと考えているのは表情からでも十分伝わり、優輝も眉を下げ共に悩んだ。
「…………あの、もし良かったら俺の家に来ませんか?」
「ん? 九重家にか?」
「はい。森だと栄養の良い食べ物を探すのも大変でしょう。これからの季節は食べ物事態取るのが難しいと、銀籠さんは言っていました。なので、もし良かったら俺の家で冬の間だけでも過ごさないかなと思って。もちろん、銀籠さんの周りには俺以外の人は近寄らせないようにします」
優輝の提案に、銀は思わず頷きそうになる。
優輝の提案は、銀にとっては良い条件。
病気の銀籠をすぐに治す事が出来るかもしれないし、温かい寝床も確保できる。
食べ物にも困らず、狩人に怯えなくてもいい。
今までにない環境で、安心しながら生活が出来るだろう。
だが、それはあくまで銀にとっての話だ。
人間恐怖症である銀籠にとっては、人が住む九重家は地獄。
いつでもどこでも人の気配を感じてしまい、人払いをすると言っても出くわしてしまう可能性がある。
銀籠の意見を聞かずに、そう簡単に頷ける提案ではない。
銀の葛藤を察し、優輝はその場に立ち上がった。
「今すぐに決めてほしいわけではありません。とりあえず、今は銀籠さんの体調最優先ですね。今から一度家に帰り、なにか栄養になりそうなものを持ってきます。何かアレルギーなどはありますか?」
「いや、特にはないと思うが…………」
「わかりました。人間の食べ物で食べては駄目なものなどはありますか? 玉ねぎやチョコレートなどなど」
「わしらは猫や犬と言った動物ではなくあやかしじゃぞ、馬鹿にしておるのか?」
「少し聞いただけじゃないですか……。ひとまず、わかりました。少しお待ちください、夕方過ぎくらいには戻って来れると思います」
言うと、優輝は小屋の外に出てしまった。
銀は唸っている銀籠の頭を撫でながら、ドアの方をちらっと見る。
「…………本当に好きなんじゃなぁ、銀籠のこと」
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