人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
13 / 48
秋晴れ

「もし良かったら俺の家に来ませんか?」

しおりを挟む
 銀についていくこと数分、数本の木に隠れるように小屋がポツンと建っているのが見えてきた。

「着いたぞ。銀籠、体調はどうじゃ?」

 銀が小屋の扉を開け、中に入りながら寝ているであろう銀籠に声をかけた。
 優輝も銀の後ろを付いて行き、小屋の中に入る。

 中は囲炉裏のある部屋一つのみ。
 火をおこし、部屋の中を温めていた。

 その隣では、布団にくるまり赤い顔で寝ている銀籠の姿。

「っ、銀籠さん」

 銀籠の姿を見て、優輝は一瞬駆けだしてしまいそうになるが、近づいては駄目だとすぐに止まる。

 銀は銀籠の隣に移動し、額に乗せているタオルを掴み、近くに置かれている水の張った桶に入れた。

 濡れたタオルを取り出すと、しっかりと搾り再度銀籠の額に置く。

 出入口付近から動かない優輝は、辛そうに寝ている銀籠を見て、近づかなくても出来ることはないか思考を巡らせる。

「…………優輝よ、こっちに来い」

「え、いいのですか? 寝ているとはいえ、人間である俺が近づいたら駄目じゃないでしょうか。目でも覚ましてしまえば、症状が悪化してしまうかもしれないですよ」

「問題ない、心配なんじゃろう?」

 ちょいちょいと手招きされる。
 心配で仕方がない優輝は、そんなことを言われてしまえば我慢できない。
 躊躇いながらも、ゆっくりと近づく。

 銀の隣に座り、銀籠の顔を覗き込んだ。

「…………辛そう」

「熱が高いんじゃよ。寒気もあり、頭痛にも苦しんでいた。今は催眠で無理やり眠らせておるが、どうも症状が良くならん。人間世界では、この場合どうするのじゃ?」

 少しツッコミたいところがあったが、そこはあえてスルーして、優輝は質問に答えた。

「普通なら病院に行って、適切な薬を頂き飲む。あとは栄養のあるものを食べて、体をしっかりと休めるんです。そうすれば体は回復し、熱も下がりますよ。ただ、これはあくまで俺のような人間の治療法です。あやかしである銀籠さんに効くかどうか…………」

「ふむ、そうか…………」

 腕を組み、銀は険しい顔を浮かべる。
 少しでも早く、息子である銀籠を楽にしてあげたいと考えているのは表情からでも十分伝わり、優輝も眉を下げ共に悩んだ。

「…………あの、もし良かったら俺の家に来ませんか?」

「ん? 九重家にか?」

「はい。森だと栄養の良い食べ物を探すのも大変でしょう。これからの季節は食べ物事態取るのが難しいと、銀籠さんは言っていました。なので、もし良かったら俺の家で冬の間だけでも過ごさないかなと思って。もちろん、銀籠さんの周りには俺以外の人は近寄らせないようにします」

 優輝の提案に、銀は思わず頷きそうになる。

 優輝の提案は、銀にとっては良い条件。
 病気の銀籠をすぐに治す事が出来るかもしれないし、温かい寝床も確保できる。

 食べ物にも困らず、狩人に怯えなくてもいい。
 今までにない環境で、安心しながら生活が出来るだろう。

 だが、それはあくまで銀にとっての話だ。
 人間恐怖症である銀籠にとっては、人が住む九重家は地獄。

 いつでもどこでも人の気配を感じてしまい、人払いをすると言っても出くわしてしまう可能性がある。

 銀籠の意見を聞かずに、そう簡単に頷ける提案ではない。

 銀の葛藤を察し、優輝はその場に立ち上がった。

「今すぐに決めてほしいわけではありません。とりあえず、今は銀籠さんの体調最優先ですね。今から一度家に帰り、なにか栄養になりそうなものを持ってきます。何かアレルギーなどはありますか?」

「いや、特にはないと思うが…………」

「わかりました。人間の食べ物で食べては駄目なものなどはありますか? 玉ねぎやチョコレートなどなど」

「わしらは猫や犬と言った動物ではなくあやかしじゃぞ、馬鹿にしておるのか?」

「少し聞いただけじゃないですか……。ひとまず、わかりました。少しお待ちください、夕方過ぎくらいには戻って来れると思います」

 言うと、優輝は小屋の外に出てしまった。
 銀は唸っている銀籠の頭を撫でながら、ドアの方をちらっと見る。

「…………本当に好きなんじゃなぁ、銀籠のこと」

 クククッと笑い、銀は桶の中に入っている水を入れ替えようと、近くを流れている川へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...