人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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秋晴れ

「直接カップを渡す事が出来ちゃった」

 銀籠は、優輝からカップを手渡しされたことに気づかず受け取り、蓋を開ける。

 優輝は渡した体勢で固まり「……え?」と、惚けた顔を浮かべていた。
 それは、銀も同じで、目を丸くし感心の声を上げる。

 二人の事など視界に入っていない銀籠は、まだ湯気が上っているスープに、ふぅふぅと息を吹きかけ、ゴクッと飲んだ。

「――――はぁ、温かい」

「俺の心も温かい、ありがとうございます」

「優輝とやら、胸を押さえて大丈夫か? なんか、頭がおかしくなっとらんか?」

 味噌汁を飲んだ銀籠の姿に、優輝は胸を打たれその場に蹲る。

 自分の手からカップを受け取ったなどといった出来事もあり、優輝は尊さで瀕死。

 銀が呆れながら背中を撫でている間、銀籠は味噌汁を楽しんでいた。

 全て飲み終ると、カップを床に置く。
 銀が回収し、幸せそうにデレデレとした顔を浮かべている優輝に渡した。

「沢山食べれたな、えらいぞ銀籠」

「んっ…………」

 銀が笑みを浮かべ頭を撫でると、背後から殺気に近いものを感じ振り向いた。

 じとっと、先程とは打って変わって、憎しみの込められた瞳と目が合ってしまい、口元を引き攣らせる。

「ずるいです、俺と場所を交代してください」

「無茶を言うな…………」

 優輝の愛が重く、銀はため息を吐くしかない。
 その時、銀籠が欠伸を零し眼を擦った。

「物を食べたから眠くなったのじゃろう。片づけはしておく、気にせず寝るが良い」

「んっ…………」

 言われたまま横になり、銀籠は目を閉じる。
 かけ布団を肩までかけてあげ、銀は床に置かれたカップを優輝に渡した。

「今日は助かった、礼を言うぞ」

「いえ、自分の為なので。では、これ以上ここに居ると迷惑になってしまいますので、今日はこれで失礼しますね。また明日来ます」

「待っておるぞ」

 カップを入れてきた鞄に空のカップも入れて、優輝は小屋から出た。

 ガシャガシャと音を鳴らしながら森の中を歩いていると、途中何かを思い出し足を止める。

「…………銀籠さんに直接カップを渡す事が出来ちゃった、出来ちゃったよぉぉおお」

 乙女のように高揚した頬を抑え優輝は喜び、スキップで帰宅していった。

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「今更ながら気づくか」

「うるさい、父上は黙ってて…………」

「やれやれ」

 銀籠も、やっと優輝から直接カップを受け取ったことを気づき、元々赤かった顔がゆでだこ以上に赤くなり、かけ布団に顔を埋めていた。

「これは、結構進展が早いかもしれぬな」

 銀籠の様子を見て、銀はクスクスと笑い、銀籠の背中を撫でてあげた。

 ※

 次の日に優輝が小屋へ行くと、銀籠はだいぶ回復していた。

 まだ布団の上に座ってはいるが、顔色も昨日よりマシになっている。

「体の調子は大丈夫? まだ熱あるの?」

「昨日ほどではない。意識もしっかりしておるから問題ないぞ」

「それなら良かった」

 銀籠からの返答に、優輝は安堵の息を吐く。

「…………うむ、良かったのだが………。まだ本調子ではないから、声が聞き取りにくいぞ。そんなに離れなくてももう良い。だから、もう少しこちらに寄ってくれぬか?」

 銀籠と出来る限り距離を取る為、優輝は出入り口付近を陣取っていた。
 だが、それではまだ本調子では無い銀籠の耳に優輝の声は届きにくい。

 今では優輝に慣れてきたため、もう少し近づいても大丈夫と伝えるとものすごく喜び、いそいそと銀籠へと近づいた。

 途中、本当に大丈夫なのか銀籠の表情を伺うが、特に変わらない。
 流石に隣まで行くと嫌だろうかと深く考えてしまい、腕二本分の距離で止まった。

「このくらいなら大丈夫かな」

「確かに声もしっかり届くが……まぁ、良い」

 何やら落ち込んでいるように見える銀籠に、優輝は首を傾げたのち、顔を真っ青にした。

「い、いきなり近づきすぎた? え、ご、ごめん。我慢しなくていいんだよ? 怖いよね、怖いよね、ごめん」

 またしても出入口に下がってしまった優輝。

「あっ」

 銀籠は、戻ってしまった優輝を見て残念そうな声を漏らすが、これ以上何も言えず視線を落とす。

 二人のかみ合っていない様子に、ずっと傍観を勤めていた銀は狼姿で身体を震わせ、笑いだした。

「~~~~~!!! ぬしらはわざとか!? わざとなのか!? お笑いでも繰り広げておるのか!?」

 床を叩き爆笑している銀を目の前にし、優輝と銀籠の目はキョトンと丸くなる。

 なぜ笑っているのかわからず、何がわざとと言われているのか見当がつかない。
 そのため、首を傾げるしかなく、顔をお互い見合わせた。

「まさか、本当にわざとではないのか? え、本当に?」

「父上が何を言いたいのかわからぬが、我はふざけてなどおらぬぞ」

「俺も同じく、ふざけていることなど一度もありませんよ?」

 二人の反応に、今度目を丸くしたのは銀の方。

 二人の微妙な距離感は、相手を心から想ってのもの。
 相手を労り、考え接しているため、それが逆に仇となり、距離が今以上に縮まらない。

 二人のすれ違いに気づいている銀が何か助言をするべきなのか、それとも見守るべきかなのか、冷や汗を流しつつ考える。

「…………あ、あのな? 銀籠はもう――」

 銀が二人の助言になるような言葉を伝えようと銀籠を見た時、銀の瞳に映ったのは、一人の女性。

 黒く、腰まで長い髪、赤い着物。
 口元には笑みが浮かび、凛々しい姿で銀を見ていた。

 女性は、音にならない声で銀に言葉を伝えた。


 ……………………――――――――。


 口の動きだけで女性が何を言いたいかわかった銀は、開きかけた口を閉ざす。

 銀籠と優輝は、何故銀が何も言わなくなったのかわからず首を傾げた。

「父上? どうしたのだ?」

「…………いや、何でもない。わしは少々外に出る。二人の時間を楽しむがよい」

 のそりと体を起こすと、銀は二人を残し小屋を出る。
 外に出た銀は、青空を見上げ目を輝かせた。

「――――――――愛華、教えてくれてありがとうのぉ」

 呟いた銀の後ろには、微笑みを浮かべ、銀籠と同じ銀色の瞳を向けている先程の女性。

 口を微かに動かしたかと思うと、そのまま姿を消した。

 最後に伝えた言葉は――……

『息子をよろしくね、銀様』
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