54 / 57
水の退治屋
「ください」
しおりを挟む
炎狐の背中に乗り、地上へと向かう星桜と女性。
振り落とされないように炎狐に捕まりつつ、星桜は弥幸が心配で後ろを何度も振り向いた。
「赤鬼君、私は何をすればいいの……」
女性は星桜の服を掴み、何も話さない。
そのうち、前方が徐々に明るくなる。
「っ、外だ!!」
炎狐は光に向かって走り、外へと出た。
外はもう明るくなっており、太陽が登りきっている。
今まで暗い所に居たため太陽の光が眩しく、目を細めた。
炎狐は外に出たのと同時に地面に着地し、星桜は直ぐに降りて地下に戻ろうと走り出す。
それを、女性が服を握り止めた。
「待って、戻ってはダメ」
「でもっ──」
「貴方が戻ってしまったら、あの方はなんのために私達を逃がしてくれたのか分からなくなるわ」
その言葉に、星桜は言葉を詰まらせた。
再度、地下を振り向き、険しい顔を浮かべた。
足を止めた星桜を見て、女性は掴んでいた腕を離した。
「貴方は、あの人とは伴になっているの?」
女性からの問いかけに、星桜はゆっくりと首を振る。
「そう……。精神のコントロールは出来る?」
「少しだけ。でも、赤鬼君の力がないとまだ無理です」
服を掴み、自身の情けなさに打ちひしがれる。
その時、女性が力の入っている星桜の手を優しく包み、顔を上げさせた。
「おそらく、この場をどうにかできるのは貴方だと思います。貴方が、鍵になっています」
女性が何を言いたいのか、星桜には分からない。
「なんの、話……?」
「伴になっていなくても、相手の神力を操作出来るの。でも、それをするには甚大なる集中力と、相手への強い信頼が必須だったはず」
「信頼……?」
「そう。相手を信じる強い想い。私は、貴方達なら出来ると思う。さっきの会話を見ている限り……」
目を細め、星桜を見定めるように見る。
今の説明を聞いて、星桜の胸には不安と罪悪感が芽生え、泣きそうに顔を歪ませた。
星桜は、最近精神力のコントロール修行を始めたばかり。いきなりそのような事を言われてもできるとは到底思えない。
それに、弥幸はいつも合理的で自分主義。
確実に成功することしかやらないため、今回のような賭けに乗るなど、星桜には思えなかった。
「……私には、むずかっ──」
星桜が首を横に振ろうとした時、地下から地響きと共に爆発音が聞こえた。
「な、なに!?」
地響きにより、元々弱っていた女性は簡単に地面に膝を着き倒れてしまった。
星桜は女性に手を伸ばそうと動いたが、突如地下室の出入口から大量の水が溢れ出るのを目にし、驚愕した。
「っ、赤鬼君?!」
大量の水の中には、碧輝が弥幸の両腕を掴み身動きを封じていた。
碧輝の頭やお尻には、狼のような半透明な水の耳や尻尾が生えている。
弥幸の腕を掴んでいる手は、動物の手のように爪が鋭く尖り、少しでも掠れば深く切れてしまいそう。
弥幸は、星桜と女性を確認すると、口を大きく開き、叫んだ。
「逃げろぉぉぉぉ!!!!!!」
いきなりの言葉に星桜は思考が追いつかず、動けない。
その時、目の端に勢いよく星桜に向かって来る何かが見えた。
咄嗟に後ろへと避けようとしたが、足がもつれてしまい転んでしまった。
だが、それが幸をそうし、飛んできたものから避けられた。
横を確認すると屋敷を囲い立っている木に、水の弓矢が刺さっているのが見えた。
「な、なに……」
何が起きたのか分からない星桜は、体を震わせ弓矢を凝視する。
反対側から足音が聞こえ、振り向いた。
そこには、先程と変わらない。口角を上げ、優しげな笑みを浮かべている魅涼が星桜に歩いていた。
「み、魅涼、さん?」
顔は笑っているが、目はまったく笑っていない。
纏っている空気が異様で、星桜は体に悪寒が走る。すぐに立ち上がり、後ずさった。
女性は魅涼を目にした途端、頭を抱え何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と目に涙をうかべ、謝罪を繰り返し始めた。
星桜は、その様子を横目で見て眉を顰める。
「翡翠さん」
名前を呼ばれ、再度魅涼を見る。
体をカタカタを震わせながら、星桜は問いかけた。
「一体、なにがしたいのですが、貴方達」
星桜の問い、魅涼はニヤリと笑い、下唇を舐めた。
「単純ですよ。私は貴方が欲しいのです。貴方の持っている、精神の核を──」
魅涼は、誘うように右手を星桜へと差し出した。
「ください。貴方の精神の核を。そうすれば、私はもう何も考えなくていい。我慢しなくていい。こんなまどろっこしいことをしなくてもいいのですよ。貴方さえいれば全てが解決するのです。なぜなら、貴方の精神の核は、普通の人とは違うのだから!!!!」
徐々に落ち着きを失っていく魅涼は、興奮するように顔を高揚させ星桜を求める。
その様子を見て星桜は顔を青くし、悲しげな瞳を浮かべた。
「貴方はただ、精神の核が欲しいだけなの? 欲しいだけなのにこんなことしたの? 早く赤鬼君に攻撃するのを止めて!!!」
星桜は横で碧輝と殺り合っている弥幸を指さしながら叫ぶ。
弥幸は掴まれていた腕を振り払うため、空中にいる間に体を捻り右足で碧輝の横腹を蹴った。
防ぐため、手を離した碧輝の腕を蹴り、瞬時に離れ地面へと着地する。
碧輝も地面へと着地し、休む暇を与えず鋭く光っている爪を向けた。
その爪を、弥幸は刀で受け止める。そのまま、碧輝の右腕目掛けて左足を蹴りあげた。だが、防がれる。
どちらも引かない攻防を見て、魅涼は眉を下げ困ったような表情を浮かべた。
「あの方が牙を向けてくるので仕方がないのですよ。私もなるべくならこんな手荒な真似、したくありませんよ」
言葉とは裏腹に、口元には変わらず笑みを浮かべていた。
「なので、素直にこの手を、とってくださいませんか?」
スッと、開かれた黄色の瞳が星桜を射抜く。
初めて見た彼の瞳は、闇が覆っているように、深い黄色をしていた。
振り落とされないように炎狐に捕まりつつ、星桜は弥幸が心配で後ろを何度も振り向いた。
「赤鬼君、私は何をすればいいの……」
女性は星桜の服を掴み、何も話さない。
そのうち、前方が徐々に明るくなる。
「っ、外だ!!」
炎狐は光に向かって走り、外へと出た。
外はもう明るくなっており、太陽が登りきっている。
今まで暗い所に居たため太陽の光が眩しく、目を細めた。
炎狐は外に出たのと同時に地面に着地し、星桜は直ぐに降りて地下に戻ろうと走り出す。
それを、女性が服を握り止めた。
「待って、戻ってはダメ」
「でもっ──」
「貴方が戻ってしまったら、あの方はなんのために私達を逃がしてくれたのか分からなくなるわ」
その言葉に、星桜は言葉を詰まらせた。
再度、地下を振り向き、険しい顔を浮かべた。
足を止めた星桜を見て、女性は掴んでいた腕を離した。
「貴方は、あの人とは伴になっているの?」
女性からの問いかけに、星桜はゆっくりと首を振る。
「そう……。精神のコントロールは出来る?」
「少しだけ。でも、赤鬼君の力がないとまだ無理です」
服を掴み、自身の情けなさに打ちひしがれる。
その時、女性が力の入っている星桜の手を優しく包み、顔を上げさせた。
「おそらく、この場をどうにかできるのは貴方だと思います。貴方が、鍵になっています」
女性が何を言いたいのか、星桜には分からない。
「なんの、話……?」
「伴になっていなくても、相手の神力を操作出来るの。でも、それをするには甚大なる集中力と、相手への強い信頼が必須だったはず」
「信頼……?」
「そう。相手を信じる強い想い。私は、貴方達なら出来ると思う。さっきの会話を見ている限り……」
目を細め、星桜を見定めるように見る。
今の説明を聞いて、星桜の胸には不安と罪悪感が芽生え、泣きそうに顔を歪ませた。
星桜は、最近精神力のコントロール修行を始めたばかり。いきなりそのような事を言われてもできるとは到底思えない。
それに、弥幸はいつも合理的で自分主義。
確実に成功することしかやらないため、今回のような賭けに乗るなど、星桜には思えなかった。
「……私には、むずかっ──」
星桜が首を横に振ろうとした時、地下から地響きと共に爆発音が聞こえた。
「な、なに!?」
地響きにより、元々弱っていた女性は簡単に地面に膝を着き倒れてしまった。
星桜は女性に手を伸ばそうと動いたが、突如地下室の出入口から大量の水が溢れ出るのを目にし、驚愕した。
「っ、赤鬼君?!」
大量の水の中には、碧輝が弥幸の両腕を掴み身動きを封じていた。
碧輝の頭やお尻には、狼のような半透明な水の耳や尻尾が生えている。
弥幸の腕を掴んでいる手は、動物の手のように爪が鋭く尖り、少しでも掠れば深く切れてしまいそう。
弥幸は、星桜と女性を確認すると、口を大きく開き、叫んだ。
「逃げろぉぉぉぉ!!!!!!」
いきなりの言葉に星桜は思考が追いつかず、動けない。
その時、目の端に勢いよく星桜に向かって来る何かが見えた。
咄嗟に後ろへと避けようとしたが、足がもつれてしまい転んでしまった。
だが、それが幸をそうし、飛んできたものから避けられた。
横を確認すると屋敷を囲い立っている木に、水の弓矢が刺さっているのが見えた。
「な、なに……」
何が起きたのか分からない星桜は、体を震わせ弓矢を凝視する。
反対側から足音が聞こえ、振り向いた。
そこには、先程と変わらない。口角を上げ、優しげな笑みを浮かべている魅涼が星桜に歩いていた。
「み、魅涼、さん?」
顔は笑っているが、目はまったく笑っていない。
纏っている空気が異様で、星桜は体に悪寒が走る。すぐに立ち上がり、後ずさった。
女性は魅涼を目にした途端、頭を抱え何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と目に涙をうかべ、謝罪を繰り返し始めた。
星桜は、その様子を横目で見て眉を顰める。
「翡翠さん」
名前を呼ばれ、再度魅涼を見る。
体をカタカタを震わせながら、星桜は問いかけた。
「一体、なにがしたいのですが、貴方達」
星桜の問い、魅涼はニヤリと笑い、下唇を舐めた。
「単純ですよ。私は貴方が欲しいのです。貴方の持っている、精神の核を──」
魅涼は、誘うように右手を星桜へと差し出した。
「ください。貴方の精神の核を。そうすれば、私はもう何も考えなくていい。我慢しなくていい。こんなまどろっこしいことをしなくてもいいのですよ。貴方さえいれば全てが解決するのです。なぜなら、貴方の精神の核は、普通の人とは違うのだから!!!!」
徐々に落ち着きを失っていく魅涼は、興奮するように顔を高揚させ星桜を求める。
その様子を見て星桜は顔を青くし、悲しげな瞳を浮かべた。
「貴方はただ、精神の核が欲しいだけなの? 欲しいだけなのにこんなことしたの? 早く赤鬼君に攻撃するのを止めて!!!」
星桜は横で碧輝と殺り合っている弥幸を指さしながら叫ぶ。
弥幸は掴まれていた腕を振り払うため、空中にいる間に体を捻り右足で碧輝の横腹を蹴った。
防ぐため、手を離した碧輝の腕を蹴り、瞬時に離れ地面へと着地する。
碧輝も地面へと着地し、休む暇を与えず鋭く光っている爪を向けた。
その爪を、弥幸は刀で受け止める。そのまま、碧輝の右腕目掛けて左足を蹴りあげた。だが、防がれる。
どちらも引かない攻防を見て、魅涼は眉を下げ困ったような表情を浮かべた。
「あの方が牙を向けてくるので仕方がないのですよ。私もなるべくならこんな手荒な真似、したくありませんよ」
言葉とは裏腹に、口元には変わらず笑みを浮かべていた。
「なので、素直にこの手を、とってくださいませんか?」
スッと、開かれた黄色の瞳が星桜を射抜く。
初めて見た彼の瞳は、闇が覆っているように、深い黄色をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる