魔王自ら勇者を育成してやろう!

フオツグ

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第二部 冒険者になってやろう!

第三十四話 砂漠を越えてやろう!

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 我が輩は美術館の外に出て、待機していたコレールとボースハイトと合流した。
 それから数時間後、ようやくグロルとバレットが美術館から出て来た。

「おい、コレール、ボース、聞いてくれよ! 大怪盗が現れたんだ!」

 グロルは目をらんらんと輝かせてそう言った。

「大怪盗……?」

 我が輩は首を傾げた。
 フラットリーの遺骨が消えた話ではないのか?

「俺達が見てる目の前で、フラットリーの遺骨を華麗に盗んでいきやがっただよ!」
「なんかそうっぽいね」

 ボースハイトに驚いた様子はない。
 彼は《思考傍受》で周りの人間が噂しているのを聞いたのだろう。
 それにしても、フラットリーの遺骨が盗まれただけなのに、どうして大怪盗が現れたことになるのやら……。

「そんなに興奮するもの? ただの盗人でしょ」
「情緒がねえなあ、ボース。一度は憧れるだろ! 高価なものを華麗に盗み出す美しい大怪盗!」
「よくわかんない」

 ボースハイトは肩をすくめた。
 我が輩もよくわからない。
 グロルは展覧客だ。
 展覧会の目玉を途中で盗まれたなら、憤慨するものだろうに。

「グロル達は、だ、大丈夫だったのか? 怪我とか」

 コレールが尋ねる。

「おう。本当に鮮やかだったぜ。瞬きしてる間にフラットリーの遺骨がなくなってた!」
「そういう話を、してるんじゃないんだけど……」
「俺、警備隊に事情聴取されちゃったよ! 人生初の事情聴取! わくわくしたぜ!」
「ああ。だから、出て来るのが、遅かったのか」

 早めに出て来て正解だった。
 事情聴取なんて面倒臭いことこの上ない。
 犯人なら尚更。

「ウィナって、騒ぎになって直ぐ出て来たんだけど、その場にいなかったの?」
「いや? いたぜ」
「ふーん……」

 ボースハイトはじっと我が輩を見つめる。
 ボースハイトには、《収納》も《認識阻害》も見せている。
 我が輩が犯人だと勘づいたのかもしれない。
 グロルは大怪盗とやらに興奮して違和感に気づいていないようだ。
 コレールは我が輩達の心配をするのに手一杯なようだ。
 たった一人気づいたボースハイトは、こちらを見てニヤニヤ笑うだけで、我が輩を追求する気はない様子だ。
 その方が我が輩も楽だ。

「話は変わるが、次に受ける依頼を我が輩が選んでおいてやったぞ」
「え!? いつの間に……」

 コレールが驚く。

「グロルとバレットを待つ間暇だったから、散歩ついでに冒険者ギルドに行っていた」
「で、何の依頼?」

 ボースハイトが聞いた。
 我が輩はフッと笑い、四人に依頼書を見せる。

「ゾンビの討伐依頼だ」

 依頼書によれば、墓地からゾンビが出現し、近隣の村を襲っているという。
 そのゾンビを何匹か討伐して欲しい、という依頼だ。
 ボースハイトは依頼書に目を通して言った。

「場所は砂漠の真ん中だね」
「そうなのか?」
「いや、お前が選んだ依頼なんだから、下調べくらいしろよ」
「さっき選んだ依頼なのだ。下調べする時間なんてなかろう」

 ボースハイトは呆れた顔をした。

「砂漠はかなり熱いから、具合悪くなったら早めに言えよ」

 ボースハイトの忠告に、我が輩達は頷いた。

 □

 砂漠。
 照りつける日差しから我々を守ってくれるものは、この不毛な土地にはない。
 砂に足を取られつつ、我が輩達は砂漠を進んでいた。
 前を見ても、地平線が延々と広がっているだけだ。
 全く前に進んでいないような錯覚さえ覚える。

「そ、想像以上に熱い、な……」

 コレールは滝のように流れる汗を腕で拭う。

「防具、脱ぎたい……」
「こういうのって、脱いだ直後に魔物から襲われたりするんだよねえ」
「う、やっぱり、我慢する……」

 コレールの横で、ボースハイトは魔法の冷風を浴びながら、《浮遊》魔法でふわふわ浮いている。
 コレールは羨ましそうにボースハイトを見た。

「その魔法、良いな……。ボース、教えてくれないか」
「良いよ」

 そう言って、ボースハイトはコレールを宙に浮かせた。

「うわあ! 浮く魔法の方じゃ、なくて!」
「くすくす」

 ボースハイトは悪戯っぽく笑った。
 コレールを弄んでいる。
 バレットとグロルは我が輩達から一歩後ろを歩いていた。
 我が輩とバレットの体は擬態体──魔法で形作られた体であるから、魔法での体温調節は比較的簡単だ。
 ただ、砂上の歩きにくさはどうにもならない。

「グロルくん、大丈夫ですかな?」

 バレットがグロルの顔を見て尋ねた。
 グロルの顔は真っ赤で、肩で息をしている。

「へ……?」
「顔色が悪いようなので……。少し休憩しますかな?」
「これくらい何ともないっすよ! へ、へへへ……」

 とは言いつつも、グロルの足取りは重い。
 グロルに合わせるため、我が輩達の歩きも必然と遅くなる。
 ここは砂漠の真ん中だ。
 いつ砂漠の魔物とエンカウントしてもおかしくない。
 そのとき、ドン、と大きな音がして、足場が大きく揺れた。
 グロルがバランスを崩して、その場に尻餅をつく。

「じ、地震!?」
「いや、これは……」

 地中から砂をかき分け、自身の元凶は姿を現した。

「サンドワームだ!」

 砂に住まう虫の魔物、サンドワーム。
 砂漠地帯には、必ずこいつが地中に潜んでいる。
 サンドワームは長い胴体をうねうねと動かし、複数の足をバラバラと動かしている。

「グロル! 能力上昇魔法頼む!」

 コレールが体勢を立て直し、拳を構えた。
 そのとき、異変は起きた。

「あ……?」

 グロルがよろめき、後ろに勢いよく倒れた。

「グロル!?」

 □

「──熱中症ですな」

 バレットがグロルを診て、冷静に言う。
 サンドワームはグロル以外の全員で倒せた。
 しかし、グロルの体調はあまり良いとは言えない。
 グロルは顔を真っ赤にしながら、肩で呼吸を続けている。
 魔法で作った氷を頭と首に当てて、グロルの体温を下げようと試みる。
 しかし、砂漠の真ん中では、氷なんて直ぐに溶けてしまう。

「はあ~!? 熱中症!?」

 ボースハイトは足を揺らし、怒りを露わにしている。

「僕、具合悪くなったら言えって言ったよね!? ぶっ倒れるまで言わないなんて信じらんない!」
「ごめん……。みんなに、迷惑かけるって、思って……」
「ぶっ倒れられる方が迷惑なんだけど!?」
「ぼ、ボース、落ち着いて」

 コレールが嗜めようとするが、ボースハイトはますますヒートアップする。

「砂漠のど真ん中で足止め食らうなんて、本当最っ悪! 自分の健康管理くらいちゃんとしろよな! 子供じゃないんだからさあ!」
「ごめん……」
「はあ~! 早く砂漠抜けたいってのにお荷物増えちゃったじゃん!」

 グロルが何も言わないかと思ったら、ぽつりと小さく呟いた。

「そんな言い方ねーじゃん……」
「はあ? お前、自分のこと棚に上げる訳? 病人だからって怒られないとでも思ってる? 自業自得なのに?」
「ボース! 今は、文句を言ってる場合じゃないだろ!」

 コレールがボースハイトを強い口調で咎める。

「熱くて、イライラしてるのは、お前だけじゃない。今は、グロルが少しでも回復するのを、待とう」
「熱砂のど真ん中で待てだって? 嫌だね。僕は先に行くよ。依頼書の墓地前で落ち合うってことで」
「一人じゃ、危険だ……!」
「ご心配なく。僕は元々、一人で世界中を旅してたんだ。お前らがいなくても平気だよ」

 ボースハイトは背を向けて歩き出した。
 直ぐにボースハイトの姿は見えなくなった。

「本当に、行っちゃった……」

 コレールはグロルに近寄って、しゃがみ込む。

「グロル、ごめんな……」
「なんでコレールが謝んだよ……。今のはボースが悪いだろ」
「ボースは、グロルを心配して、強く言ったんだと思う。もしグロルの不調の発覚が遅れて、手遅れになったりしたら……俺も嫌だし、早く言ってくれたら、って思うから……」

 グロルは何も言わずに聞いている。
 具合が悪いからなのだろうか、それとも何か思うところがあるからなのだろうか。

「ボースのこと、許してやってくれ。あと、具合が悪くなったら、遠慮せず、言ってくれ。俺達はパーティなんだから」
「ああ……。悪ぃ」

 ボースハイトの件が一段落したのを見て、我が輩は口を開く。

「とりあえず、グロルの体を冷やしたら良いのか?」
「え? ま、まあ……」
「では、《吹雪》を浴びせてやろう」
「え!?」

 我が輩はグロルの全身に、冷風を浴びせかけた。
 真っ赤だったグロルの顔が、どんどん真っ白になっていき、ガタガタと震え出した。

「さ、さ、寒ぃー!」
「ウィナー!」

 我が輩はコレールに滅茶苦茶怒られた。
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