魔王自ら勇者を育成してやろう!

フオツグ

文字の大きさ
49 / 56
第三部 決着をつけてやろう!

第四十八話 決着をつけてやろう!

しおりを挟む
 フラットリーがラウネンの横に立つ。
 ラウネンの仲間であることを示すように。
 ラウネンは両手を広げて、新しく仲間にしたグロルを歓迎した。

「さあさあさあ! 一緒にウィナを殺そう!」
「はい。殺しましょう……」

 グロルはラウネンとフラットリーに歩み寄り始める。

「目を覚ますんだ、グロル!」

 それをコレールは黙って見てられず、叫んだ。

「ウィナは仲間だろう!? 一緒にボースを取り戻すんだろう!?」
「思い出したんだよ。ウィナは俺の親の仇だって。だから、殺さなきゃならない」

 グロルは目は座っている。
 ラウネンの嘘を完全に信じきっているようだった。
 こうなるのならちゃんと、ラウネンに目を光らせておくべきだった。
 いや、もっと前からそうするべきだったのだ。
 そうすれば、ボースハイトもグロルも……ラウネンの奴に掠め取られずに済んだ。
 グロルがラウネンの前に辿り着く。

「さあ、ラウネン様。何なりとご命令を……」

 ラウネンは満足そうに笑っていた。

「──なんて言うとでも思ったか!? ばあああか!」

 突然、グロルはそう叫んで、ラウネンの横に立っていたフラットリーに飛びついた。
 フラットリーはバランスを崩して後ろに倒れる。

「捕まえたぜ、ボース! お前が戻ってくるまで絶対離さねえからな!」

 グロルはフラットリーにしたり顔を見せた。

「こいつまさか、そのつもりで……!?」

 揉み合う二人の横で、ラウネンが叫ぶ。

「どういうこと!? キミには嘘の記憶を植え付けたのに……!?」
「そんなの演技に決まってんだろ!? 嘘はなあ、俺だって吐き続けてきたんだ!」

 グロルは魔族だと疎外されないように、フラットリー教徒を何年も演じていた。
 その演技力が生来の嘘つきのラウネンすら騙したとでも言うのか!

「それに俺の親は俺を捨てたクソ親だ! 仇なんて死んでも討ってやるもんかよ! 嘘つくんなら、もっと上手につくんだな!」

 ラウネンはぐしゃぐしゃと頭をかいた。
 何千年も前から嘘を吐き続けてきたラウネンにとって、その言葉は屈辱的だろう。
 ラウネンはグロルから逃れようと身を捩るフラットリーを睨みつけた。

「この馬鹿フラットリー! なんで気づかなかったのっ!? 思考を読むが専売特許っていう設定だったじゃんっ!」
「すみません!」

 フラットリーはグロルの頭を鷲掴み、今になってグロルに《思考傍受》を使う。
 グロルはそれに臆することなく、フラットリーの手に自身の頭を押し付けた。

「読みたいならいくらでも読めよ。お前と戦ったこと。お前と旅したこと。お前と喧嘩したこと! お前が忘れちまったお前のこと、全部覚えてるからな!」

 衝撃を受けたようにフラットリーは固まった。
 グロルの頭の中に何が浮かんでいたのだろう。
 フラットリーは驚くような何かがあったのか。

「……もう良い! 殺す!」

 見かねたラウネンがグロルを手にかけようと掴みかかる。
 我が輩がそれを阻止する前に、コレールがラウネンにタックルした。

「させるか!」
「ちょこざいなっ……! みんなみんな殺してやるんだからあっ!」

 我が輩はラウネンの肩を掴む。
 激昂するラウネンの背後に回り込むのは簡単だった。

「貴様の相手は我が輩だ」

 ラウネンは顔を真っ青にして振り返る。
 我が輩の顔など見る暇も与えずに殺した。
 そして、また元に戻ったら殺すを繰り返す。
 今度は逃がさないように細心の注意を払って。

 □
 
 グロルはフラットリーの服に顔を押しつけて微動だにしない。
 フラットリーはグロルの襟を後ろに引っ張った。

「離れてくれ」
「離さねえ。絶対。戻ってくるまで」
「どうしてそこまでするんだい? 君はボースハイトのことを嫌っていたじゃないか」
「嫌いだよ」
「……はあ?」
「嫌味言うし、人が嫌がること喜んでするし、甘いもの好きだし、自己中だし、気紛れだし、本当に迷惑だった」
「だったら……」
「だけど」

「いなくなって欲しくはなかったんだ……」とグロルは震える声で言った。
 グロルがバッと顔を上げる。

「戻って来いよぉ……。まだ、仲直りしてねーじゃんかぁ……」

 グロルの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
 フラットリーはそれを見て、面食らったような顔をした。
 嘘を疑って、何度も思考を読む。
 読めば読むほどそれが嘘偽りない本当の涙だとわかったことだろう。
 フラットリーはグロルが自分のことで泣いているのをちゃんと理解した。

「……ははっ。汚い顔!」

 その上で、フラットリーは馬鹿にしたように笑った。
「え……?」とグロルがフラットリーの顔を見た。
 彼に先程までの優しい微笑みはなく、意地の悪い笑みを浮かべている。
 そこにいるのはフラットリーではなく──。

「ボース……?」
「はいはい。お前のだーい好きなボースハイトだよ」

 ボースハイトは涙を指で拭いながら、いつも通りニヤニヤと笑っている。
 グロルは目をぱちくりさせた。

「も、戻ったのか? どうやって……」
「君の頭の中を見てたら、ムカムカしてきて……」
「ムカムカ?」
「多分、君と喧嘩したときの怒り。それから数珠繋ぎのように記憶が蘇ってきた」
「ええ……」

「思い出し方が、感動的じゃない……」と近く見ていたコレールも呆れていた。
 ボースハイトは一通り笑った後、呼吸を整えて改まったように言う。

「グロル、お前に言いたいことがある」
「俺も俺も!」
「じゃあ、先に言わせて」
「おお」
「──僕、絶対謝らないからね」

 グロルはぽかんと口を開けた。

「……ん? あ? 謝るんじゃねーのかよ!? そういう流れだったろ!?」
「僕は悪いと思ってないし、元から謝る気はないもん」
「お前なあ……」

 グロルは呆れていた。
 コレールもこれには苦笑いだ。
 ボースハイトと仲直りするために千年のときを二回も超えたり、千年前の魔王と相対して来たりしたのだ。
 それなのに、この態度はない。
 ボースハイトは急に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃのグロルの顔を、自分の服の袖で乱暴に拭いた。
「何すんだよ!」とグロルは怒る。

「僕は謝らない。だから、お前も謝るなよ。お前も悪いと思ってないだろ」

 グロルは一瞬きょとんとした顔した後、品のない声で笑った。

「……ぎゃはは! お前、訳わかんねえ!」

 □

「全く、あいつも素直じゃないな」

 ボースハイトとグロルを見ながら我が輩は思う。
 記憶が戻った要因はグロルへの怒りなどではないだろうに、適当に誤魔化しおって……。
 まあ、それがボースハイトらしいとも言えるか。
 何はともあれ、ボースハイトが記憶を取り戻して何よりだ。

「ラウネン」

 我が輩はラウネンを殺す手を止める。
 ラウネンは何度も殺されて疲弊しきっていて、抵抗する気力もないようだ。

「はあ……はあ……。な、何……?」
「フラットリーは──貴様の《封印》を解く者はもういない」

 その言葉の意味を理解した途端、ラウネンはその場に平伏した。

「ごめんなさい。もう二度としません。何でもするから許して下さい」

 我が輩はそれを鼻で笑った。

「嘘つきの言うことは信じられんな」

 そう言った後、ラウネンに《封印》を施し、とどめの一発を鼻頭に食らわせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...