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体育の時間を守り抜け
「ちょこまかと逃げやがって」
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最初に動き出したのはキョーマだ。
「《大火炎》!」
巨大な火球がマジョアンヌに向かっていく。
「きゃあ!」
突然のことでマジョアンヌは一歩も動けず、火球を真正面から受けてしまう。
驚いたマジョアンヌは尻餅をついた。
「マジョ子さん!」
レイが心配して叫ぶ。
魔法アーマーを身につけているから、マジョアンヌに怪我はない。
しかし、アーマーの耐久はかなり削られただろう。
次に攻撃を食らってしまったら負けだ。
「格下共が散々舐めた真似しやがって……。一瞬で丸焦げにして、てめえら全員、二度と逆らえねえようにしてやるよ!」
キョーマは手のひらに炎を浮かべる。
「とどめだ!」
キョーマが手を振りかぶるのを見て、レイは叫ぶ。
「マジョ子さん! 走って!」
「は、はい! 《身体強化》!」
「《大火炎》!」
マジョアンヌは横に向かって走り出す。
先程まで尻餅をついていた場所に《大火炎》が打ち込まれたのを見て、サッと血の気が引くのを感じた。
──走り出していなかったら負けていましたわぁ……。
「チッ! 次は仕留める! 《大火炎》!」
再び放たれた火球はマジョアンヌを追いかけるように着弾していった。
──凄いわぁ! マジョ子、避けられてる! タゲツくんの水魔法の方が避けるのが難しかったものぉ!
「クソ、クソ! ちょこまかと逃げやがって! あと一発当てりゃあ、俺の勝ちなのによ!」
キョーマは地団駄を踏む。
「よーし、今度はマジョ子の番ですわぁ! 《稲妻》!」
マジョアンヌがキョーマに雷魔法を放った。
それが、キョーマの胸にヒットする。
「なっ!」
「わあ! 当たりましたわぁ!」
「まぐれ当たりで喜んでんじゃねえ……!」
それからは一転攻勢。
マジョアンヌはキョーマの攻撃をかわしながら《稲妻》を何回も放った。
大体は外しつつも、数回キョーマに当たった。
「はあ……はあ……」
試合も中盤。
キョーマは走っていないのに大量の汗をかき、息を切らしていた。
□
「キョーマくん、魔力切れしてきてますね」
彼を見ていたレイが冷静に言う。
「そりゃあ、あんなバカスカ上級魔法を打ち続けたらそうなるやんな。前に先生が言っとったし」
「でも……」
レイはマジョアンヌを見た。
マジョアンヌも肩で息をしている。
「マジョ子さんも魔力切れしてきてます。そろそろ決着をつけないと……」
□
──限界が近いですわぁ……。
マジョアンヌ自身も、魔力切れを感じていた。
──これからは一発一発を大事にしなくてはなりませんわぁ。そのためには、彼に接近するのが一番……。しかし、それだとあちらの魔法が当たってしまうわぁ。
「──《身体強化》!」
「えっ?」
キョーマが試合開始から初めて、火魔法以外の呪文を唱えた。
慣れない《身体強化》で足をもつれさせたキョーマは、マジョアンヌに飛びかかるような体制になってしまう。
そんな、付け焼き刃の《身体強化》だった。
しかし、マジョアンヌの虚を突くという一点においては、それで十分だと言えた。
接近を許してしまったマジョアンヌに、キョーマはトドメを刺すべく、口を開いた。
「《大火──」
──負けてしまう。
マジョアンヌは直感した。
──それは嫌! マジョ子がキョーマくんより早く魔法を打てたら良いのにっ……!
マジョアンヌは懐中時計をギュッと握り締めた。
「《減速》!」
マジョアンヌの口から出た呪文は、こっそりと練習していた魔法の呪文。
キョーマの動きが急に緩慢になった。
彼の発する呪文の声が野太く、ゆっくりになった。
まるで、キョーマだけ、時間の進みが遅くなったように……。
「《稲妻》!」
至近距離で放たれた稲妻はキョーマのアーマーを割った。
「ぐあっ……」
キョーマの時が正常に進み出し、キョーマが仰向けに倒れる。
彼は何が起こったのか、理解出来ないような顔をしていた。
□
「今のって、もしかして、時を遅らせる魔法……?」
レイが呟く。
「でも、時魔法って高度な魔法をやんな? 一週間前に魔法が使えるようになったばかりで使えるんか?」
「普通は使えねえです。マジョ子さんには才能があったのかも……」
□
──放課後、タゲツくんに付き合って貰って、コソコソと練習した甲斐がありましたわぁ。この魔法、使いたかったから……。
マジョアンヌの祖母は時をゆっくりにさせる魔法を使うことが出来た。
彼女はたった一人の時間をゆっくりにさせるのではなく、世界全てをゆっくりにさせることが出来た。
祖母は自分とマジョアンヌ以外の時間をゆっくりにさせることで、マジョアンヌと遊ぶ時間を増やしていた。
「おばあちゃんと遊ぶの、楽しいって言ってくれたでしょう? だから、楽しい時間を増やしたかったの」
祖母はそう言って、悪戯っ子のように笑っていた。
楽しい時間を増やす、とても優しい魔法を、マジョアンヌも使いたかったのだ。
──おばあちゃん、ありがとう。おかげで、マジョ子はみんなの体育の時間を守れましたわぁ。
アーヒナヒナはキョーマの魔法アーマーの耐久がゼロになっていることを確認した。
「勝負あり! 勝者、マジョアンヌ・マドレーヌ!」
「《大火炎》!」
巨大な火球がマジョアンヌに向かっていく。
「きゃあ!」
突然のことでマジョアンヌは一歩も動けず、火球を真正面から受けてしまう。
驚いたマジョアンヌは尻餅をついた。
「マジョ子さん!」
レイが心配して叫ぶ。
魔法アーマーを身につけているから、マジョアンヌに怪我はない。
しかし、アーマーの耐久はかなり削られただろう。
次に攻撃を食らってしまったら負けだ。
「格下共が散々舐めた真似しやがって……。一瞬で丸焦げにして、てめえら全員、二度と逆らえねえようにしてやるよ!」
キョーマは手のひらに炎を浮かべる。
「とどめだ!」
キョーマが手を振りかぶるのを見て、レイは叫ぶ。
「マジョ子さん! 走って!」
「は、はい! 《身体強化》!」
「《大火炎》!」
マジョアンヌは横に向かって走り出す。
先程まで尻餅をついていた場所に《大火炎》が打ち込まれたのを見て、サッと血の気が引くのを感じた。
──走り出していなかったら負けていましたわぁ……。
「チッ! 次は仕留める! 《大火炎》!」
再び放たれた火球はマジョアンヌを追いかけるように着弾していった。
──凄いわぁ! マジョ子、避けられてる! タゲツくんの水魔法の方が避けるのが難しかったものぉ!
「クソ、クソ! ちょこまかと逃げやがって! あと一発当てりゃあ、俺の勝ちなのによ!」
キョーマは地団駄を踏む。
「よーし、今度はマジョ子の番ですわぁ! 《稲妻》!」
マジョアンヌがキョーマに雷魔法を放った。
それが、キョーマの胸にヒットする。
「なっ!」
「わあ! 当たりましたわぁ!」
「まぐれ当たりで喜んでんじゃねえ……!」
それからは一転攻勢。
マジョアンヌはキョーマの攻撃をかわしながら《稲妻》を何回も放った。
大体は外しつつも、数回キョーマに当たった。
「はあ……はあ……」
試合も中盤。
キョーマは走っていないのに大量の汗をかき、息を切らしていた。
□
「キョーマくん、魔力切れしてきてますね」
彼を見ていたレイが冷静に言う。
「そりゃあ、あんなバカスカ上級魔法を打ち続けたらそうなるやんな。前に先生が言っとったし」
「でも……」
レイはマジョアンヌを見た。
マジョアンヌも肩で息をしている。
「マジョ子さんも魔力切れしてきてます。そろそろ決着をつけないと……」
□
──限界が近いですわぁ……。
マジョアンヌ自身も、魔力切れを感じていた。
──これからは一発一発を大事にしなくてはなりませんわぁ。そのためには、彼に接近するのが一番……。しかし、それだとあちらの魔法が当たってしまうわぁ。
「──《身体強化》!」
「えっ?」
キョーマが試合開始から初めて、火魔法以外の呪文を唱えた。
慣れない《身体強化》で足をもつれさせたキョーマは、マジョアンヌに飛びかかるような体制になってしまう。
そんな、付け焼き刃の《身体強化》だった。
しかし、マジョアンヌの虚を突くという一点においては、それで十分だと言えた。
接近を許してしまったマジョアンヌに、キョーマはトドメを刺すべく、口を開いた。
「《大火──」
──負けてしまう。
マジョアンヌは直感した。
──それは嫌! マジョ子がキョーマくんより早く魔法を打てたら良いのにっ……!
マジョアンヌは懐中時計をギュッと握り締めた。
「《減速》!」
マジョアンヌの口から出た呪文は、こっそりと練習していた魔法の呪文。
キョーマの動きが急に緩慢になった。
彼の発する呪文の声が野太く、ゆっくりになった。
まるで、キョーマだけ、時間の進みが遅くなったように……。
「《稲妻》!」
至近距離で放たれた稲妻はキョーマのアーマーを割った。
「ぐあっ……」
キョーマの時が正常に進み出し、キョーマが仰向けに倒れる。
彼は何が起こったのか、理解出来ないような顔をしていた。
□
「今のって、もしかして、時を遅らせる魔法……?」
レイが呟く。
「でも、時魔法って高度な魔法をやんな? 一週間前に魔法が使えるようになったばかりで使えるんか?」
「普通は使えねえです。マジョ子さんには才能があったのかも……」
□
──放課後、タゲツくんに付き合って貰って、コソコソと練習した甲斐がありましたわぁ。この魔法、使いたかったから……。
マジョアンヌの祖母は時をゆっくりにさせる魔法を使うことが出来た。
彼女はたった一人の時間をゆっくりにさせるのではなく、世界全てをゆっくりにさせることが出来た。
祖母は自分とマジョアンヌ以外の時間をゆっくりにさせることで、マジョアンヌと遊ぶ時間を増やしていた。
「おばあちゃんと遊ぶの、楽しいって言ってくれたでしょう? だから、楽しい時間を増やしたかったの」
祖母はそう言って、悪戯っ子のように笑っていた。
楽しい時間を増やす、とても優しい魔法を、マジョアンヌも使いたかったのだ。
──おばあちゃん、ありがとう。おかげで、マジョ子はみんなの体育の時間を守れましたわぁ。
アーヒナヒナはキョーマの魔法アーマーの耐久がゼロになっていることを確認した。
「勝負あり! 勝者、マジョアンヌ・マドレーヌ!」
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