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落ちこぼれ達の教室
「嫌なことするじゃない」
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「リリちゃん。リリアン。……ブリリアント!」
ジュードはブリリアントの手を振り払う。
「じゅ、ジュードくん? どうしたの?」
「僕、教室に戻る」
「どうして!? リリ達をいじめた子と、それを受け入れた先生がいるのよ!?」
「シャルルルカ先生はオコルダ先生とは違うでしょ。リリちゃんも薄々わかってるんじゃないの?」
「わかんない。わかんないわよ……! シャルル先生はリリ達に嫌なことするじゃない。悪い先生なのよ……!」
ジュードはブリリアントの両手を掴んだ。
「シャルル先生は怒鳴ったり、痛いことしないでしょ。リリちゃんにだって……」
「でも、嫌なの!」
ブリリアントは嫌々と首を振る。
「リリ、もう、みんなに傷ついて欲しくないの……」
「リリちゃん……」
ジュードは言葉に詰まる。
ブリリアントは我儘だ。
ジュードだって、何度もそれに振り回された。
でも、知っている。
──この子は人の痛みがわかる子だ。
だからこそ、臆病になっている。
人が傷つかないように、自分が声を上げるしかないと思っている。
「戻ろう?」
ジュードが問いかける。
ブリリアントは首を動かした。
「──ブリリアントにジュード?」
突如、声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、二人は凍りついた。
「久しぶりですね。今は授業中のはずですが、サボりかしら?」
そこにいたのは、赤い口紅を塗った、青いアイシャドウの女性。
「お、オコルダ先生……」
四年D組の元担任オコルダだった。
オコルダは深くため息をついた。
「全く、アナタ達は本当にしょうがない子ですね。アタクシの指導なしでは不良になってしまう」
オコルダはブリリアントに目を向けた。
ジュードは咄嗟に、ブリリアントを背中の方に追いやった。
「体罰は嘘だったと学園長に言うのです。そうすれば、アタクシはドロップ魔法学園に戻れる……。アナタ達も本当はそれを望んでるでしょう?」
──望んでない!
そう言おうとしても、何故か声が出なかった。
頷く方が楽になるとさえ思ってしまう。
しかし、ここで頷いてしまったら、あの恐怖の生活に逆戻りしてしまう。
「戻った暁には、ブリリアントの好きだった補習をしましょう。今度はもっと、厳しくしますからね」
そう言って、オコルダは微笑む。
恐ろしくて、ブリリアントの体が震える。
──逃げないと。
そう思ってこの場から離れようにも、足が床に固定されたように動かない。
助けを呼ぼうにも、今は授業中。
辺りに人の気配はない。
──誰か……!
「おい、ブリリアント、ジュード。課題の提出がまだだぞ。教室に戻れ」
そこに、颯爽とシャルルルカが現れた。
「へ? か、課題?」
ブリリアントとジュードはぽかんと口を開けた。
課題を出された記憶はないし、そもそも二人は授業を放棄している。
何故、彼がここにいるのかわからなかったが、来てくれて助かった。
シャルルルカは二人に歩み寄ると、オコルダの姿を見つけた。
「……おや? こちらの方は?」
「誰です?」
「ああ、失礼。私はシャルルルカ・シュガー。こいつらの担任教師です。どうぞよろしく」
「シャルルルカ……ああ、存じておりますよ。大魔法使いシャルルルカ様の偽物でしょう?」
「私は本物の私ですよ」
シャルルルカはへらへらと笑った。
「学園長にも困ったものです。昔共に戦った仲間の真偽すら見極められないんですから。ブリリアントの嘘が見抜けないのも必然……」
──体罰は嘘じゃない!
ブリリアントの声はやはり出なかった。
「やはり、アタクシはドロップ魔法学園に戻るべきね。そして、ゆくゆくはアレクシス様の右腕に……。アナタも落ちこぼれの担任は嫌になってるでしょう」
「落ちこぼれで手がかかることと、辞めたくなることは、イコールではないでしょう」
シャルルルカは目を細める。
「私はこの仕事にやりがいを感じています。出来ないことが出来るようになったときの、子供達の喜びようといったら! 私はその姿を見るために、この仕事をしているのだと思います。出来ないことが多ければ多いほど、その機会がたくさんある。これ以上のやりがいはないでしょう」
「……綺麗事を」
オコルダはそう言い捨てた。
よくもまあ、こんなに嘘八百を並べ立てるものだと、感心する。
出来ないことが出来るようになる?
必ず出来るようになる、という確証はない。
落ちこぼれなら尚更、出来ないままの方が多い。
そして、出来る者は教え子が何故出来ないのか、全く理解出来ない。
苛立ちが溜まる原因はそこにある。
「綺麗事、素敵でしょう? 汚いより、ずっと」
シャルルルカはブリリアントとジュードをかばうように立った。
「私も貴女のことを聞きましたよ。体罰教師だとか?」
「それは子供達の勘違いです。厳しい指導が体罰だと思われてしまったらしくて」
「ああ、そうですよね! 暴力で支配する人間が、教師であって良いはずがない」
シャルルルカはニヤニヤといやらしく笑った。
「暴力に訴えるなんて野蛮人のすることですよ。丁寧な言葉で説き伏せてこそ、知恵者というものです。貴女もそう思いませんか、オコルダ嬢」
「……アナタ、さっきから何が言いたいの」
「アレクを舐め過ぎだ。あいつが何の裏も取らずに、あんたをクビにするとでも?」
「なっ……!」
「あいつは慎重だ。即日クビにしたと聞いたときは驚いたよ。あんた、大分派手にやってたみたいだな?」
オコルダは怒りで顔を真っ赤にさせた。
「ドロップ魔法学園教師という肩書きが忘れられないんだろう。だが、それを捨てたのは他でもないあんただ」
「うるさい……うるさい、うるさい! お前も指導してやる! 《空気砲》!」
圧縮された空気がシャルルルカに向かっていく。
シャルルルカはただ、ニヤニヤと笑っていた。
ジュードはブリリアントの手を振り払う。
「じゅ、ジュードくん? どうしたの?」
「僕、教室に戻る」
「どうして!? リリ達をいじめた子と、それを受け入れた先生がいるのよ!?」
「シャルルルカ先生はオコルダ先生とは違うでしょ。リリちゃんも薄々わかってるんじゃないの?」
「わかんない。わかんないわよ……! シャルル先生はリリ達に嫌なことするじゃない。悪い先生なのよ……!」
ジュードはブリリアントの両手を掴んだ。
「シャルル先生は怒鳴ったり、痛いことしないでしょ。リリちゃんにだって……」
「でも、嫌なの!」
ブリリアントは嫌々と首を振る。
「リリ、もう、みんなに傷ついて欲しくないの……」
「リリちゃん……」
ジュードは言葉に詰まる。
ブリリアントは我儘だ。
ジュードだって、何度もそれに振り回された。
でも、知っている。
──この子は人の痛みがわかる子だ。
だからこそ、臆病になっている。
人が傷つかないように、自分が声を上げるしかないと思っている。
「戻ろう?」
ジュードが問いかける。
ブリリアントは首を動かした。
「──ブリリアントにジュード?」
突如、声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、二人は凍りついた。
「久しぶりですね。今は授業中のはずですが、サボりかしら?」
そこにいたのは、赤い口紅を塗った、青いアイシャドウの女性。
「お、オコルダ先生……」
四年D組の元担任オコルダだった。
オコルダは深くため息をついた。
「全く、アナタ達は本当にしょうがない子ですね。アタクシの指導なしでは不良になってしまう」
オコルダはブリリアントに目を向けた。
ジュードは咄嗟に、ブリリアントを背中の方に追いやった。
「体罰は嘘だったと学園長に言うのです。そうすれば、アタクシはドロップ魔法学園に戻れる……。アナタ達も本当はそれを望んでるでしょう?」
──望んでない!
そう言おうとしても、何故か声が出なかった。
頷く方が楽になるとさえ思ってしまう。
しかし、ここで頷いてしまったら、あの恐怖の生活に逆戻りしてしまう。
「戻った暁には、ブリリアントの好きだった補習をしましょう。今度はもっと、厳しくしますからね」
そう言って、オコルダは微笑む。
恐ろしくて、ブリリアントの体が震える。
──逃げないと。
そう思ってこの場から離れようにも、足が床に固定されたように動かない。
助けを呼ぼうにも、今は授業中。
辺りに人の気配はない。
──誰か……!
「おい、ブリリアント、ジュード。課題の提出がまだだぞ。教室に戻れ」
そこに、颯爽とシャルルルカが現れた。
「へ? か、課題?」
ブリリアントとジュードはぽかんと口を開けた。
課題を出された記憶はないし、そもそも二人は授業を放棄している。
何故、彼がここにいるのかわからなかったが、来てくれて助かった。
シャルルルカは二人に歩み寄ると、オコルダの姿を見つけた。
「……おや? こちらの方は?」
「誰です?」
「ああ、失礼。私はシャルルルカ・シュガー。こいつらの担任教師です。どうぞよろしく」
「シャルルルカ……ああ、存じておりますよ。大魔法使いシャルルルカ様の偽物でしょう?」
「私は本物の私ですよ」
シャルルルカはへらへらと笑った。
「学園長にも困ったものです。昔共に戦った仲間の真偽すら見極められないんですから。ブリリアントの嘘が見抜けないのも必然……」
──体罰は嘘じゃない!
ブリリアントの声はやはり出なかった。
「やはり、アタクシはドロップ魔法学園に戻るべきね。そして、ゆくゆくはアレクシス様の右腕に……。アナタも落ちこぼれの担任は嫌になってるでしょう」
「落ちこぼれで手がかかることと、辞めたくなることは、イコールではないでしょう」
シャルルルカは目を細める。
「私はこの仕事にやりがいを感じています。出来ないことが出来るようになったときの、子供達の喜びようといったら! 私はその姿を見るために、この仕事をしているのだと思います。出来ないことが多ければ多いほど、その機会がたくさんある。これ以上のやりがいはないでしょう」
「……綺麗事を」
オコルダはそう言い捨てた。
よくもまあ、こんなに嘘八百を並べ立てるものだと、感心する。
出来ないことが出来るようになる?
必ず出来るようになる、という確証はない。
落ちこぼれなら尚更、出来ないままの方が多い。
そして、出来る者は教え子が何故出来ないのか、全く理解出来ない。
苛立ちが溜まる原因はそこにある。
「綺麗事、素敵でしょう? 汚いより、ずっと」
シャルルルカはブリリアントとジュードをかばうように立った。
「私も貴女のことを聞きましたよ。体罰教師だとか?」
「それは子供達の勘違いです。厳しい指導が体罰だと思われてしまったらしくて」
「ああ、そうですよね! 暴力で支配する人間が、教師であって良いはずがない」
シャルルルカはニヤニヤといやらしく笑った。
「暴力に訴えるなんて野蛮人のすることですよ。丁寧な言葉で説き伏せてこそ、知恵者というものです。貴女もそう思いませんか、オコルダ嬢」
「……アナタ、さっきから何が言いたいの」
「アレクを舐め過ぎだ。あいつが何の裏も取らずに、あんたをクビにするとでも?」
「なっ……!」
「あいつは慎重だ。即日クビにしたと聞いたときは驚いたよ。あんた、大分派手にやってたみたいだな?」
オコルダは怒りで顔を真っ赤にさせた。
「ドロップ魔法学園教師という肩書きが忘れられないんだろう。だが、それを捨てたのは他でもないあんただ」
「うるさい……うるさい、うるさい! お前も指導してやる! 《空気砲》!」
圧縮された空気がシャルルルカに向かっていく。
シャルルルカはただ、ニヤニヤと笑っていた。
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