嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる

フオツグ

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パジャマパーティーは恋バナ付きで

「強欲な奴だ!」

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──あたしを救ってくれたのはシャルルルカ先生だった。
 三年程前まで、レイは奴隷として生活していた。
 物心つく前から貴族にこき使われ、それが人生なのだと思っていた。
 そんなとき、腕に怪我を負った。
 貴族からの折檻が原因だった。
 片腕が使い物にならず、働けなくなったことで、レイは売りに出された。
 次の買い手は直ぐについた。
 労働力にならない奴隷の子供を買う理由など、碌でもないものに決まってる。

「屋敷に戻ったらたっぷり遊んでやるよ」

 下卑た笑いを浮かべながらレイの次の主人はそう言った。
 欲に塗れたその顔が恐ろしくて仕方なかった。
──あたし、これからどうなるんだろう。
 これからさせることを思い浮かべて、レイは震えることしか出来なかった。
 レイは荷物と共に、荷馬車に乗せられた。
 荷馬車に揺られること数時間。
 ガタン、と荷馬車が大きく揺れて停まった。

「ヒイッ! 魔物だぁ!」

──魔物!?
 レイは慌てて外を見た。
 貴族が雇った用心棒が、蔦を纏った魔物の熊──フォレストベアに襲われていた。
 フォレストベアは腕を振り上げ、鋭い爪で用心棒の胴体を切り裂いた。
 血が飛び散る様を、その目で見てしまった。
 レイはヒッと短い悲鳴を上げた。

「奴隷だ! さっき買った奴隷を引っ張り出せ!」

 レイの買い手の貴族が叫ぶ。
 馬車を操作していた御者が荷馬車の乗り、レイを担ぎ上げて外に出る。

「足の腱を斬れ! 囮にして逃げるぞ!」

 御者は一瞬戸惑ったが、雇い主に言われた通り、レイの足を剣で斬りつけた。
 レイは痛みで叫ぶ。
 フォレストベアが叫び声を聞いて、レイの方を見た。
 フォレストベアが向かってくる。
 レイは逃げようと、動かない腕や足を懸命に動かして地面を這う。
 しかし、そんな抵抗も無意味だった。
 レイはフォレストベアに追いつかれる。
──食われる。

「《幻影(アリュシナシオン)》」

 聞いたこともない単語が聞こえたあと、雷がフォレストベアに直撃した。
 確かに、そう見えた。
 しかし、閃光が消え、フォレストベアの姿が再び見えたとき、フォレストベアは怪我一つを負っていないように見えた。
 音と光に驚いたフォレストベアは一目散に森へと逃げ帰る。
 一瞬の出来事だった。
 レイには何が起こったのか理解出来なかった。

「災難でしたね」

 その言葉と共に、黒いローブととんがり帽子を身につけた男が現れた。
 手には大きなオーブがついたロッド型の杖が握られている。

「ま、魔法使いか!? よくやった!」

 買い手の貴族が表情を明るくさせた。

「貴様には褒美をやろう! 名を申せ!」
「私はシャルルルカと言います……」
「シャルルルカと言えば魔王を倒したという大魔法使い! なんと幸運な! 褒美には何が欲しい? この荷馬車にあるものなら何でもやろう!」
「褒美ですか。では……」

 シャルルルカと名乗った男は手のひらを上にして、手を差し出した。

「全て下さい」

 それを聞いた途端、へらへらと笑っていた貴族は眉を吊り上げた。

「全て寄越せだと!? 強欲な奴だ! 貴様にやれるものは何もない!」
「……やれやれ。状況を理解していないようですね。《幻影(アリュシナシオン)》」

 シャルルルカは呪文を唱え、杖を振る。
 すると、近くの木に雷が落ちた。
 黒焦げになった木を見て、買い手の貴族と御者が悲鳴を上げる。

「これは交渉ではなく、お願いなのです……。素直に全ての荷物を明け渡しますか? それともフォレストベアのようになりますか?」

 シャルルルカはニヤニヤと笑う。
 買い手の貴族は縮み上がった。

「わ、わかった……。全ての荷物を渡す……」

 シャルルルカは満足そうに頷いた。

「……おや」

 シャルルルカは馬車のキャビンに 一枚の紙が置かれているのを見つけて、それを拾い上げた。

「これは魔法契約書か。頂いても?」
「それは奴隷契約書で……」
「構わないね?」

 シャルルルカは杖をゆらゆらと揺らす。

「う……わ、わかった。譲渡する」

 貴族の男は泣く泣くレイの奴隷契約書をシャルルルカに渡した。

「し、しかし、どうか馬車だけは! 移動手段がなければ、町に辿り着けなくなってしまう!」
「ところで、私は逃げ惑う人間を見るのが趣味でして」
「え?」
「《幻影(アリュシナシオン)》」

 貴族の真横に雷が落ちる。

「ヒイイイイイ!」

 貴族とその御者は悲鳴を上げ、逃げ惑った。

「ああ、愉快愉快」

 シャルルルカはそんな彼らを見てケラケラと笑い、追いかけるように雷を落とし続けた。
 いつの間にか、貴族達の姿が見えなくなった。
 何処か遠くへ逃げたのだろう。
 シャルルルカは満足そうに息を吐くと、レイへと近づく。
 レイは自分も雷に追い回されるのではないかと、体をこわばらせた。
 しかし、足は腱を斬られて立つことも出来ない。
 せめて、一瞬で終わるようにと、目を閉じた。
 ぱしゃり、と頭から水のようなものがかけられて、目を開ける。

「え。何……?」

 滴る水滴を舐めてみると、苦い味がして顔を顰める。
 それから、レイの体に異変が起こった。
 足の痛みが徐々になくなっていったのだ。
 不思議に思い、足を見てみると、先程御者に斬られた足の傷がみるみる内に塞がっていくではないか。
 それと同時に、腕の鈍い痛みの消えていき、腕が上がるようになっていた。

「嘘……。まるで、魔法みたい……」

 レイは嬉しくて、目頭が熱くなった。
──でも、なんであたしの怪我を治したの……?
 レイは恐る恐るシャルルルカの顔を見た。
 シャルルルカはニヤニヤと、気味悪く笑っていた。
──そうか。足を治した後、雷で追い回す気なんだ……。
 想像に反して、シャルルルカはくるりと踵を返し、荷馬車に乗り込む。
 レイは立ち上がり、彼を追いかけた。
 シャルルルカは荷馬車の中身を物色する。

「ふん。悪徳貴族の癖にしけてやがる」

 独り言のようにそう悪態をつく。
 レイは「あの」と声をかける。

「ん? お前、まだいたのか」
「奴隷契約が……」
「ああ、そんなものもあったな。丁度良い。命令だ。『金を拾え』」

 シャルルルカが指を差したのは、馬車が揺れたときに飛び出した硬貨だ。
 そして、レイに小さな巾着袋を投げ渡す。
 この中に入れろ、ということだろう。
 レイの身体は命令に従う。
 それが奴隷契約書の効力であった。
 シャルルルカは荷馬車を降り、腕を組みながらレイを見守っていた。
 袋にたくさんの硬貨を入れたレイは、シャルルルカに近づく。

「終わった? じゃあ、行くかな。『ついてこい』」

 シャルルルカはフラフラと歩き始める。
──酔ってるんだろうか?
 レイはそう思いながら、硬貨の入った袋を持ったまま彼についていく。
──何処に連れていくつもりなんだろう。
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