限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ

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限界オタクと推しとメインキャラと。

限界オタクが朝食を準備してみたら

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 引越しの翌日。
 イオリは身支度を整え、ヴァルゴの部屋の扉をノックした。

「おはようございます、ヴァルゴ姉。起きてますか?」
「あ、イオリちゃん? どうしたの?」

 扉越しにヴァルゴの声がした。

「朝食を食べようと思うんですけど、ヴァルゴ姉もどうですか?」
「良いわね! でも、ごめんなさい。今起きたばっかりで、メイクがまだなの~」
「じゃあ、先に食堂に行って、朝食の準備してますね」
「……そう? 一人で大丈夫?」
「大丈夫ですよ! 食堂の場所は知ってますし、料理だって簡単なものなら作れます!」
「うーん、イオリちゃんが良いなら良いんだけど。さっと身支度したら、直ぐに行くわ。ノーメイクで行くから、びっくりしないでよ~?」
「ふふ。わかりました。待ってますね」

 イオリは食堂に向かった。
 食堂に入ると、ヒナがパンを齧っていた。

「げっ。お姉ちゃん……」

──一晩寝て、ヒナも明星寮に住んでること、すっかり忘れてた……。
 イオリは額に手をやる。
 一つ屋根の下で暮らしているのだから、鉢合わせすることもあるだろう。
──ヴァルゴ姉が『一人で大丈夫?』って聞いてきたのは、これのことだったのね……。

「おはよう、ヒナ……。ええと……」

 ヒナはふい、と顔を逸らした。
──無視か……。
 イオリは仕方ない、と思い、厨房に向かう。
 厨房には、パンや根野菜などの食材がかごに入れてあった。
 戸棚を開けば、ジャムや調味料がある。
 厨房の奥には、錬金術で作られた、大きな冷蔵庫が置いてある。
 冷蔵庫の中には、卵や肉類、野菜などがある。

「お、牛乳もある」

──【よぞミル】世界のとうもろこしを使って、コーンスープにしよう。
 イオリがそう考えていると、ふと先程のヒナの朝食を思い出す。
 パンが数個だけの寂しい食事だった。
──……ちょっと多めに作ろうかな。
 冷蔵庫から卵とベーコンを取り出し、フライパンで焼く。
【よぞミル】世界のレタスを水洗いし、千切って皿に乗せる。
 パンにはバターやジャムをつければ良いだろう。
 本日の朝食は、パン、生レタス、ベーコンエッグ、コーンスープ……。
──うん! 私にしては上出来かも!
 イオリは朝食の乗ったお盆を見て、満足そうに頷いた。
 二人分を食堂へと運び終えると、食堂に青年が入ってきた。

「お待たせ」

 黒々とした髪と目の下にある特徴的なホクロ。
 顔鼻立ちがしっかりとした、優しげなイケメンである。
 白いシャツにカジュアルなズボンという、シンプルな服装が、筋肉質な体を引き立たせている。
 ヒナは突如食堂に現れたイケメンに目を奪われた。

「あのあのぉ、ここにいるってことは、【星の守護者】なんですよねぇ。初めましてぇ。聖女のヒナですぅ」

 ヒナがイケメンの腕に絡みつき、甘い声を出す。

「貴方のお名前はぁ? これから一緒の寮に住むんですよねぇ? 仲良くして下さいねぇ」

 イケメンはヒナの顔を見て微笑んだ。

「……あら。アタシはキモいんじゃなかったかしら?」

 無理矢理高くしたような声が、イケメンの口から発せられる。
 ヒナはその声に聞き覚えがあったのだろう。
 サッと顔色を変えた。

「え……。この声、嘘……」

 ヒナは目の前にいる人物が誰か、気づいたようだった。

「ハァイ、妹聖女ちゃん。アタシよ。ヴァ・ル・ゴ」

 ヴァルゴと名乗ったはバチン、とヒナにウィンクをした。
 その仕草が、メイクをばっちりと決めたヴァルゴの顔と重なって見えた。

「は、はあああ!? あのオカマ!? このイケメンが!? 嘘嘘嘘! 絶対嘘!」
「本当だよ。目の下に黒子があるでしょ? ヴァルゴ姉と同じ位置」

 イオリがそう言うと、ヒナはイケメンの顔をじっと見つめた。
 確かに、ヴァルゴと同じ位置に黒子がある。

「嘘……でしょ……!? このイケメンがあのオカマ……!?」
「ヒナ、オネエキャラがメイク取るとイケメンってのは、往々にしてあるんだよ」

 イオリが冷静に言う。

「なんでイケメンがあんな変態みたいな格好してんのよ! 信じらんない!」
「『変態』~? オシャレでしょ?」

 ヴァルゴは不服そうだった。

「凄く似合ってますよね。完璧なキャラデザファッションセンスです」

 ばっちりメイクをしたセクシーなヴァルゴとノーメイクのフェミニンなヴァルゴ。
 別人に見えるが、よく見るとちゃんと同じ顔をしている。
 メイクだけで、別のタイプのイケメンに変化するのは天晴れである。

「うふふ。ありがと」

 ヴァルゴは微笑んだ。

「でもやっぱり、ばっちりお化粧していないと恥ずかしいわねん」
「全然恥ずかしくないですよ! ヴァルゴ姉は元が良いですから。そのままでも十分魅力的です!」
「あらそう? 照れるわねえ」

 ヴァルゴは「うふふ」と笑う。

「そういえば、イオリちゃん、アタシがヴァルゴだって聞いても驚かなかったわね?」
「ええ、まあ……」

──知ってたし……。
 イオリは愛想笑いをする。

「みんな、ノーメイクだとアタシだって気づかないのよ。名乗ったらびっくりされるわ」
「本当に別人みたいですからね……。みんなってことはリブラさんも? リブラさんとは、女性だと自認する前に出会ったんじゃなかったでしたっけ?」
「よく知ってるわね。リブラちゃんに聞いたの? リブラちゃんは逆。メイクありだとアタシだって気づかないわ」
「第一印象で固定されたまま……!?」
「少しでもメイクを変えると、アタシだってわからなくなるわ」
「それは……敏感なのか、鈍感なのか……」

──リブラさん……おもしれー男……。
 イオリは控えめに笑った。
 ヒナは苦虫を噛み潰したような顔で、親指の爪を噛む。

「こんなにイケメンだなんて知らなかった……。知ってたら、ヒナ──」
「『邪険にしなかった』かしら?」

 ヴァルゴはフッと笑う。

「顔の良し悪しで態度を変えてたら、誰も信頼してくれないわよ」

 ヒナは頬を膨らませ、顔を真っ赤にさせた。

「……フン! 良いもん。ヒナには王子様がいるし!」

 ヒナは足を踏み鳴らしながら、食堂の扉へと向かう。

「あ、ヒナ」

 イオリはヒナを呼び止めた。
 ヒナは面倒臭そうにイオリへ目を向けた。

「鍋の中にコーンスープがあるから、飲みたかったら飲んで──」
「要らないわよ、そんなの!」

 ヒナは顔を勢いよく逸らし、食堂を出て行った。

「……だよね~……」

 イオリは自分の間の悪さに笑うしかなかった。
 ヴァルゴなすすす、とイオリの横に立ち、イオリに尋ねた。

「……これから、勉強会だけれど、大丈夫そう?」
「まあ……何とかなると、思うしかないですね……」

 イオリは笑って、不安を誤魔化した。
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