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フォルテの正義
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「どうして私の体はこんなにも弱いのでしょうか」
自分の掌に視線を落としながらメディーナはそう呟いた。
自然と共存する平和な国オランディの最上級貴族の一つ、ルージュ家に生まれたメディーナ・ルージュは生まれつき体が弱い。少し歩けば息切れを起こし、太陽の光を浴びれば肌が焼けるように痛む。
体調を崩しやすく、熱で寝込むことも多い。何より問題なのは原因が分からないことだった。
何が原因なのか分からないため、治療方法も分からない。
自分の命が長くは続かないと理解しながらメディーナは十八年間生きてきた。
そんなメディーナには一緒に生きていきたいと思える男性がいる。
その男性に会うために、メディーナはルージュ邸の中庭の木陰に座っていた。
体の弱いメディーナにとって中庭で待っているのは苦しいはずである。だが、幸せな時間でもあった。
「メディーナ!」
遠くから聞こえてきた声。
思わずメディーナは満面の笑みで顔を上げる。
そこにいたのは赤髪の男性であった。男性は慌てた表情で走ってくる
「フォルテ、どうしたのですか。慌てて」
「どうした、はこちらの台詞だ。部屋にいるように言っただろう」
フォルテと呼ばれた男性はメディーナの目の前に到着すると、膝をついて目線を合わせた。
怒ったような口調だが、言葉は優しくメディーナを気遣っている。
そう言われたメディーナはなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「少しでも早く会いたくて」
「ああ、俺もそう思っていた。済まないな、国軍に身を置いている以上、日々の任務や修練を疎かにするわけにはいかないんだ」
「わかっております。ですが、私に残された時間がどれほどあるのかわかりません。待ちきれなかったのです。時は私を置いていこうとしますから」
メディーナが優しく微笑みながら言うと、フォルテは悲しみを表情に浮かべながらメディーナを抱きしめる。
「くっ・・・・・・必ず俺が救ってやる。約束しよう・・・・・・俺の剣はお前のために振るう。王でも国でもない。メディーナ、お前だ」
フォルテの暖かさを感じながらメディーナは出会った頃のことを思い出していた。
メディーナが十歳の頃である。貴族や国軍の間では天才剣士が入隊したと話題になっていた。
十五歳で国軍に入隊したその天才は子供の頃から剣の才能を発揮し、大人にも負けないと言われていたらしい。
自分とそう変わらない年齢の者が大人にも負けないと噂されているのを聞いたメディーナは従者に無理を言い、天才に会いに行った。それがフォルテ・リオメットとメディーナ・ルージュの出会いである。
赤髪を振り回し、自分よりも体の大きな兵士を相手に模擬戦闘を行うフォルテの姿がメディーナには輝いて見えた。
目を奪われたメディーナは思わず見惚れる。だが、目を奪われていたのはメディーナだけではなかった。
フォルテもまたメディーナに見惚れたのである。
模擬戦闘を終えたフォルテは誘われるようにメディーナに歩み寄り、メディーナもまたフォルテを迎えた。
「あの、お名前は?」
不意にそう問いかけるメディーナ。
しかし、フォルテは我に返り冷たい言葉を返す。
「相手に名前を聞く時は名乗るべきではないでしょうか」
無礼とも取れるフォルテの言葉を聞いたメディーナの従者は不満を露わにし言い返した。
「何ですか、その言い様は。失礼でしょう、こちらはルージュ家のご令嬢ですよ。身分を弁えなさい」
「良いのです。私が礼を欠き名乗らずに名前を聞いたのですから。申し遅れました、私の名前はメディーナ・ルージュです。お名前は?」
十歳とは思えない話し方をするメディーナ。再び問いかけられたフォルテは膝をつき答える。
「失礼いたしました。私の名はフォルテ。フォルテ・リオメットです」
「貴方が天才剣士ですか?」
さらにメディーナが問いかけた。するとフォルテは目線をメディーナに合わせて話を続ける。
「名乗った覚えはありませんが、そう呼ばれていると聞いています」
「そうですか・・・・・・羨ましいです」
「羨ましい? 最上級貴族の方にそう言われるとは・・・・・・皮肉でしょうか?」
「そ、そんなつもりはありません。私は生まれつき体が弱くて・・・・・・だから強くなりたいんです」
顔を伏せながらメディーナがそう話すと、フォルテは軽く笑った。
それに気づいたメディーナは少しムッとして問いかける。
「どうして笑うのですか?」
「最上級貴族様は守られる側の立場、強くなる必要はないかと。そしてそれを守るのが私たちの役目。何かあれば私があなたの剣になりましょう」
そうフォルテが答えるとメディーナが顔を赤くした。
その後、何度か同じような対話を繰り返し二人の距離は近づいていったのである。
生まれつき体の弱いメディーナ。子供の頃から大人よりも強いフォルテ。
最上級貴族の家に生まれ多くの愛を受けてきたメディーナ。
貧しい家に生まれ愛など知らず、強くなるしかなかったフォルテ。
お互いに持たぬものを埋め合うように求めあった。
次第にそれは愛と呼ぶ感情へと変わり、関係は恋人へと変化する。
そして今に至った。
メディーナは過去を振り返ってからフォルテに語りかける。
「約束してくださったこと、今でも覚えています」
「ああ、俺も覚えている」
「でもどうか、私に何かあれば私ごと忘れてください」
そうメディーナが伝えるとフォルテは慌ててメディーナの肩を掴んで顔を覗き込んだ。
「どうしてそんなことを言うんだ、メディーナ」
「私の体のことは私が一番わかります。鼓動が年々弱くなっているのを感じるのです」
「済まない、病の治療方法を探しているのだが中々・・・・・・でも必ず見つけて見せる」
「そんなことを言われると願ってしまいます。フォルテと生きていく未来を・・・・・・」
儚げに話すメディーナ。その悲しげな表情にフォルテは心を痛める。
天才剣士と呼ばれていても大切な女性一人救えないのか、と。
幾千幾万の命を奪うことになろうとも一つの命を救いたい。この頃からフォルテの心にはそんな思いが生まれていた。
「一緒に生きよう、メディーナ。必ずその願いを叶えてやる。何をしてでもメディーナを救う・・・・・・それが俺の正義だ。愛を知らぬ俺に愛をくれたのはお前だ」
誓いのようなフォルテの言葉を聞いたメディーナは目に涙を浮かべ頷く。
「私も愛しています。フォルテ、貴方と生きたい」
そんな二人のいつ終わるかわからない愛はその数年後、最大の山場を迎えるのだった。
メディーナの余命宣告。
絶望を告げられたフォルテはその手を血で染めると覚悟する。
たった一つの愛を守るために。
自分の掌に視線を落としながらメディーナはそう呟いた。
自然と共存する平和な国オランディの最上級貴族の一つ、ルージュ家に生まれたメディーナ・ルージュは生まれつき体が弱い。少し歩けば息切れを起こし、太陽の光を浴びれば肌が焼けるように痛む。
体調を崩しやすく、熱で寝込むことも多い。何より問題なのは原因が分からないことだった。
何が原因なのか分からないため、治療方法も分からない。
自分の命が長くは続かないと理解しながらメディーナは十八年間生きてきた。
そんなメディーナには一緒に生きていきたいと思える男性がいる。
その男性に会うために、メディーナはルージュ邸の中庭の木陰に座っていた。
体の弱いメディーナにとって中庭で待っているのは苦しいはずである。だが、幸せな時間でもあった。
「メディーナ!」
遠くから聞こえてきた声。
思わずメディーナは満面の笑みで顔を上げる。
そこにいたのは赤髪の男性であった。男性は慌てた表情で走ってくる
「フォルテ、どうしたのですか。慌てて」
「どうした、はこちらの台詞だ。部屋にいるように言っただろう」
フォルテと呼ばれた男性はメディーナの目の前に到着すると、膝をついて目線を合わせた。
怒ったような口調だが、言葉は優しくメディーナを気遣っている。
そう言われたメディーナはなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「少しでも早く会いたくて」
「ああ、俺もそう思っていた。済まないな、国軍に身を置いている以上、日々の任務や修練を疎かにするわけにはいかないんだ」
「わかっております。ですが、私に残された時間がどれほどあるのかわかりません。待ちきれなかったのです。時は私を置いていこうとしますから」
メディーナが優しく微笑みながら言うと、フォルテは悲しみを表情に浮かべながらメディーナを抱きしめる。
「くっ・・・・・・必ず俺が救ってやる。約束しよう・・・・・・俺の剣はお前のために振るう。王でも国でもない。メディーナ、お前だ」
フォルテの暖かさを感じながらメディーナは出会った頃のことを思い出していた。
メディーナが十歳の頃である。貴族や国軍の間では天才剣士が入隊したと話題になっていた。
十五歳で国軍に入隊したその天才は子供の頃から剣の才能を発揮し、大人にも負けないと言われていたらしい。
自分とそう変わらない年齢の者が大人にも負けないと噂されているのを聞いたメディーナは従者に無理を言い、天才に会いに行った。それがフォルテ・リオメットとメディーナ・ルージュの出会いである。
赤髪を振り回し、自分よりも体の大きな兵士を相手に模擬戦闘を行うフォルテの姿がメディーナには輝いて見えた。
目を奪われたメディーナは思わず見惚れる。だが、目を奪われていたのはメディーナだけではなかった。
フォルテもまたメディーナに見惚れたのである。
模擬戦闘を終えたフォルテは誘われるようにメディーナに歩み寄り、メディーナもまたフォルテを迎えた。
「あの、お名前は?」
不意にそう問いかけるメディーナ。
しかし、フォルテは我に返り冷たい言葉を返す。
「相手に名前を聞く時は名乗るべきではないでしょうか」
無礼とも取れるフォルテの言葉を聞いたメディーナの従者は不満を露わにし言い返した。
「何ですか、その言い様は。失礼でしょう、こちらはルージュ家のご令嬢ですよ。身分を弁えなさい」
「良いのです。私が礼を欠き名乗らずに名前を聞いたのですから。申し遅れました、私の名前はメディーナ・ルージュです。お名前は?」
十歳とは思えない話し方をするメディーナ。再び問いかけられたフォルテは膝をつき答える。
「失礼いたしました。私の名はフォルテ。フォルテ・リオメットです」
「貴方が天才剣士ですか?」
さらにメディーナが問いかけた。するとフォルテは目線をメディーナに合わせて話を続ける。
「名乗った覚えはありませんが、そう呼ばれていると聞いています」
「そうですか・・・・・・羨ましいです」
「羨ましい? 最上級貴族の方にそう言われるとは・・・・・・皮肉でしょうか?」
「そ、そんなつもりはありません。私は生まれつき体が弱くて・・・・・・だから強くなりたいんです」
顔を伏せながらメディーナがそう話すと、フォルテは軽く笑った。
それに気づいたメディーナは少しムッとして問いかける。
「どうして笑うのですか?」
「最上級貴族様は守られる側の立場、強くなる必要はないかと。そしてそれを守るのが私たちの役目。何かあれば私があなたの剣になりましょう」
そうフォルテが答えるとメディーナが顔を赤くした。
その後、何度か同じような対話を繰り返し二人の距離は近づいていったのである。
生まれつき体の弱いメディーナ。子供の頃から大人よりも強いフォルテ。
最上級貴族の家に生まれ多くの愛を受けてきたメディーナ。
貧しい家に生まれ愛など知らず、強くなるしかなかったフォルテ。
お互いに持たぬものを埋め合うように求めあった。
次第にそれは愛と呼ぶ感情へと変わり、関係は恋人へと変化する。
そして今に至った。
メディーナは過去を振り返ってからフォルテに語りかける。
「約束してくださったこと、今でも覚えています」
「ああ、俺も覚えている」
「でもどうか、私に何かあれば私ごと忘れてください」
そうメディーナが伝えるとフォルテは慌ててメディーナの肩を掴んで顔を覗き込んだ。
「どうしてそんなことを言うんだ、メディーナ」
「私の体のことは私が一番わかります。鼓動が年々弱くなっているのを感じるのです」
「済まない、病の治療方法を探しているのだが中々・・・・・・でも必ず見つけて見せる」
「そんなことを言われると願ってしまいます。フォルテと生きていく未来を・・・・・・」
儚げに話すメディーナ。その悲しげな表情にフォルテは心を痛める。
天才剣士と呼ばれていても大切な女性一人救えないのか、と。
幾千幾万の命を奪うことになろうとも一つの命を救いたい。この頃からフォルテの心にはそんな思いが生まれていた。
「一緒に生きよう、メディーナ。必ずその願いを叶えてやる。何をしてでもメディーナを救う・・・・・・それが俺の正義だ。愛を知らぬ俺に愛をくれたのはお前だ」
誓いのようなフォルテの言葉を聞いたメディーナは目に涙を浮かべ頷く。
「私も愛しています。フォルテ、貴方と生きたい」
そんな二人のいつ終わるかわからない愛はその数年後、最大の山場を迎えるのだった。
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