異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

レイチェルとリオネ

「あの、こちらの女性は？」

　言葉としては軽く尋ねているという感じなのだが、その圧力は詰問に近い。
　その様子からレイチェルは何かを察したように倉野から離れずに答えた。

「あら、これは申し遅れました。私、グランダー伯爵の娘、レイチェル・グランダーです。クラノ様には何度も救っていただいた恩がありまして、こうしてご挨拶に、と」

　レイチェルの言葉を聞いたリオネもその心の内に気付いたようで、笑顔のまま言葉を返す。

「なるほど、伯爵令嬢様だったんですね。私はリオネと申します。私もクラノさんには何度も救っていただいておりますし、立場も同じ冒険者として共に過ごしています」

　レイチェルに対抗するような言葉を吐くリオネ。そんなリオネに対してレイチェルは余裕そうに答えた。

「そんな、同じ人間同士に立場なんて関係ありませんわ。リオネ様もぜひ仲良くしてください」
「そうですか？　やはり価値観の違いというものはあると思いますよ。その長い抱擁などは貴族様のご挨拶でしょうか？」
「いえ、これは私がクラノ様を思う強さと比例しておりますの。貴族の挨拶とは別物です」
「なるほど。ではそろそろ離れてはどうでしょう。公共の場ですし」

　お互いに笑顔のまま言い合うリオネとレイチェル。何故か倉野は寒気のようなものを感じていた。
　リオネに言われて仕方なく倉野から離れたレイチェルは彼の顔を見上げながら話しかける。

「すみません、ご迷惑でしたか？」
「い、いえ、そんなことは・・・・・・」

　そう答えながらも倉野はリオネに視線を送った。するとやはり不自然なほど明るい笑顔でありながらも突き刺すような目をしている。
　そんな三人を眺めながらノエルはため息をつき、同じく眺めていたシラムに話しかけた。

「お嬢様ってあんな感じだったかしら」
「いえ、普段のレイチェル様はそれはそれは大人しく自己主張の少ない方ですよ。ですが、まぁ、私の知る限り初恋でしょうし、初めての嫉妬でしょうからな。感情の抑制がうまくできないのでしょう」

　シラムの言葉を聞いたノエルはゆっくりと三人のもとに近づき倉野の方に手を置き言い放つ。

「まぁ、うん。クラノが悪いわ」
「なんで！？」

　聞き返す倉野だったがノエルは微妙な表情を浮かべるだけだった。
　そんな空気を変えるようにシラムが言葉を挟む。

「と、とにかく皆さん朝食に致しませんか。クラノ様が帝都に戻られたと聞きすぐに準備をしております。ぜひノエルさんもリオネさんもいらっしゃってください」

　シラムの言葉を聞いたレイチェルは思い出したかのように頷いた。

「そうですわ。是非そうしましょう。せっかくですから我が家でゆっくりお話したいです。聞きたいこともありますし」

　そう言いながらレイチェルは横目でリオネを見る。その視線に気づいたリオネは戦闘に臨む戦士のような雰囲気で同意した。

「そうですね。私もゆっくりお話ししたいです。お言葉に甘えてお邪魔しましょうか」
「是非、我が家へ」

　まるで何年も前から仲のいい親友かのようにレイチェルはそう答える。
　二人のやりとりを眺めながらノエルはここからが本番だな、と心の中で苦笑した。