異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

戦場へ放たれる弾丸

　各々がするべき行動を胸に足を踏み出す。
　倉野とノエルはグランダー伯爵邸の前でレイチェルと別れ、庶民街の方向へ向かった。レイチェルはシラムに事情を説明し、二人で帝都の中心へと向かう。目的地は皇帝の住う城だ。
　庶民街に向けて走りながら倉野はノエルに視線を送る。自分だけならばスキル神速を発動した方が圧倒的に早い。だが、相手が強大な戦力を保有しており、少しのミスで庶民街に被害が及ぶことを考えれば二人で向かうのが最善策だろう。
　そんな倉野の視線を感じたのかノエルは思いを言葉にした。

「これでも全速力なのよ。そりゃ魔法を使えばスピードは上がるけど、魔力も体力も温存しておくべきでしょ。大丈夫よ、本格的な攻撃を仕掛けてくるまでにはもう少し時間があるはず。さっきの攻撃はいわば威嚇よ。自分たちはいつでも帝都に向けて攻撃できるという意思表示に過ぎないわ。どれほどの犠牲が出ようと構わないっていうね」

　確かにノエルの言葉通り威嚇の意味が強い攻撃だっただろう。だが、いつ次の行動に出るか分からないのが現状だ。次の攻撃まで時間があるというのは希望的観測に過ぎない。
　倉野がそう考えていると鞄の中から相棒が顔を出した。

「クク？」

　ツクネである。今目を覚ましたというような顔で走る倉野を見上げた。
　ツクネの視線に気づいた倉野はたった一言で全てを伝える。

「ツクネ、頼む」

　人の心に寄り添う魔物フェレッタであるツクネはその一言で全てを理解した。

「ク！」

　了解したと言わんばかりに鳴き、即座に魔法を発動するツクネ。風魔法を操るツクネは倉野とノエルの体を浮かび上がらせた。
　超高速なエレベーターのように一気に空へと向かいながらノエルは驚きの声を吐き出す。

「え・・・・・・えええええ！」

　ツクネと心を通わせている倉野とは違い、ノエルからしてみれば走っている途中にいきなり体が浮かび上がったのだ。驚くのも無理はない。
　そんなノエルのリアクションなど気にせずにツクネは次の指示を仰いだ。

「クク？」

　どこに向かえばいいのか、と問いかけるツクネに対して答えるために倉野は上空から帝都中を見渡す。すると前方で黒煙が立ち上っているのが見えた。

「あそこだ、ツクネ。煙のところまで運んでくれるかい？」
「クク！」

　倉野の指示を理解し、再びツクネは風を操る。
　放たれた弾丸のように倉野とノエルは黒煙へと向かって空を切り裂いていった。
　横移動の直前に何が起きているのか理解したらしくノエルは倉野に不満の声を漏らす。

「何かするのなら先に言っておいてよね。びっくりするじゃない」
「すみません、次は言いますね。あ、落下します」

　倉野がそう話した瞬間に進行方向が斜め下に変わっていた。頂上から最高速度で落下するジェットコースターのように倉野とノエルは黒煙の根元へと落ちていく。

「へ？　だーかーら、遅いのよおおおおおおおおおお！」

　急激な落下の感覚を全身で受け止めながらノエルが叫んだ。