異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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煙のち絶望

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 急降下した倉野たち。その目に映ったのは一部が破壊された帝都を囲む外壁とその周辺で燃える建物、そして逃げ惑う人々である。
 我先にとその場から逃げようと慌てふためいていた。外壁の内側にいる限り安全であると信じていた住民たちは何が起きているのか分からず必死に逃げる。

「おい、どけよ!」
「早く逃げろ。荷物なんていいから!」
「なぁ、うちの子を知らないか」
「どうしてなんだ。どうして外壁が」
「早くこっちに来るんだ」

 命の危険を感じた人間が本性を露わにしていた。自分だけは助かろうとする者。我が子を守ろうとする者。少しでも多くの人を助けようとする者。
 そんな光景を目にしたノエルが悲しげな表情を浮かべた。

「戦争は多くの悲しみを生むけれど、一番悲しいのは大多数の人間が他人を思いやれないことね。自分の命可愛さに他人を踏みつけることができるってことに気づくの。この戦いがどんな結末を迎えても、そんな人間は信用を失ってしまうわ。不信感は残り続けるのよ」

 戦争の悲しみを語るノエル。過去に似たような経験をしているのだろうか。
 だが今はノエルの過去や逃げ惑う人々を気にしている暇などなかった。
 倉野は崩れ落ちている外壁の向こう側に視線を送る。
 舞い上がる土煙と黒煙。それを越えた場所に巨大な影が見えた。
 その影がネメシスの主戦力であることは明らかである。コアを使用した兵器。
 風が土煙を吹き飛ばすとその姿が明確になっていった。
 巨大な鉄の塊。倉野は最初にそう感じる。
 その大きさは高層ビルと並べても遜色ない。大きな体を支える太い両足と若干前傾姿勢な体。ドラゴンを模したような頭と家など握り潰してしまえそうな両手。アニメの世界から飛び出してきた巨大怪獣のように見える。

「ノエルさん、あれですよ。ネメシスの主戦力・・・・・・そして僕たちが破壊しようとしているものは」

 倉野がいいながら指差すと既にノエルの目はそれを捉えていた。

「何よこれ・・・・・・本当に人間が作ったっていうの。こんな大きな兵器・・・・・・」

 想像していた以上の大きさに言葉を詰まらせるノエル。
 どう考えても人が立ち向かっていい大きさではない。例え機関銃を持っていたとしても自分の何倍もの大きさの怪獣に立ち向かおうとは思わないはずだ。越えられない壁というものは確かに存在する。
 兵器の大きさに飲み込まれそうになっているノエルの方を倉野が軽く叩いた。

「ノエルさん・・・・・・その、ここから先は僕」

 そこまで倉野が言葉にするとノエルは剣を抜き、叫ぶ。

「はぁあああああ!」

 自分の恐怖心を消し去るように息を吐き切った。
 突然の咆哮に驚いた倉野が目を点にするとノエルはこう語りかける。

「何を言おうとしたの? ここからは自分一人で戦うって? 何、私がビビってるって言いたいの? そうよ、ビビってるわよ。何よあの大きさ。あれが人の手によって自在に動くんでしょ。ビビるに決まってるじゃない。でもクラノは戦うつもりなんでしょう・・・・・・だったら私が逃げるわけにはいかない。自分の命可愛さに仲間を見捨てる人間になるくらいなら、あの兵器に踏み潰されて本の栞にでもなった方がマシだわ」

 自分の心を奮い立たせるようにノエルは言葉にする。
 そんなノエルの覚悟を受け取るように倉野は頷いた。

「ありがとうございます。実は僕も一人じゃ不安だったんです。背中を預かってもらえるから、この一歩が踏み出せる」

 そう言いながら倉野は兵器に向かって歩き始める。
 
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