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倉野の一撃
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倉野の背中を追いかけるようにノエルもまた巨大な兵器へと向かっていく。
目標に近づいていくとその兵器の足元に人が立っているのがわかった。三十人ほどの武装した集団が帝都の動きを監視するように集まっている。
どう考えても帝都を攻めるには少なすぎる人数だ。
それほど兵器が担う戦力を信頼しているということだろう。
刻一刻、一歩一歩と開戦が近づいていた。握る拳の中で溢れてくる汗。少しずつ早くなる鼓動。危険だと鳴り響く本能。重くなっていく足。
そんな背中を押すのは守りたいと思う存在だった。
そろそろネメシス側に気付かれてもおかしくない距離だな、と倉野が緊張を強めた瞬間、兵器の足元から声が響く。
「何者だ! それ以上近づくのならば敵と判断し排除する!」
叫んでいるのは兵器の足元に立っている男だ。目立つ派手な紫のコートに身を包んだその男は声と共に威嚇するような気配を飛ばしている。
男の声を聞いた倉野はその場で足を止めた。その男との距離は百歩分くらいだろう。
どう答えればいいのだろうかと考える倉野。その背後からノエルが答えを出した。
「平和的解決を望む者よ! これ以上双方に被害を出さないために話し合いたいの!」
既にネメシス側は町一つと帝都の外壁周辺を破壊している以上、話し合いの余地などないと分かりながらも理想を叫んだノエル。しかし、その理想は届かない。
「何も理解していないようだな。交渉とは対等な立場によってのみ行われる。エスエ帝国ができることは二つに一つだ。自ら消えゆくか、踏み潰されて消えるか。我々は戦いに来たのではない。蹂躙しにきたのだ!」
ネメシス側の真意を聞いたノエルは腹立たしさを表情に浮かべた。
「これだから厄介なのよ。理想を掲げて、自分の行動に心酔している相手は・・・・・・」
そう呟きながらノエルは剣に手をかける。
分かりきっていた事だが、平和的解決は不可能。残された道は武力をもって武力を叩く事。
ネメシスの意思を肌で感じた倉野は振り返らずにノエルに話しかける。
「これ以上話しても無駄みたいですね。ネメシスを止めるには兵器を破壊するしかない・・・・・・背中を任せます!」
「ええ、かましてやりなさい。戦いは常に先手必勝よ」
倉野の思いを理解したノエルはそう言って剣を抜いた。その瞬間、戦いの意思を察知したネメシス側の者たちは一斉に武器を手に取る。
「戦闘態勢を取れ!」
叫ぶ紫コートの男。
しかし、どれだけ警戒しようともこの世界において倉野よりも先に動くことはできない。いや、正確には先に動いたとしても倉野の攻撃が先に到達するのだ。
「スキル神速発動。続けてスキル豪腕発動」
そう唱えた瞬間、倉野の速度は世界の時間を置き去りにする。スキル神速によって行動速度が跳ね上がった倉野。それによって相対的に世界中の時間が停止したように感じるのだ。
停止した世界の中で倉野は大地を蹴り、一気に兵器との距離を詰める。そして同時に発動していたスキル豪腕。鋼鉄すら砕く破壊力を右手に込めて振りかぶった。
「これだけの巨体を二本の足で支えているんだ。足さえ破壊すれば動けなくなるだろう!」
誰の耳にも届かないと分かりながら倉野は叫び、兵器の右足に一撃を叩き込む。
目標に近づいていくとその兵器の足元に人が立っているのがわかった。三十人ほどの武装した集団が帝都の動きを監視するように集まっている。
どう考えても帝都を攻めるには少なすぎる人数だ。
それほど兵器が担う戦力を信頼しているということだろう。
刻一刻、一歩一歩と開戦が近づいていた。握る拳の中で溢れてくる汗。少しずつ早くなる鼓動。危険だと鳴り響く本能。重くなっていく足。
そんな背中を押すのは守りたいと思う存在だった。
そろそろネメシス側に気付かれてもおかしくない距離だな、と倉野が緊張を強めた瞬間、兵器の足元から声が響く。
「何者だ! それ以上近づくのならば敵と判断し排除する!」
叫んでいるのは兵器の足元に立っている男だ。目立つ派手な紫のコートに身を包んだその男は声と共に威嚇するような気配を飛ばしている。
男の声を聞いた倉野はその場で足を止めた。その男との距離は百歩分くらいだろう。
どう答えればいいのだろうかと考える倉野。その背後からノエルが答えを出した。
「平和的解決を望む者よ! これ以上双方に被害を出さないために話し合いたいの!」
既にネメシス側は町一つと帝都の外壁周辺を破壊している以上、話し合いの余地などないと分かりながらも理想を叫んだノエル。しかし、その理想は届かない。
「何も理解していないようだな。交渉とは対等な立場によってのみ行われる。エスエ帝国ができることは二つに一つだ。自ら消えゆくか、踏み潰されて消えるか。我々は戦いに来たのではない。蹂躙しにきたのだ!」
ネメシス側の真意を聞いたノエルは腹立たしさを表情に浮かべた。
「これだから厄介なのよ。理想を掲げて、自分の行動に心酔している相手は・・・・・・」
そう呟きながらノエルは剣に手をかける。
分かりきっていた事だが、平和的解決は不可能。残された道は武力をもって武力を叩く事。
ネメシスの意思を肌で感じた倉野は振り返らずにノエルに話しかける。
「これ以上話しても無駄みたいですね。ネメシスを止めるには兵器を破壊するしかない・・・・・・背中を任せます!」
「ええ、かましてやりなさい。戦いは常に先手必勝よ」
倉野の思いを理解したノエルはそう言って剣を抜いた。その瞬間、戦いの意思を察知したネメシス側の者たちは一斉に武器を手に取る。
「戦闘態勢を取れ!」
叫ぶ紫コートの男。
しかし、どれだけ警戒しようともこの世界において倉野よりも先に動くことはできない。いや、正確には先に動いたとしても倉野の攻撃が先に到達するのだ。
「スキル神速発動。続けてスキル豪腕発動」
そう唱えた瞬間、倉野の速度は世界の時間を置き去りにする。スキル神速によって行動速度が跳ね上がった倉野。それによって相対的に世界中の時間が停止したように感じるのだ。
停止した世界の中で倉野は大地を蹴り、一気に兵器との距離を詰める。そして同時に発動していたスキル豪腕。鋼鉄すら砕く破壊力を右手に込めて振りかぶった。
「これだけの巨体を二本の足で支えているんだ。足さえ破壊すれば動けなくなるだろう!」
誰の耳にも届かないと分かりながら倉野は叫び、兵器の右足に一撃を叩き込む。
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