異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

ツクネの愛

　必死に呼びかけるレオポルト。その背後でリオネやレイチェル、レインも倉野の名前を呼ぶ。

「クラノさん！」
「クラノ様・・・・・・・どうか、どうか！」
「クラノ、戻ってきてくれ」

　その言葉が届いているのか倉野は大きな反応を示した。だが、それは決して良いものではない。表情を歪ませ、何かにうなされている。

「ううっ・・・・・・うぐっ！」

　その姿はまるで何かと戦っているようだった。
　必死で生にしがみついているようにも見える。
　この場にいた全員は言葉を飲み込み、倉野の反応を見守った。しかし唯一動いた者がいる。
　その者は最も倉野のそばにおり、最も倉野の気持ちを感じ取っていた。そう、ツクネである。
　ツクネは倉野の吐き出す嗚咽のような声に寄り添うよう、前足で彼の顔に触れた。
　
「クー」

　ここにいるよ、と伝えるようにツクネは倉野の顔を撫でる。精一杯自分の存在を教えるように、自分の気持ちを伝えるように、自分の体温を感じさせるように。
　すると一気に倉野の顔色や呼吸は正常に戻っていく。それと同時に脈を測っていたレオポルトも脈拍の落ち着きを感じた。

「脈が戻っていく・・・・・・」

　ツクネの気持ちが届いたのだろうか、とレオポルトは不可思議な表情を浮かべる。
　倉野の変化に気を取られ誰も気づいていないが、これはツクネの持つ魔力による効果だった。フェレッタであるツクネは風魔法を操る。風とは循環の象徴であり、風の性質を持つ魔力は他の魔力に対して速度を向上させるという効果があった。それにより倉野の体内に残っていたラフレールの魔力を素早く体外に排出したのである。
　そんな細かい説明など最早どうでもいい。
　ともかくこの瞬間、倉野の体から毒性植物ラフレールの効果が消えていった。つまり倉野が意識を取り戻したということである。

「ん・・・・・・んんっ・・・・・・あれ・・・・・・」

　瞼の重さに抗いながら目を開こうとする倉野。しかし体全体に力が入らず、上手く起き上がれない。

「クラノ様！」
「クラノさん！」

　倉野の声に気づいたレイチェルとリオネが同時に呼びかける。すると倉野は寝転んだまま首だけをそちらに向け、不思議そうな表情で答えた。

「あれ・・・・・・皆さん。どう・・・・・・したんですか。というか、なんか・・・・・・体に力が入らなくて・・・・・・」

　口を動かすのも言葉を吐き出すのも今の倉野にとっては一苦労なのだろう。途切れ途切れになりながらなんとか話す。
　倉野の問いかけを聞くと代表してレオポルトが返答した。

「無理をするな、クラノ。まだ回復しきっていないのだろう。起きたこと全てを説明するには時間がかかる。ともかくお前さんが落ち着いてからにしよう。ああ、心配するな。お前さんが何かの病気に罹っているなどということはない。全ての脅威は去った後だ」
「回復・・・・・・脅威？」
「今は何もわからなくていい。もう少し休むんだ」

　戸惑う倉野に優しい言葉をかけるレオポルト。