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澤檸檬

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月夜。

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 夜の海を見に来た。
 何だか鼓動が騒がしい夜。
 頭の中では、嫌な思い出たちがスイングしている。
 月が鬱陶しいくらいに、真っ黒な海に姿を映していた。
「何をしているんですか?」
 ふと背後から声をかけられる。俺が振り返ると若い女性がこちらに心配そうな表情を向けていた。
 俺が死のうとしているように見えたのだろうか。俺が何も答えないでいると、彼女はさらに言葉を続ける。
「水の中は苦しいですよ。多分、生きているよりもずっと……何があったのかは知りませんが……」
「別に死のうなんて思ってませんよ。海を見に来ただけです」
「そう……ですか」
 安心したように彼女は息を漏らす。
 それが最後の呼吸になるとは知らずに。
「殺そうとは思っていましたけどね。こんな月の夜は騒がしいんですよ、頭の中が……ね」
 嫌な思い出がまた一つ。
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