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地震
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店主神谷はそう言って楓に制服を渡す。
制服と言っても白のシャツに黒のベスト。いわゆるバーテンダーというような服装である。
指示された通り楓は店の従業員用ロッカールームでそれに着替え、出てきた。
「とても似合いますよ」
神谷はそう言って微笑む。
バーテンダーとしての服装に身を包んだ楓は背筋が伸びるように感じた。
「ありがとうございます。なんか緊張しますね」
「バーテンダーというのはお客様の心を癒す者ですから、絶対に裏切ってはいけない。服装を整えるのは、相手への誠意を示すためですよ。この服を着たということはバーテンダーであるということ。その責任を考えれば緊張するのは当然です」
神谷にそう言われ、楓は改めて自分がバーテンダーになるんだと自覚する。
何をしたいか見つけられなかった自分が初めてしたいと思えた仕事。それがバーテンダーだ。
自分が救われたように、誰かを救いたい。
楓は心の底からそう思っていた。
「では、バーテンダーの仕事を教えましょうか。まずは店内、店前の掃除。この空間を作り出す大切な仕事です」
「まずは掃除ですね」
「はい。その次はこちらの瓶を拭き上げます」
神谷はそう言ってカウンターの内側にある酒の瓶を指差す。
「お酒の瓶をですか?」
楓がそう聞き返すと神谷は頷いた。
「そうです。もちろん埃が溜まらないように拭くことが目的ですが、それだけではありません。お酒の位置や名前を覚え、お酒に込められた意味や作り手の思いと向き合います」
「なるほど・・・・・・この間のダイキリにも意味がありましたもんね」
そう言いながら楓が必死に覚えようとしていると神谷は優しく微笑む。
まるで我が子の成長を見守るような表情だ。
やるべき仕事の流れを確認した楓は、物置から掃除用の箒を持ち出す。
「それじゃあ、お店の外を掃いてきます」
「はい、お願いします。必ず二軒向こうまで掃いてください。それがルールですから」
神谷にそう言われ楓が店の扉を開けようとした瞬間である。
大きく地面が揺れた。
「じ、地震です!」
楓が咄嗟にそう叫び神谷の方を見ると神谷はお酒の瓶が倒れないように棚を支えている。
神谷の様子を確認した楓は箒を手放し、扉の取手にしがみついた。
大きな揺れは徐々に弱まり、十秒程で落ち着く。
「大丈夫ですか?楓さん。怪我は?」
揺れが落ち着いてすぐに神谷は楓に声をかけた。
楓はなんとか平常心を保ち、頷く。
「はい。私は大丈夫です。神谷さんは?」
「大丈夫です、お酒は一本も倒れていません」
そういうことじゃないんだけどな、と楓は心の中で苦笑する。
神谷にとってお酒はそれほど大切なもの、ということらしい。
お店の状況を確認した楓は再び箒を手に取った。
「それじゃあ、外の掃除をしてきますね」
「わかりました。地震で何か壊れているかもしれないので気をつけてくださいね。何かあればすぐに教えてください」
「はい。じゃあ、行ってきます」
制服と言っても白のシャツに黒のベスト。いわゆるバーテンダーというような服装である。
指示された通り楓は店の従業員用ロッカールームでそれに着替え、出てきた。
「とても似合いますよ」
神谷はそう言って微笑む。
バーテンダーとしての服装に身を包んだ楓は背筋が伸びるように感じた。
「ありがとうございます。なんか緊張しますね」
「バーテンダーというのはお客様の心を癒す者ですから、絶対に裏切ってはいけない。服装を整えるのは、相手への誠意を示すためですよ。この服を着たということはバーテンダーであるということ。その責任を考えれば緊張するのは当然です」
神谷にそう言われ、楓は改めて自分がバーテンダーになるんだと自覚する。
何をしたいか見つけられなかった自分が初めてしたいと思えた仕事。それがバーテンダーだ。
自分が救われたように、誰かを救いたい。
楓は心の底からそう思っていた。
「では、バーテンダーの仕事を教えましょうか。まずは店内、店前の掃除。この空間を作り出す大切な仕事です」
「まずは掃除ですね」
「はい。その次はこちらの瓶を拭き上げます」
神谷はそう言ってカウンターの内側にある酒の瓶を指差す。
「お酒の瓶をですか?」
楓がそう聞き返すと神谷は頷いた。
「そうです。もちろん埃が溜まらないように拭くことが目的ですが、それだけではありません。お酒の位置や名前を覚え、お酒に込められた意味や作り手の思いと向き合います」
「なるほど・・・・・・この間のダイキリにも意味がありましたもんね」
そう言いながら楓が必死に覚えようとしていると神谷は優しく微笑む。
まるで我が子の成長を見守るような表情だ。
やるべき仕事の流れを確認した楓は、物置から掃除用の箒を持ち出す。
「それじゃあ、お店の外を掃いてきます」
「はい、お願いします。必ず二軒向こうまで掃いてください。それがルールですから」
神谷にそう言われ楓が店の扉を開けようとした瞬間である。
大きく地面が揺れた。
「じ、地震です!」
楓が咄嗟にそう叫び神谷の方を見ると神谷はお酒の瓶が倒れないように棚を支えている。
神谷の様子を確認した楓は箒を手放し、扉の取手にしがみついた。
大きな揺れは徐々に弱まり、十秒程で落ち着く。
「大丈夫ですか?楓さん。怪我は?」
揺れが落ち着いてすぐに神谷は楓に声をかけた。
楓はなんとか平常心を保ち、頷く。
「はい。私は大丈夫です。神谷さんは?」
「大丈夫です、お酒は一本も倒れていません」
そういうことじゃないんだけどな、と楓は心の中で苦笑する。
神谷にとってお酒はそれほど大切なもの、ということらしい。
お店の状況を確認した楓は再び箒を手に取った。
「それじゃあ、外の掃除をしてきますね」
「わかりました。地震で何か壊れているかもしれないので気をつけてくださいね。何かあればすぐに教えてください」
「はい。じゃあ、行ってきます」
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