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自分の気持ち
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「思い出したかい?思い出のマカロンだって言ってたよ」
「なんとなく、その、はい」
酔っ払ってそんなことをしていた自分を恥じながらそう答えた。
元カノを思い出して、マカロンを求めるなんて女々しいのではないか。
何してんだよ、昨夜の俺。
で、そこから何がどうなってこの男と寝ることになったのか。
まるで思い出せない。
「も、もういいでしょ。教えてくださいよ」
俺がそう訴えかけると、山田は自分の唇に触れる。
「まだ残ってるでしょ?ほら」
「く・・・・・・」
「その後どうなったのか知りたくないの?」
「あー、ああああ、くそっ!」
躊躇いを吐き捨てるように叫んでから俺は目を瞑った。
そして一気に顔を近づける。
すると、自分の唇に柔らかなものが当たった。
山田の唇である。
当たった瞬間に相手を突き放し、俺は目を開けた。
「ほらっ、したぞ!」
「余韻も何もないなぁ。しかし、翔平くんの唇は柔らかいねぇ」
「やめろ、感想を言うなっ。いいから、何があったのか教えてくれよ」
「キスってもっと色気のあるものだと思っていたけどね。まぁいいか。僕たちがケーキ屋さんに到着するともちろん既に閉店していてね。翔平くんはそのお店の前で泣きそうになってしまった」
そう言われた俺はうっすらとその状況を思い出す。
ケーキ屋の前で様々な過去が頭の中を駆け巡り、なぜか泣きそうになったのだ。
俺が思い出しているうちに山田は話を続ける。
「翔平くんはそこで元カノの話をしてくれたね。就職して仕事が忙しくなって、他の男の元へ行ってしまった彼女。そんな彼女を引き止めることが出来ずにいたこと。幸せに出来なかったこと」
その言葉を聞いて俺はなぜ泣いたのかを思い出した。
嬉しかったんだ。
幸せに出来なかった彼女が結婚という幸せを掴んで嬉しかったんだ。
嬉しくて涙が溢れ、止められなかったのである。
「そっか・・・・・・」
俺はそう呟いていた。
酒に酔い、記憶を失っていても彼女の幸せを願うここが出来ていた自分に安心する。
「彼女が幸せになって良かったと心から言っていたよ。そして、翔平くんはこうも言っていた。幸せになりたいと」
「お、俺が?」
「うん。彼女が幸せになったことで、心残りがない。だから、恋がしたいってね」
山田の話を聞いた瞬間に俺は思い出してしまった。
確かに俺は山田にそう言った。
酔って、うまく歩けない俺に肩を貸してくれていた山田。
その優しさと温かさに甘え、ついそう言ってしまったのだ。
俺は一気に赤面する。
そんな俺に気づいた山田は妖艶な微笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んだ。
「思い出した?」
「あ、その、あぁ・・・・・・思い、出した」
「そんなこと言われたら、誘われたって思わない?」
そう問いかけてくる山田に俺はなんとか言い返す。
「い、いや、それじゃあ、誘ってきたら誰でもいいってのかよ」
「そんなわけないだろ」
一気に真剣な表情になり、そう言い放つ山田。
今までと違う顔に俺は戸惑った。
そのまま山田は言葉を続ける。
「別れた彼女を幸せに出来なかったと言って、恋をせずにいた不器用な男。そして、その彼女が幸せになると言って涙を流せる愛情深い男。そんな翔平くんを可愛いと思ってしまったんだよ。不思議なことじゃないだろう」
「な、何言ってるんだよ。じゃ、じゃあ、その後、俺の家に行ったってのか」
「ああ、翔平くんが一人で歩けそうになかったから、送って行ったよ。そしたら、翔平くんが泊まって行けって言ったんだよ」
「え、俺が?」
そう言いながらも俺は思い出していた。
一人でいたくなかった俺は山田を呼び止めたのである。
そして、俺は服を脱ぎ捨て、ベッドに入った。
「あれ、俺、その後寝たよな?」
「うん。寝たねぇ」
「え、じゃあ、やってないんじゃ」
「まぁ、何もしてないねぇ。そもそもしたなんて言ってないけど」
言いながら山田はいやらしい笑みを浮かべる。
騙された。
なんのためにキスをしたんだ。
昨夜したことを確認してお互いに忘れるためにキスをしたはずだった。
だが、二人の間には何もなかったのである。
ムカつく。
騙された自分も騙した山田も。
だが、一番ムカつくのは、騙されてキスをしたことに怒れないことだった。
思い出してしまったのである。
昨夜、心が揺れ情緒不安定になっていた自分を優しく支えてくれた山田のことを。
そんな自分の話を聞いてくれたことを。
自分の涙を優しく見守ってくれたことを。
そして、山田の笑顔にときめいていたことを。
「く、くそ、騙したな!」
精一杯の強がりで俺はそう叫んだ。
すると、その声が会議室の外に響いていたのか、足音が近づき扉のノブが回る。
「誰かいるのかー?」
会議室に誰かが入ってきた。
だが俺と山田は、その人が入ってくる直前に会議室の机の下に隠れたのである。
息を潜め、バレないようにやり過ごす。
「なんか、ドキドキするね」
小さな声で山田がそう言った。
「しーっ、ばれたらどうするんだよ」
「その時はその時だよ」
聞こえないように小声で会話する。
誰もいないことを確認した誰かは、そのまま会議室を出て行った。
「良かった、出て行った」
俺がそう言いながら立ち上がろうとすると山田が、俺の腕を掴み抱き寄せる。
「ちょ、なっ」
慌てる俺の唇に唇を重ねてきた。
熱いという形容詞が当てはまるキス。
唇を離すと山田は微笑みかけてきた。
「思い出したなら、昨日の続きをしてもいいよね?」
自分の心音で鼓膜が破れそうになる。
何もかもを思い出した俺は、山田を拒めなくなっていた。
思い出したのは昨夜のこと。
過去の恋愛とこれからの恋愛だった。
「い、家に帰ってからだ」
それが今の俺にできる精一杯の返事。
そんな俺に山田は嬉しそうに笑いかけた。
マカロンのように一度知れば、ハマってしまうかもしれない。
そんな風に思ってしまったんだ。
「なんとなく、その、はい」
酔っ払ってそんなことをしていた自分を恥じながらそう答えた。
元カノを思い出して、マカロンを求めるなんて女々しいのではないか。
何してんだよ、昨夜の俺。
で、そこから何がどうなってこの男と寝ることになったのか。
まるで思い出せない。
「も、もういいでしょ。教えてくださいよ」
俺がそう訴えかけると、山田は自分の唇に触れる。
「まだ残ってるでしょ?ほら」
「く・・・・・・」
「その後どうなったのか知りたくないの?」
「あー、ああああ、くそっ!」
躊躇いを吐き捨てるように叫んでから俺は目を瞑った。
そして一気に顔を近づける。
すると、自分の唇に柔らかなものが当たった。
山田の唇である。
当たった瞬間に相手を突き放し、俺は目を開けた。
「ほらっ、したぞ!」
「余韻も何もないなぁ。しかし、翔平くんの唇は柔らかいねぇ」
「やめろ、感想を言うなっ。いいから、何があったのか教えてくれよ」
「キスってもっと色気のあるものだと思っていたけどね。まぁいいか。僕たちがケーキ屋さんに到着するともちろん既に閉店していてね。翔平くんはそのお店の前で泣きそうになってしまった」
そう言われた俺はうっすらとその状況を思い出す。
ケーキ屋の前で様々な過去が頭の中を駆け巡り、なぜか泣きそうになったのだ。
俺が思い出しているうちに山田は話を続ける。
「翔平くんはそこで元カノの話をしてくれたね。就職して仕事が忙しくなって、他の男の元へ行ってしまった彼女。そんな彼女を引き止めることが出来ずにいたこと。幸せに出来なかったこと」
その言葉を聞いて俺はなぜ泣いたのかを思い出した。
嬉しかったんだ。
幸せに出来なかった彼女が結婚という幸せを掴んで嬉しかったんだ。
嬉しくて涙が溢れ、止められなかったのである。
「そっか・・・・・・」
俺はそう呟いていた。
酒に酔い、記憶を失っていても彼女の幸せを願うここが出来ていた自分に安心する。
「彼女が幸せになって良かったと心から言っていたよ。そして、翔平くんはこうも言っていた。幸せになりたいと」
「お、俺が?」
「うん。彼女が幸せになったことで、心残りがない。だから、恋がしたいってね」
山田の話を聞いた瞬間に俺は思い出してしまった。
確かに俺は山田にそう言った。
酔って、うまく歩けない俺に肩を貸してくれていた山田。
その優しさと温かさに甘え、ついそう言ってしまったのだ。
俺は一気に赤面する。
そんな俺に気づいた山田は妖艶な微笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んだ。
「思い出した?」
「あ、その、あぁ・・・・・・思い、出した」
「そんなこと言われたら、誘われたって思わない?」
そう問いかけてくる山田に俺はなんとか言い返す。
「い、いや、それじゃあ、誘ってきたら誰でもいいってのかよ」
「そんなわけないだろ」
一気に真剣な表情になり、そう言い放つ山田。
今までと違う顔に俺は戸惑った。
そのまま山田は言葉を続ける。
「別れた彼女を幸せに出来なかったと言って、恋をせずにいた不器用な男。そして、その彼女が幸せになると言って涙を流せる愛情深い男。そんな翔平くんを可愛いと思ってしまったんだよ。不思議なことじゃないだろう」
「な、何言ってるんだよ。じゃ、じゃあ、その後、俺の家に行ったってのか」
「ああ、翔平くんが一人で歩けそうになかったから、送って行ったよ。そしたら、翔平くんが泊まって行けって言ったんだよ」
「え、俺が?」
そう言いながらも俺は思い出していた。
一人でいたくなかった俺は山田を呼び止めたのである。
そして、俺は服を脱ぎ捨て、ベッドに入った。
「あれ、俺、その後寝たよな?」
「うん。寝たねぇ」
「え、じゃあ、やってないんじゃ」
「まぁ、何もしてないねぇ。そもそもしたなんて言ってないけど」
言いながら山田はいやらしい笑みを浮かべる。
騙された。
なんのためにキスをしたんだ。
昨夜したことを確認してお互いに忘れるためにキスをしたはずだった。
だが、二人の間には何もなかったのである。
ムカつく。
騙された自分も騙した山田も。
だが、一番ムカつくのは、騙されてキスをしたことに怒れないことだった。
思い出してしまったのである。
昨夜、心が揺れ情緒不安定になっていた自分を優しく支えてくれた山田のことを。
そんな自分の話を聞いてくれたことを。
自分の涙を優しく見守ってくれたことを。
そして、山田の笑顔にときめいていたことを。
「く、くそ、騙したな!」
精一杯の強がりで俺はそう叫んだ。
すると、その声が会議室の外に響いていたのか、足音が近づき扉のノブが回る。
「誰かいるのかー?」
会議室に誰かが入ってきた。
だが俺と山田は、その人が入ってくる直前に会議室の机の下に隠れたのである。
息を潜め、バレないようにやり過ごす。
「なんか、ドキドキするね」
小さな声で山田がそう言った。
「しーっ、ばれたらどうするんだよ」
「その時はその時だよ」
聞こえないように小声で会話する。
誰もいないことを確認した誰かは、そのまま会議室を出て行った。
「良かった、出て行った」
俺がそう言いながら立ち上がろうとすると山田が、俺の腕を掴み抱き寄せる。
「ちょ、なっ」
慌てる俺の唇に唇を重ねてきた。
熱いという形容詞が当てはまるキス。
唇を離すと山田は微笑みかけてきた。
「思い出したなら、昨日の続きをしてもいいよね?」
自分の心音で鼓膜が破れそうになる。
何もかもを思い出した俺は、山田を拒めなくなっていた。
思い出したのは昨夜のこと。
過去の恋愛とこれからの恋愛だった。
「い、家に帰ってからだ」
それが今の俺にできる精一杯の返事。
そんな俺に山田は嬉しそうに笑いかけた。
マカロンのように一度知れば、ハマってしまうかもしれない。
そんな風に思ってしまったんだ。
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