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本編

第2話_眩し過ぎる同級生-5

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程なくして入学式が始まる。
静寂で厳かな空気に包まれる中、大学関係者の式辞や来賓の祝辞が続く。
寝不足の日々が続いた春休み明け直後とあって、それなりに緊張感を抱えるリョウにも徐々に睡魔が襲い始来る。
眠気をこらえようと、無理やり頭を働かせ始める。

…一人目の祝辞は○○機構の人で、ここの院を卒業してからアメリカの大学でMPP取得してるんだったよな…
…で、今のは校友会会長…確か御年77歳…喜寿か。滑舌もはっきりしてて、元気だなぁ…
…あれ、祝辞って何人だっけ? 次のプログラムは…

などと考えつつも、生理現象には逆らえず、瞼が重くなっていく。

「――続きまして、新入生総代宣誓へ移ります」

…そっか、祝辞は今ので終わりだったんだ…
…あぁ…舟をこぐのだけは駄目だ、俺…

「総代、理学部、髙城 蒼矢タカシロ ソウヤ君」
「はい」

と、司会の呼び掛けに諒の耳傍から応えがあり、真横の空気が動く。
眠気は一瞬にして吹き飛んでいき、諒は今日いちまなこをかっ広げた。

「……!?」

隣の美青年は凝視する諒の目の前ですらりと起立し、椅子の列を颯爽と通り抜けて中央通路を歩いていく。
単なるいち学生の挨拶なのに、彼が近付いて通り過ぎていく度に付近の者全員の頭が動き、口元で小さく漏れる感嘆の声が何十、何百となってざわめきに変わっていく。
彼が最前の壇上へ上がっていき、演台へ辿り着いて参列席を向くと、人々の頭の向きがようやく正面へ揃った。

肉眼で見る学校関係者や来賓からスクリーンで見る保護者席などまで、講堂内の概ねの出席者の面持ちが驚愕に変わる中、彼――髙城 蒼矢は、胸の内ポケットから奉書紙を取り、その形の整った唇から読み上げ始めた。
滑らかなテナーから丁度良いテンポで言葉が紡がれるが、諒の頭にはその内容はとんと入って来ず、さっきまで隣に座っていた舞台上の蒼矢を呆然と眺めるだけだった。

この旧帝大の新入生総代の宣誓は、輩出元は毎年各学部持ち回りなものの、学部内で入試主席の者が選ばれる習わしになっている。

同じく度肝を抜かれたのだろう前席の啓介ケイスケが振り返り、諒へ囁いてきた。

「…おいっ…! あいつが理学部俺らのトップってことか…!?」

天は彼に一体何物与えたのだろうか。
興奮した面様を向けてくる啓介を一瞥し、諒は同じく急激に湧きあがる動揺を抑え込むように、息を飲んだ。
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