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本編

第3話_世話焼きが紡ぐ縁-4

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「眼鏡、今日は持ってきてないのか?」
「…忘れた」
「じゃあ、コンタクトだけでも外そう。ケースは?」
「無い。持って来るものだって、考えもしなかったから…」
「…!」

髙城タカシロ、結構うっかりさんなのか…!?

「…わかった、ちょっと待ってろな。他の奴にケース持ってないか、聞いてくるから」

うつむきながら微かに頷く蒼矢ソウヤを置き、リョウは入口へと向かう。
出てすぐの所でスマホを弄っていた啓介ケイスケに、早足で近付いていく。

「! 川崎カワサキ、遅かったな。か?」
「悪い、冗談は一旦スルーさせてもらう。沖本オキモトお前、コンタクトケースとか持ってないか?」
「おぉ、俺がコンタクトユーザーだってよく判ったな! もちろん予備まで持ってるぜ。偉いだろ?」
「それ貸してくれ。っていうかくれ。急ぎで!」
「!? なんだ、どうした?」

にわかな要求に、意表を突かれながらもバッグからケースを探る啓介へ、諒は困り顔で頭を振ってみせた。

「髙城が、コンタクトで目が痛くなっちゃったって。外そうにもケース持って来てないみたいで…俺裸眼だから、そういう備えが無いんだ」
「! 視力良くて羨ましいな。で、今中にいるのか?」
「うん。洗面所で動けなくなってる」
「…混んでるし、別の場所に移した方がいいんじゃねぇのか?」

そう言葉を交わしながら、ふたりはトイレの中を覗く。
啓介の言う通り、内部は個室へと並ぶ者と済ませて洗面台を使う者とで溢れかえっていて、その最奥に未だ背を屈め、痛みに耐えながら諒を待つ蒼矢の後ろ姿が見えた。

「…そうだな。でも水場が無いと…」
「隣の中央食堂にも何箇所か手洗い場がある。そっちに移動しようぜ」
「! そっか、名案だ」

ふたりは黒集りをすり抜けて、蒼矢の元へ近寄っていく。
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