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本編

第3話_可憐な美青年-3

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理学部棟のとある座学室では、聴講席の真ん中から半分ずつ左右に2年生と1年生が分かれて座り、雑談をしながら開講を待っていた。
やがて講師である教授が入室し、1,2年合同の研究授業の初回講座が始まる。
「今日は簡単な導入だけで、おおむね学部の親睦会だな…とはいっても、他の講義で何度か会ってるか。次回からはしっかり予習してくるように」
そう独り言のようにだらだらと話し始める教授が、思い出したように手元のレジュメから聴講席へと視線を移し、とある生徒を手招きして呼び寄せた。教授の隣に立ち、振り返ったその男子生徒に2年生の座席が一瞬ざわついた。
「…2年には紹介しておこうかな、彼とはおそらく初顔合わせだろう。春前から体調を崩して休学していたが、先週復帰した」
立羽 鱗タテハ リンです」
そう笑みを浮かべながら挨拶した彼の容貌に、蒼矢ソウヤも少し目を見開く。
白い肌と淡く桜色に染まる頬に、丸い大きな目。綺麗に通った鼻筋と、紅を差したように血色の良い少し厚めの唇。白肌を際立たせる黒髪は眉毛で丁寧に切り揃えられ、少し前下がりのショートボブから、細い顎と首筋がちらついて見える。華奢な体躯はダークカラーな上下に覆われ、タイトなシルエットが身体の緩やかな曲線を浮かびあがらせていた。
2年生はおおむね口を半開きにして見惚れてしまっていたが、彼と同学年の1年生も送られた笑顔に頬を紅潮させ、後ろの席からは指笛が届く。
「こら、ここはライブ会場じゃないぞ。…導入は問題なさそうだな、まぁ仲良くやりなさい」
次回以降の実習は1,2学年混合でグループをつくり、土台になる研究準備を別で終えた2年生が、1年生を指導する形で進められることになった。
グループ決めの段階で、生徒たちが席を立って入り乱れ始める中、教授から呼び声がかかる。
髙城タカシロ、君は立羽と組みなさい。他面子は誰でもいいぞ」
「…! はい」
ふいな指示に蒼矢は少し面食らいながらもそう応え、教授とそのそばに控える彼――鱗の元へ歩いていく。遠目でも特出した顔立ちだとわかっていたが、近くで改めて見るとやはり思わず注視してしまうほど可愛らしく、先ほど影斗エイトが漏らしていた1年生とはおそらく彼だろうと察しがついた。
「彼は、なにしろ先週入学したと言っても過言じゃない。学はあるにしてもノウハウは周りより遅れてる。君が主に指導してあげなさい」
「はい、わかりました」
了解すると、傍の鱗へ視線をやる。蒼矢より頭半分ほど小柄な鱗は、首を傾げ下から覗き込むように蒼矢を見つめていた。視線が合うと人懐っこそうに口角を上げ、真っ黒な目を三日月形に細める。
「宜しくお願いします、髙城先輩」
「…うん、宜しく」
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