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本編

第3話_可憐な美青年-4

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挨拶を済ませ、蒼矢ソウヤが荷物を取りに一旦席へ戻ると、後ろから肩を軽く叩かれた。
「ご指名さっすがぁ。あの教授変人生徒俺らの能力を買うなんて、なかなか無いと思うよ」
「いーなぁ、美人のお世話。俺も手取り足取り教えてぇなー」
振り返ると、学部の中でもよく一緒に行動している川崎カワサキ沖本オキモトの2人が、蒼矢を待っていたかのように立っていた。彼らへ向けて、蒼矢は苦い表情をつくる。
「…じゃあ代わるか?」
「冗談だって、遠慮しとく。役割横取りしたら点数下げられそうだもん」
「学年3人ずつで6人グループだって話だから、丁度良かったよ。出来る限りサポートしてやるから、お前は存分に俺らの眼福を満たしてくれ」
「美人2人並んでるの間近で見られるなんて僥倖だよな! 進行は任せとけ、お前が用意してくれた資料でバッチリだから」
「…色々腑に落ちないけど、助かるよ」
そう言いながらひとつため息をつき、荷物を抱えて先を歩いていく蒼矢の耳に聞こえないように、2人は言葉を交わす。
「…まぁ、普段から髙城タカシロ見てる俺らにとっちゃ、"あの程度"って感じだけどな」
「そりゃそうよ。あいつが永続的に"至上"であることは、俺たち2年の総意だ」

全員が席替えを終えると、次回以降の実習に向けてグループそれぞれで講義内容に沿った研究テーマが組まれ、2年生が中心になって方向性が話し合われていく。
蒼矢のグループでも友人2人が主に舵をとり、蒼矢はリンに注釈を入れつつ話が進んでいった。
「…――今の話は、資料のここがベースになってるんだけど」
「……んー、んーっ…」
「難しいかな」
「…はい…、ちょっとついていけないです」
ほぼマンツーマンでサポートについていた蒼矢だったが、鱗は終始首をひねり、蒼矢に視線を注がれると恥ずかしげに頬を染めた。
その様子をずっと見ていた1年生2人が、小声で呟き合う。
「…教え方下手なんじゃねぇの?」
「"完璧人間"でも苦手なモンがあるんだな。頭良くても指導できないって、結構致命的じゃね?」
ひそひそ声はだからこそ・・・・・蒼矢にも聞こえ、わずかに表情に緊張をにじませる。その声は届かずとも空気の変化を感じ取った川崎と沖本は、話を一旦切った。
「おーい、聞いてないだろ1年生」
「そんなにそっちが気になるかね。何しにこのグループに来たの、目の保養?」
煽るような言葉を投げられ、1年生2人は目つきを鋭くする。
「…そっちこそ、置いてかれてる奴がいるのにどんどん進めてくとか、配慮足りないんじゃないですか?」
「だったらお前らで後で立羽タテハにフォローしとけよ。友達なんだろ?」
「いいですけど、2年…いや、髙城先輩の・・・・・指導不足ということで、後で教授に報告入れときますね」
「…! お前らなぁ…」
「皆さん、待って下さい…!」
1年の言い草に友人たちは声を荒げかけたが、彼らの間に入るように鱗が腰を浮かす。
「髙城先輩は、こんな理解力が足りない僕に優しく教えてくれてます。僕が至らないだけで、先輩は何も悪くないんです」
「…!」
「お願いです…、僕のために、喧嘩しないで下さい…っ…」
そう言うと鱗は縮こまりながらうつむき、両手を胸の前に重ねた。
上がり始めていた場の熱は一旦冷えたが、彼のその物言いと仕草に、川崎たちはわずかに眉をひそめた。
「…立羽…!」
「ごめん、お前を困らせるつもりはなかったんだ。もう何も言わないから、そんな顔すんな」
が、1年生たちには刺さったようで、血相を変えて彼をフォローし始める。
同級生たちの言葉を受けて頷きながら目元をぬぐい、顔をあげた鱗は再び大きな黒目で蒼矢へと見上げた。
「髙城先輩、今のところもう一度教えてくれますか?」
「! …うん。俺もわかりやすく伝わるよう努めるから」
「はい、お願いします」
彼の背後から他1年2人からの視線も受ける中、蒼矢は気分を入れ替えるように座り直し、資料を片手に再び鱗へ説明し始めた。
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