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本編

第4話_漂う異臭-3

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[異形]の蟲の大群が蔓延る中、3人のセイバーたちは無数のそれらを各々の得物で次々になぎ払っていく。中でも先陣を切るロードナイトの火力が冴え渡り、[異形]との相性の良さをうかがわせる。フォローに回るオニキス、アズライトも前方の火炎から逃れたものを確実に捉え、仕留めていく。
紅蓮グレンを振り回しつつ、ロードナイトは二人へ気遣うように脳内から声をかけた。
「――悪い、撃ち漏らし多くて」
「気にすんな。なんせこの数だ、そのまま無作為にやってくれた方が効率が良い」
彼へ軽く応答すると、オニキスは横目をアズライトへ送る。
「[侵略者]は?」
「…まだだと思います。空気が変わった様子は無い」
「出て来ねぇつもりか? …何しにこんなブヨ共寄越しやがった」
「『現実もとの世界』から感じてた"臭い"が気になります。…狩場フィールドを作ろうとしてたのかも――」
そう返しながら、アズライトは再び意識を集中させ、氷柱ツララを握り直す。と、指先にかすかに痺れるような違和感を覚え、表情を固めて息を飲んだ。
「…っ…!」
…まずい、吸い・・過ぎてる…!?
思考と共に挙動が緩んだアズライトへ、鋭く察した[異形]の一部が塊となって襲撃する。
「!!」
オニキスとロードナイトが異変に気付いた時には、既に[異形]はアズライトの至近距離へ迫り、大きく翅を広げた蝶のように形作られた蟲の群が、アズライトの身体へ被さった。おびただしい数の[異形]に覆われ、その圧力にアズライトの顔がわずかに歪む。
「っく…!」
「アズライト! とう――」
[異形]に包まれていく様へ、目を見張りながらそう指示を送りかけたオニキスだったが、後方から緋色の塊がその視界に入り、高速で横切っていく。猛接近したロードナイトは特大の火球をスローイングし、蝶様の[異形]を爆散させると自らその爆心点へ突っ込み、アズライトを抱えて救い出す。
「…!?」
アズライトが驚いて見上げる中、ロードナイトは地に降り立つと彼を降ろし、すぐさま片手を横に滑らせ、熱の防御壁を張った。彼らを追走してきた蟲たちは、その透明な灼熱の壁に当たると、燃える間もなく蒸発して煙に変わっていく。
その光景を背に、ロードナイトはアズライトの両肩に手を置き、真剣な眼差しを送った。
「お前はここにいろ。…あとは俺だけで片付けるから」
そう言うと、彼を残してその場を離れ、紅蓮を一振りし自身の周囲に炎の渦を生みだす。手を広げると放射状に拡散し、またたく間に空間一帯が火の海となる。
「……」
「…おいおい、あいつ単体攻撃専門じゃなかったか? …とんでもねぇ火力だな」
アズライトは壁の中から、ぽかんとした面持ちでロードナイトの火炎攻撃を見守っていた。オニキスも同じく攻撃の手を止め、呆気にとられた風に姿を目で追う。
ほどなくして戦闘は片がつき、緑一面だった地面は焼け焦げた葉と炭化した[異形]の死骸で黒く埋め尽くされ、空は転送されてきた直後のような、何もない明るい空間を取り戻していた。
「……っ」
しまいか? …お疲れさん」
自ら作り上げた焦土を前に、胸を浅く上下させているロードナイトの肩に手を置きながら、オニキスは横に並ぶ。
「いやーすげぇよ、お前。俺たち完全にオマケだったもん」
そう言いつつ後方へ目配せされ、ロードナイトは振り返り、いまだ灼熱壁の向こうで棒立ちになっているアズライトを視界にとらえると、はっと気付いて壁を解除する。やや慌てた風を見せる彼へ、オニキスは苦笑した。
「いいけどさ、全然問題無いけど。…やりすぎ」
「…! あ…」
「『凍氷とうひょう』なら[奴ら]との相性も良いだろうし、さっきの攻撃くらい難なく退けられるぜ。代わりに俺のこと護って欲しかったわー、苦手タイプだったし」
「わっ…悪い」
「いや冗談だろ。…[侵略者]は出て来ねぇみたいだ、さっさと戻ろうぜ」
オニキスは軽く受け流し、帰還の音頭をとる。距離の空いたロードナイトとアズライトの間に、妙な空気が漂った。
「…アズライトも、悪い…、俺やり過ぎた」
「…いや、助かったし…、いいよ」
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