10 / 62
本編
第3話_誘われる気配-1
しおりを挟む
苡月へは留守居を頼み、陽を合わせた三人で、蒼矢の示す最寄り駅の線路向こう側を目指す。
言付かった苡月は突然のことに少し戸惑いを見せていたものの、こちらへ帰って来たばかりで勝手がわかっていないだけと思ったからか、特に理由を聞いては来なかった。
陽は走りながらそんな先刻の状況を思い出し、葉月へ視線を流す。
「――これからちょっとやりにくくなるかな。や、苡月が悪いわけじゃねぇけどさ」
「こういうものだと理解してもらうようにすれば、なんとでもなるよ。…状況次第では無理くりでも構わない。なににせよ、あの子を巻き込むわけにはいかないんだから」
「そうだなー…」
そう言葉を交わす二人の前を走る蒼矢が、軽く振り返った。
「この先のコミュニティセンターです」
「了解」
辿り着いた区内の公民館は、柵で囲われた敷地や駐車場を含めて閑散としており、遠くから地域のクラブ活動に興じる子どもの声が聞こえてきたりと、普段と何も変わらないような空気感で佇んでいた。
「…蒼兄、ほんとにここで合ってるのか?」
「ああ、間違いない」
今までのパターンを鑑みて疑念を向けてくる陽へ、蒼矢は静かに返した。片手を添えるその腕は細かく震え、色白の肌が透けるように青さを増す。
「まだ"狩場"にはなってないようだね。…敷地内を少し確かめようか」
そう言う葉月に呼応し、三人が揃って公民館入口へを歩みを進めた途端、各々の胸元が淡い光を帯び始めた。
「…!」
「狩場出来る前で助かったな、被害最小限じゃん」
「そうだね、早く転送してしまおうか」
「…はい」
一足先に首から下がる銀色のペンダントをシャツから引っ張り出し、陽は鎖の先に黄色く輝く鉱石を握る。
全員が転送準備に入る中、蒼矢は口元だけで小さく呟いていた。
「…誘われてる気がする」
言付かった苡月は突然のことに少し戸惑いを見せていたものの、こちらへ帰って来たばかりで勝手がわかっていないだけと思ったからか、特に理由を聞いては来なかった。
陽は走りながらそんな先刻の状況を思い出し、葉月へ視線を流す。
「――これからちょっとやりにくくなるかな。や、苡月が悪いわけじゃねぇけどさ」
「こういうものだと理解してもらうようにすれば、なんとでもなるよ。…状況次第では無理くりでも構わない。なににせよ、あの子を巻き込むわけにはいかないんだから」
「そうだなー…」
そう言葉を交わす二人の前を走る蒼矢が、軽く振り返った。
「この先のコミュニティセンターです」
「了解」
辿り着いた区内の公民館は、柵で囲われた敷地や駐車場を含めて閑散としており、遠くから地域のクラブ活動に興じる子どもの声が聞こえてきたりと、普段と何も変わらないような空気感で佇んでいた。
「…蒼兄、ほんとにここで合ってるのか?」
「ああ、間違いない」
今までのパターンを鑑みて疑念を向けてくる陽へ、蒼矢は静かに返した。片手を添えるその腕は細かく震え、色白の肌が透けるように青さを増す。
「まだ"狩場"にはなってないようだね。…敷地内を少し確かめようか」
そう言う葉月に呼応し、三人が揃って公民館入口へを歩みを進めた途端、各々の胸元が淡い光を帯び始めた。
「…!」
「狩場出来る前で助かったな、被害最小限じゃん」
「そうだね、早く転送してしまおうか」
「…はい」
一足先に首から下がる銀色のペンダントをシャツから引っ張り出し、陽は鎖の先に黄色く輝く鉱石を握る。
全員が転送準備に入る中、蒼矢は口元だけで小さく呟いていた。
「…誘われてる気がする」
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる