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本編
第4話_水底の罠-1
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「……」
宣言した通り、水属性の蒼矢は水中でも変わらず呼吸が出来ていた。あまりにも濃い青の水に若干の不安はあったものの、視界も地上と変わらないくらい良好だった。
「アズライト、大丈夫?」
「今のところ問題ありません」
「気配は引き続き感じてる?」
「はい。少しずつ近付いてる気がします」
「了解。…本当に気を付けて」
徐々に体調が戻ってきているらしい葉月と脳内で応答しつつ、アズライトは水深深い方へ視線をやった。
…ごく近くで気配が大きくなったということは、おそらく水平方向にはいないだろうな…
「ひとまず直下へ向かって進んでみます。幸い深くへ行っても視界はクリアです」
「わかった。応答は続けてね」
アズライトは周囲を警戒しつつ、少しずつ深度を下げていく。
水面近くにいた時までは順調に大きくなっていた[異界のもの]の気配が、水の中に入った途端微かになっていることが気がかりだった。しかし決して途切れることはなく、アズライトが動きを止めると徐々に薄れていきそうになるものの、再度深みへ進むと気配も増していっていた。
確実に、アズライトの接近を待っているかのように感じられた。
…このまま近付いていって大丈夫だろうか…
さすがに一抹の不安を覚えたアズライトは、進退を仰ぐために脳内から地上へ問いかける。
「やっぱり、引き寄せられている気がします。…まだ姿は見えないところですが、一旦戻ります。…」
が、しばらく待ってもふたりからの返答は無い。
アズライトは思わず、ほのかに薄青い地上の方を見上げた。
「エピドート、聞こえますか? …陽?」
アズライトの顔に焦燥感が表出する。
…いつから途絶えてたんだ…!? 距離が離れ過ぎた…いや、そんなはずはない。
…遮断された……?
急襲する危機的状況に、アズライトは身体の向きを変え、即刻浮上しようとする。が、上から下へと流れる不自然な水流に囚われ、泳ぐ手足のバランスが崩される。
見えない何かに水底へと押し下げられるような圧に、アズライトはなすすべなく沈降していく。
「……!」
もがくアズライトの肌を、今まで感じ得なかったほどの[異界のもの]の気配が襲う。
そしてその目に、青い水中に沈む黒い巨体を捉えた。
「いらっしゃい、『アズライト』。お前を待っていたよ」
侵略者[霆蛇]は、黒い体躯に二つの丸い眼球が浮き上がり、その中心から漆黒の眼を光らせていた。目が合うと、灰色の唇をゆっくりと動かしてからにやりと口角を上げ、固まる仇敵を見上げた。
宣言した通り、水属性の蒼矢は水中でも変わらず呼吸が出来ていた。あまりにも濃い青の水に若干の不安はあったものの、視界も地上と変わらないくらい良好だった。
「アズライト、大丈夫?」
「今のところ問題ありません」
「気配は引き続き感じてる?」
「はい。少しずつ近付いてる気がします」
「了解。…本当に気を付けて」
徐々に体調が戻ってきているらしい葉月と脳内で応答しつつ、アズライトは水深深い方へ視線をやった。
…ごく近くで気配が大きくなったということは、おそらく水平方向にはいないだろうな…
「ひとまず直下へ向かって進んでみます。幸い深くへ行っても視界はクリアです」
「わかった。応答は続けてね」
アズライトは周囲を警戒しつつ、少しずつ深度を下げていく。
水面近くにいた時までは順調に大きくなっていた[異界のもの]の気配が、水の中に入った途端微かになっていることが気がかりだった。しかし決して途切れることはなく、アズライトが動きを止めると徐々に薄れていきそうになるものの、再度深みへ進むと気配も増していっていた。
確実に、アズライトの接近を待っているかのように感じられた。
…このまま近付いていって大丈夫だろうか…
さすがに一抹の不安を覚えたアズライトは、進退を仰ぐために脳内から地上へ問いかける。
「やっぱり、引き寄せられている気がします。…まだ姿は見えないところですが、一旦戻ります。…」
が、しばらく待ってもふたりからの返答は無い。
アズライトは思わず、ほのかに薄青い地上の方を見上げた。
「エピドート、聞こえますか? …陽?」
アズライトの顔に焦燥感が表出する。
…いつから途絶えてたんだ…!? 距離が離れ過ぎた…いや、そんなはずはない。
…遮断された……?
急襲する危機的状況に、アズライトは身体の向きを変え、即刻浮上しようとする。が、上から下へと流れる不自然な水流に囚われ、泳ぐ手足のバランスが崩される。
見えない何かに水底へと押し下げられるような圧に、アズライトはなすすべなく沈降していく。
「……!」
もがくアズライトの肌を、今まで感じ得なかったほどの[異界のもの]の気配が襲う。
そしてその目に、青い水中に沈む黒い巨体を捉えた。
「いらっしゃい、『アズライト』。お前を待っていたよ」
侵略者[霆蛇]は、黒い体躯に二つの丸い眼球が浮き上がり、その中心から漆黒の眼を光らせていた。目が合うと、灰色の唇をゆっくりと動かしてからにやりと口角を上げ、固まる仇敵を見上げた。
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