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本編
第12話_夜明けの種明かし-1
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次の日の早朝、明るむ景色の中に本来の薄灰色の外観を取り戻す大学学生寮近くの駐車場へ、一台のミニバンが滑り込む。
夜間の終わらない喧騒さから変わり、さすがに閑散とした空気感をたたえる建物の一室へ、ぱたぱたと早足の駆ける音が近付く。
勝手知ったる者らしく、短い間隔で軽いノックをし、部屋の主から反応を返される前にドアを開けた。
「――影斗!!」
息を切らし、緊迫した面持ちで自分を見つめる葉月へ、暗がりの中フローリングに上裸のまま寝転がっていた影斗が、ドア向こうの照明に目をくらませながらじろりと視線を送り返した。
「…んだよ。いねぇっつっただろうが…来んなよ」
不機嫌さを隠しもしない彼の姿に一旦安堵したのか、葉月は胸に手を当てながら息をつくと、部屋へ入ってドアを閉める。
そして眉を寄せ、いつもの彼らしくもなく表情に苛立ちと憤りをにじませた。
「留守電入れたのにすぐ返してくれないし、やっと連絡くれたと思ったらひと言、ふた言しか言わないで切るし…、どれだけ心配したか…!」
「必要最低限の情報はくれてやっただろ」
硬い床で節々を痛めたか、少し顔を歪めながら身体を起こし、影斗は長い脚を葉月の足元へ投げ出す。
そんな様子の彼へ、葉月は以前険しい面差しを向けていた。
「怪我は?」
「ねぇよ」
「何かされたりは? 危害を加えられかけたとか」
「俺がそんな下手こくかよ」
吐き捨てるように返し、影斗はぎろりと葉月を睨む。
「…なんだ? "あれ"は」
「…留守電に残した通りだよ。まだ何も判ってないけど、[侵略者]に操られてることは間違いないだろう」
そう、予測段階の解答を返すにとどまった葉月は彼の足元へしゃがみ、再び息をついた。
「とにかく無事で、本当に良かったよ…こっちは苡月が泣かされたり、烈が襲われたり、全部後手後手になってしまってて…」
「……ふぅん」
「手をこまねいている間に、また見失って。あては無かったけど…おそらく次は君だろうと思ったんだ」
「主力狙いならな。…今頃操ってる[あっち]も泡食ってんじゃねぇか? "想定外"だったってな」
「…顛末が知りたい。どうやって無事"彼"をやり過ごしたんだ?」
夜間の終わらない喧騒さから変わり、さすがに閑散とした空気感をたたえる建物の一室へ、ぱたぱたと早足の駆ける音が近付く。
勝手知ったる者らしく、短い間隔で軽いノックをし、部屋の主から反応を返される前にドアを開けた。
「――影斗!!」
息を切らし、緊迫した面持ちで自分を見つめる葉月へ、暗がりの中フローリングに上裸のまま寝転がっていた影斗が、ドア向こうの照明に目をくらませながらじろりと視線を送り返した。
「…んだよ。いねぇっつっただろうが…来んなよ」
不機嫌さを隠しもしない彼の姿に一旦安堵したのか、葉月は胸に手を当てながら息をつくと、部屋へ入ってドアを閉める。
そして眉を寄せ、いつもの彼らしくもなく表情に苛立ちと憤りをにじませた。
「留守電入れたのにすぐ返してくれないし、やっと連絡くれたと思ったらひと言、ふた言しか言わないで切るし…、どれだけ心配したか…!」
「必要最低限の情報はくれてやっただろ」
硬い床で節々を痛めたか、少し顔を歪めながら身体を起こし、影斗は長い脚を葉月の足元へ投げ出す。
そんな様子の彼へ、葉月は以前険しい面差しを向けていた。
「怪我は?」
「ねぇよ」
「何かされたりは? 危害を加えられかけたとか」
「俺がそんな下手こくかよ」
吐き捨てるように返し、影斗はぎろりと葉月を睨む。
「…なんだ? "あれ"は」
「…留守電に残した通りだよ。まだ何も判ってないけど、[侵略者]に操られてることは間違いないだろう」
そう、予測段階の解答を返すにとどまった葉月は彼の足元へしゃがみ、再び息をついた。
「とにかく無事で、本当に良かったよ…こっちは苡月が泣かされたり、烈が襲われたり、全部後手後手になってしまってて…」
「……ふぅん」
「手をこまねいている間に、また見失って。あては無かったけど…おそらく次は君だろうと思ったんだ」
「主力狙いならな。…今頃操ってる[あっち]も泡食ってんじゃねぇか? "想定外"だったってな」
「…顛末が知りたい。どうやって無事"彼"をやり過ごしたんだ?」
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