ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第一章◇   出会いは突然で最悪です

第十八話   「あなた、誰……?」

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 夕食後に部屋でくつろぐ時間になって、やっと私は肩の力を抜いた。

「散々な日だった……」
 
 ぬぐいいきってない滴をタオルでふき取り、ため息を吐いた。
 シャワーを浴びても、すっきりした気分にならないのは、たぶん昼間の件のせいかな。

「全然息抜きじゃないよ……」

 本来ジョシュアさんはゆっくり休めって意味で今日、使用人の仕事をさせようとしなかったんだろうけど。
 なんだか、逆に疲れちゃった。

 原因は間違いなく、彼のせい。

「……『またね』って、言ってたってことは……また会う気なの?」

 勘弁してほしいよ。だって、あのアルって人と話すと、ドッと疲れて。
 綺麗すぎて緊張してっていうのもあるけど……それより、なんていうか。

「怖い、んだよね」

 そう、怖いの。
 会話しないなら、いいんだけど。ううん、会話しなくても、ちょっと怖いけど。

 話したらその分、何だか彼独特の雰囲気にのみ込まれそうで。
 それとも慣れたら、そんなこともなくなるのかな?

 ……って、慣れるまで会う気は私、ないよ!?

「でも、なんかたぶん、会っちゃうような気がする……」

 嫌だな……なんて、思っちゃうのは失礼だけど、どうしても、ね。

 なんか、異世界に来てあんまり好感触の人と会ってない?
 良い人って思ったのは……ジョシュアさん、アンジェさん、アンナさんに……あと、ドミニクさん?

 よくわからないのは、セオドールさんだよね。フードをしてて顔が見えない分、どうしても不審者って感じはするけど、助けてくれたうえに道案内までしてくれたから。

 レイモンドさんは……アルとは違って怖い人というか……いつも怒ってる人? でも、怒ってる理由は道理が通ってるし……。
 もっと話してみたら、違うのかな? ジョシュアさんとアンジェさんの息子さんだから、悪い人じゃない、よね?

 ハーヴェイさんは……思い出したくない。人違いしたことは申し訳なかったなって思うけど、先輩そっくりなのに違う人っていうのは悲しくなるから。
 きっと、もう会わないよね? ……会わないようにしなきゃ。

 今日で異世界3日目なのに……どうしてこんな色んな人と知り合ってるのかな? 正直、皆性格が濃いよね。
 ……それとも、ここではこれが普通なの?

「だとしたら、すっごく大変……」

 主に私の精神的に。
 すっかり乾いた髪からタオルを下して、肩にかけた。

 そのとき。
 カタン、と小さな音が聞こえた。

「? なに?」

 バルコニー辺り?
 夜でカーテンを閉めてるから、ここからだとバルコニーがどうなってるかわからない。

 雨が降ってる……とか?
 でも、昼は晴天って言葉がピッタリだったのに?

 天候が急変した、とか?

 でも、降るとしたら雨じゃなくて、みぞれとかヒョウとか、雪かな? 私が初めてこの世界に来たときも、雪が積もってたから。

「どうなのかな?」

 ちょっと気になる。
 カーテン、開けてみようかな?

 窓辺に近づいて、カーテンの端をつかんだ。シャッっとレールの音が鳴る。

「え……」

 誰か、いる?
 完全にカーテンを開けるとそこに人影があるなんて、予想外だよ。

 その人と、目が合った。

「!」

 そして、私はバルコニーにつながる窓を開けた。
 カーテンを閉める行動とは、真逆のことをしたのは衝動で。特に、考えて行動したわけじゃない。

 でも私は、彼の瞳にひきつけられて動いてしまった。

「あなたは……?」

 暗闇の中で手すりに腰掛ける彼は、黒い瞳をこっちに向けてきた。
 この世界で初めて見る黒は、この外に広がってる闇みたいに、深くて、底が見えそうになかった。

 部屋からの明かりで、彼の黒髪が鈍く光る。黒のマントは肩で金具で留められてて、その下には黒づくめの服装。
 黒いシャツに、黒いズボン、黒い編み上げブーツ、黒い柄の小型の剣……。
 肌の色以外は、全部漆黒。

 まるで、葬式のときの服装みたい……。

「あなた、誰……?」

 顔立ちは、優しいそうなのに。服装と彼の無表情と相まって、無機質に見える。
 私と同じくらいの年頃の彼は、わずかに眉を上げてみせた。

「俺の名前なんてどうでもいい」
「……でも、名前を呼ぶとき、困ります……」

 教えたくない、とかなの?
 無機質な顔を怪訝けげんそうにしかめて、彼は首をかしげた。

「呼ぶ必要はない」
「え、でも……必要はないって」

 私は、必要があるんだけど……。
 でも、強制はできないし……。

「それに、何の意味がある?」
「意味、はないです。……けど、名前を知ることで、ちょっと安心するというか……」

 この状況だって、考えみればおかしいよね。
 部屋のバルコニーに急に来た、知らない男の人と会話するなんて。それも夜中なんて。

 あれ? 私、もしかして女の子として致命的なくらい、ズレてる行動をしてるような……?

 今更『出ていってください!』って叫ぶのもおかしいよね?
 ……悲鳴の一つでも、上げておいた方がよかったのかな?

「え、ええっと……あの、その…………きゃ、キャー」
「……なんで急に鳴き声を上げている?」
「……な、なんでも、ない、です」

 すっごく呆れた目で見られてる!? どうしよう、失敗した気がする!
 もっと間抜けっぽくなってるような!?

「まぁ、いい……それで? お前は名前がわからないと困るのか?」
「……っ? ……そう、ですね。教えてもらったら、助かります」
「……そうか」

 彼はため息を一つこぼすと、面倒そうに乱暴に髪をかきあげた。

「俺はクロウ」
「……クロウ君、ですね」
「それはやめろ」
「……それ?」

 嫌そうに表情を歪ませて、クロウ君は首を振った。

「その『クロウ君』という呼び方だ」
「え……なんで、ですか? ……あ、クロウさんって、呼んだ方が……」
「違う。『君』だの『さん』だのつけるな。気味が悪い」
「……気味が悪いって……」

 ひどい。そんなに名前を呼ばれるの嫌ってこと?
 お願いして名前を教えてもらったけど、クロウ君にとっては本当に嫌だったってこと?

「クロウでいい」
「え……」
「なんだ」
「う、ううん。なんでも、ないです」

 そういう意味だったんだ。そっか。
 名前では呼んでもいいって、ことだよね?

「あ、あの、クロウ。私の名前は――」
「言わなくていい、聞くつもりもない。俺は、お前の名前に興味はない」
「そう、ですか……」

 バッサリ切り捨てられた!
 本当に興味なさそうに、クロウってば退屈そうにあくびをしてる。そんな拒絶するなんて、クロウって他人に興味がないのかな?

 たしかに出会ってばかりだから、私としてもあんまり気軽に名前を教えない方がいい、のかな?
 ……でも、クロウには名前を教えてもらったし……かといって、本人が必要ないっていうし……うーん?

 また聞かれたら、答えればいいよね?

「あの、それで……どうして、ここに来たんです、か? ……もしかして、迷子ですか?」
「いや、迷子じゃない。お前じゃあるまいし」
「え……?」

 即座に否定されたことより、切り返された言葉にドキッとした。

「それって、どういう……」
「どうもこうもない。言葉通りだ」
「……」

 聞いても深くは答えてくれなさそう。クロウは、退屈そうにしていた表情をなくして、スッとその黒目を細めた。

「……役者はそろった。後は、終焉しゅうえんむかえるのみだ」
「……? 役者? 終焉って……」

 一体、何のこと?
 クロウは朗々ろうろうと、まるでセリフを読み上げるみたいに語り続けてくる。

「俺から話すことは何もない。お前が選び、終焉へと向かわせる。ただ、それだけだ」
「私が……?」

 私が、選ぶ? でも、選ぶって何を?
 それに終焉なんて……不吉な言葉。

「あの……どういうこと、ですか?」
「……また来る」
「え!?」

 手すりからグラッと体勢を後ろへと傾けた彼は、私の視界からあっという間に消えた。
 そ、それよりここ、1階じゃないんだけど!?

「っ!」

 慌ててバルコニーに出て、手すりから身を乗り出して下を確認してみる。
 階下には木が生い茂ってるだけ。ちょっと離れたところに、昼間見て回った庭園が見えるけど……そこまでは届かないはず。

「……いない」

 姿なんて、全然ない。音だってしなかった。
 それとも、黒い服装だったから、この夜の風景に馴染んで消えちゃっただけ?

「……なんだったの?」

 よくわからない、謎かけのような言葉ばっかり残して。
 不思議な少年、クロウは私から姿を消した。
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