ミスキャスト!

梅津 咲火

文字の大きさ
23 / 164
◇第二章◇   知人は友人になりますか?

第十九話   「……やってみます」

しおりを挟む
 翌日。
 朝起きて、ご飯をとって。
 『よし、使用人としての働く練習1日目、頑張ろう!』って思った私は、さっそく、ジョシュアさんに今日の流れを聞こうとした。そして、そんな私に渡されたものは――

「きゃぁあああああ!! 可愛い! 素敵よ、リオンちゃん!」
「うむ、似合っているな」
「……そう、ですか?」

 自信ないけど……アンジェさんとジョシュアさんが言うなら、そう、なのかな?
 で、でも、ちょっと、ううん、とっても恥ずかしいんだけど!

 使用人として働くってメイド服を着るってこと、考えてなかったよ!
 使用人の正装として貸してもらって着替えた私は、二人にメイド姿を見せてた。

 レイモンドさんは、「そんなものに割く無駄な時間はありません」ってスタスタ部屋を出て行ったから、この場にいない。……ですよね。

 アンジェさん、滅茶苦茶目をキラキラさせてますけど、私のメイド姿なんて、楽しくないかと思うのに……。どうしてジョシュアさんも満足そうに頷いてるの?

「前回と同様に、指南役にはアンナをつけよう。彼女なら、一度話したから安心だろう? それに、アンナは若いが腕は確かでね、大抵のことは聞いても答えられる」
「! ……わかりました」

 アンナさんと一緒……それってとっても安心かも。

「とりあえず、本日はお試しといったところだ。肩肘をはらず、手順を確認していくだけとしなさい。わからないまま無理をしても、仕事が滞るだけだからね」
「……はい!」

 優しくも厳しいジョシュアさんの一言に、自然とピンと背筋が伸びた。

「リオンちゃん、頑張ってね!」
「は、はい!」

 ……うん、頑張らないと、ね!
 アンジェさんの励ましに、私は思わずグッとこぶしを握った。


 ◇◇◇


「では説明しますね! まずこの裏口前が、洗濯場となります!」

 アンナさんはまず、正面の玄関じゃなくって裏口に連れてきた。こんなところあるなんて知らなかった。

「川、とかに行かないんですか?」
「いいえ。たしかに一般的にはそうですけど、マクファーソン家はこの道具があるので大丈夫なんですよ!」
「これ……」

 アンナさんがポンポンと叩いたのは、大きな一つの木の桶。高さは私の腰くらいで、底の広さは5~6人が中に入っても余裕があるくらい。

 ……? あれ、この青い石なにかな?
 青い石が桶の婉曲えんきょくしてる壁の外側に、はめ込んである……?

「その魔石を使って洗濯を行います!」
「魔石?」

 魔石って、この石のこと?
 視線を石からアンナさんにずらすと、彼女は目をパチパチとさせた。

「あれ? ご存じないですか?」
「はい」
「あ、リオン様、遠方から来られたんでしたよね! なら、魔石って初めて見ましたか?」
「はい……初めて見ました」

 アンナさんは納得したみたいで、何度か頷いてる。
 ……ごめんなさい。遠方は遠方でも、魔石の存在自体聞いたことがないような世界です。

「えっとですね。私もそこまで深く学問を学んでいるわけではないので、聞きかじりなのですが。魔石というのは、精霊の好む力を特殊な石に付与しまして、誰でも魔法を使えるようにするものなんです」

 精霊……?

「魔法も、精霊の力を借りてるんですか?」
「あ、そこからですよね。はい、そうです。魔法も、それぞれの精霊の力をお借りして発動しているものです。詳しく話すと長くなってしまいますから、どんな精霊がいるのかは割愛させていただきますね」
「わかりました」

 魔法って奥が深いものみたい。話が長くなっちゃうくらい、色んな情報があるのかな?
 今度、本屋とか図書館とか街で探して、本で調べてみよう。

「魔石の色では、どんな精霊が力を貸してくれるのかわかります。この魔石は青なので、水の精霊の好む力が込められていますね」

 色でわかるの? なら、黄色とかはどんな精霊の力が借りれるの? 雷……とか?
 気になる! これも調べてみようかな。

「この洗濯する道具を起動するには、魔石に触れつつ念じれば一発です! ……そうです! リオン様、実際動かしてみましょう!」
「え……」

 動かすって……私、が?

「大丈夫です! 失敗なんてしませんよ、『誰でもできる』がこの商品の売りなんですから!」
「で、でも……」

 壊しちゃったりしない? 平気?
 
「何事にも挑戦ですよー。それに、使用人として本格的に働くことになりましたら、絶対、していただくんですから!」
「っ! ……わ、わかりました」

 正規採用されたら、できませんなんて言えないよね……。だったら、今のうちにやってみたほうがいいかな?

「……やってみます」
「はい! 頑張ってください、リオン様!」

 怖いから、恐る恐る手を伸ばしてみる。しっかり水とか、泡とか出るのかな? いっぱい出ると、その分洗濯も楽になるかな?
 私が石に触れた瞬間。

「え……ッキャァア!?」
「! リオン様!?」

 え、ちょ、え、ええ!?
 な、なんで!?

「なんで、いっぱい泡がこぼれて……!?」

 一気に噴き出した泡に、どうしたらいいのかわからなくなる。っていうより、むしろ泡の量が増えてるような……!?
 こ、このままだと噴水みたいになっちゃう!

「ア、アンナさん! あの! どっどうすればいいですか!? こっこれ!?」
「え!? えっと、あの……私にも初めて見ました!? ど、どうしましょう!?」

 アンナさんも予想外だったみたいで、慌ててる。
 手を放したら止まってくれないかな!?

「と、止まんない……!」
「あああ……え、えっと、ええっと! ど、どどどどうしましょう!? どうすればいいですか!?」
「わ、わからないです。わ、私が聞きたいです、アンナさん!」
「ですよね!? え、ええっと、ええと……お、落ち着きましょう!」

 無理です、アンナさん!

 泡が全然止みそうにないよ! もっと、激しく増えてってるような……!?
 もう泡が私達の膝の高さまであるなんて……このまま増え続けちゃったら、一体どうなっちゃうの!?

「……何ですか、この騒ぎは」

 ! この声って……。
 後ろの裏口の扉が開く音が聞こえたけど……まさか!?

「れ、レイモンドさん、き、来ちゃダメです!」
「は? というよりですね、あなたに名を呼ぶことを許した覚えは――」
「っ!? キャッ!?」
「ッチィ!」

 なんで!? どうして泡が一気に増えちゃったの!? なんか、滝が逆さまになって出てきてるくらいの勢いだよ!?
 このままだと、辺り一面水浸しどころか泡まみれになっちゃう! って、それ以前に、私とアンナさんとレイモンドさんも、全身ずぶ濡れに……!

 レイモンドさんは不機嫌そうに舌打ちしてるし! 前のアワアワも怖いし、後ろのレイモンドさんも怖いよ!

「《風よ集いなさい。見えぬ鎌となり、眼前の障害の泡沫を跡方なく吹き飛ばしなさい!》」
「!」

 私の顔の横から差し出された手の先から、いくつもの風が泡を容赦なく切り裂いてく。
 ちょうど雨みたいに降り注ぎそうになってた泡が、徐々に量を減らしていく。

「あなたも! さっさと魔石から手を放しなさい!」
「っは、はい!」

 レイモンドさんに言われて、慌ててずっと触れてたままだった魔石から手を放した。
 すると、少しずつ少しづつ噴水みたいになってた泡が消えていって、やがてわずかに残ったものもブクッと音を立ててなくなった。

「……ハァ」
「…………っ」

 よ、よかったぁ!
 レイモンドさんが溜息を吐いて伸ばしてた腕を下したから、これ以上泡が増えることはないんだってわかった。
 私も心から安心しちゃって、フッと息をこぼした。

 お、収まって本当に良かった……!

「あ、あの……レイモンドさん、あ、ありがとうございました」
「…………何を……」

 え?

「何をしているのですかっ! あなたはぁぁああああああ!!」

 レイモンドさんの怒声が、屋敷中に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない

白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。 女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。 佐藤サトシは30歳の独身高校教師。 一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。 一年A組の受け持つことになったサトシ先生。 その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。 サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...