ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第二章◇   知人は友人になりますか?

第二十二話  「あんた、こんなのに興味あるのか?」

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「いや、ごめんごめんって」
「……」

 散々人を笑ったくせに。よく言うね、ハーヴェイさん。
 ジトッと恨めしそうに見つめてると、さすがに彼もバツが悪くなったみたいで、頬を軽くかいてみせた。

「あー……そう睨むなよ。びになんでもしてやるから」
「……気軽になんでもなんて、口にしないでください。信用、できないです」
「そこはなんとか。信用してくれよ。ほら、俺って女に対しては誠実だから?」
「……」

 絶対、嘘。
 むしろ、女には不誠実の間違いだと思う。

「そんな目で見るなって。それで? 何かあるか?」
「……あの。だったら、本屋までの道のりを教えてくれますか?」

 さっきどうやって行こうか悩んでいたことを、ちょうどいいからハーヴェイさんに聞いてみよう。
 騎士って、たぶん元の世界の警官みたいなものだよね? だとしたら、きっと街のどこにその店があるのかわかるはず。

「は? 本屋? あんた、そこに行きたいのか?」
「はい」
「何のために?」
「え?」

 何のためにって……どうしてそんなことを聞くの? もしかして、からかわれてる?
 ハーヴェイさんの様子を観察しても、そんな感じはない。ありのままに、感じた質問をぶつけてきただけみたい。

 なんで、そんなことを疑問に思うの?

「……もちろん、本を買うためですけど」
「……あんた、文字読めんの?」
「? はい」

 え、読めるのが普通、ですよね? どうしてそんな驚いてるの?
 一昨日の地面に書かれた「セオドール」さんの名前を認識できたから、きっとこの世界の文章も私は読めるってことは確信してる。

「……へぇ。あんた、育ちが良いんだな。本が購入できるほど文字が読める奴はそうそういないのに。貴族出身か?」
「……? いいえ、違います。気づけば読めていました」
「それはまた、変な回答だな」

 貴族出身とかじゃないと、しっかり文字って読めないのかな? もしかしたら、学校とかが一般に開放されてないのかも。
 日本だって中学まで義務教育になったのって、ここ百年以内だって歴史で雑学として習ったような……。
 だから、普通の市民の人が書ける文字って簡単なのしかないのかも。もしくは、自分の名前しか書けない、とか?

「ま、細かいことは気にしないでおく。あ、少しここにいろ。今日は運の良いことに、俺は午後休暇取ってるんだよ。ちょうどいいから、俺が案内してやるよ」
「え……」
「いいか、待ってろよ。逃げんなよ!」
「……」

 そう叫ぶと同時に、ハーヴェイさんは走り去って行っちゃった。
 私の意見、全然聞いてないよあの人。

 三十分くらい待ってると、ハーヴェイさんがさっきの騎士の姿のまま戻ってきた。
 行きと同じように走って戻ってきたから、ちょっとビックリしちゃう。

「お待たせ、お嬢さん。じゃ、行こうか!」

 茶目っ気たっぷりに話しかけられても、ずっと走ってきたのがわかるくらい、彼の頬が赤くなってる。騎士らしく体を鍛えてるみたいだから、息切れはしてないけど正直疲れたと思うのに。

「あの……走ってこなくても」
「いや、女を長く待たせるなんて男としてないだろ。それにあんたのことだ、さっさとどっかに行きそうだ」
「……」

 女性うんぬんはともかく、私がどこか行くのは否定できない、かも。
 あんまり長い間待ってたら、もう来ないのかなって思って勝手に動きたくなるって予想できるよ。

「っぷ、図星か?」
「……どうでしょう?」
「わっかりやすい奴。ほら、行くぞ」
「!? え、あ、あの……!?」

 え、あの! ハーヴェイさん!
 どうして私達、手をつないでるの!?

 すっごく自然につないでくるなんて、さてはハーヴェイさん手慣れていますね!?
 この、女ったらし! 私は男の人に対して免疫が全然ないから、そんなことしないでほしいよ。

 それに、先輩と同じ顔だってことは変わらないから、先輩と手をつないでるみたいな感覚がする。こんなの、余計にドキドキしちゃうのに。

「あ、あの、その……! はっ、放して、ください!」
「ほらほら、遠慮すんなって。俺がここまでするなんて、滅多にないんだから感謝しろ?」
「~~で、できません……!」

 陽気に明るく、先輩のものと似ている笑顔をハーヴェイさんは浮かべてみせた。


 ◇◇◇

 
 『魔法入門学』。『世界のモンスター珍味料理』に『魔法具解説書』?
 ……どれも、面白そう。

 ハーヴェイさんが連れてきたのは、大通りから少し小道に入ったお店。そこには店内中に所狭しと並べられた本棚、そこに隙間なく並んでた本があった。
 その種類も様々で、魔法についての専門書もあれば、イラストはないけど図鑑みたいなものもあって、さらには一般的な物語とかもあった。品ぞろえが充実してて、とってもいい。

 一冊本棚から抜き取って、めくってみる。力を入れなくても、パラパラッと乾いたページがめくれる音って素敵。いかにも古書って気がして、そういうのって何だかロマンがあるよね?

 手に取ったのは、この世界の大陸についての本。

 ……この世界って一つの大陸があって、その端々に小さな島がいくつかあるみたい。その巨大の大陸内では、このパンプ王国のみしかないってわけでもなくて、他に6か国があるんだって。
 そして、この大陸の中央にあるのが、ちょうどこのパンプ王国みたい。

 ちょっと興味あるかも、この本。『世界の情勢』って……なんだかお堅いタイトルの本だけど、たぶん読める、かな?

 私が購入しようか悩んでると、ハーヴェイさんが店内なのを気遣って小声で話しかけてきた。

「あんた、こんなのに興味あるのか?」
「こんなのって……」

 その言い方はないんじゃないのかな? 本って、良いのに。読めば読むほど知識が増えていくのって、お得な気分になる。

 物語とかも嫌いじゃないよ? ただ……結末が決まっているのが、少し物足りないかな。だって、バットエンドだったら、ずっとその本ではそのままってことになるから。

「本って面倒だろ。雑学の本もたかが知れてる上に、生かす機会なんてそうそうない。かといって話しものは、陳腐ちんぷきる。文字を追うくらいなら女の尻を追いかけまわすか、それか剣を振り回すな」

 うわぁって言いたそうな顔で、ハーヴェイさんが私が持ってる本を見て首を振った。
 ……女のくだりは無視しとこう。でも、その言い分って。

「……ハーヴェイさん、『脳筋』って、聞いたことあります?」
「は? なんだそれ?」
「えーっと……脳が筋肉でできていそうなくらい、身体を鍛えるか動かすことに傾いてる人達です」
「あー……なるほど。あんたは俺をその『脳筋』だって言いたいわけ?」
「! ……あ、その、はい」
「うわ、正直! それで取り繕わないのな。初対面の初々しさはどこ行ったんだよ」
「……どこでしょうか?」

 少なくとも手に届く範囲じゃないことは確かだよね。

 あの時は先輩にソックリってことで動揺してたけど。この人は顔が似てるだけの別人だって思えば、そこまで拒絶は起きないから。
 元の世界に戻りたい、悲しいって顔を見るたびに思っちゃうから、あんまり見ないようにはしてるけど。

 声だけだったら、そこまでさみしくならないから。
 それに、この人は何もしてないのに冷たい素振りなんてしてたら、失礼すぎるよね?

 ……だけど、ちょっとだけ素気無い返し方をしちゃってるかも。だって、この人って言動が軽すぎるから。
 なんていうのかな? えっと……そうそう、ナンパな人!

 こういうタイプの人とは初めて関わるから、あしらい方がわからないんだよね。
 悪人じゃないってことは、さすがにわかったんだけど。

「ま、いいか。確かに、俺の知り合いにもよくそんな風なこと言われるからな」
「? 知り合いの方、ですか」
「そう。幼なじみで腐れ縁の。背の高さでは俺のほうが上なのに、器用に目線だけで見下してくるんだよ」
「目線で……」

 それって、結構難しいよね。
 ハーヴェイさんは、その幼なじみさんの真似をしようとしてるのかな? 薄目になってこっちを見てきたけど……あの、すっごく間抜けに見えます。伝えたい気持ちは買いますけど、やめた方が……。

「それでな、こう睨んできて『本能で生きているマッドエイプと相違ありませんね。早急に討伐されるよう、ギルドに依頼でもしましょうか?』って。酷いよな?」
「え、ええっと……」

 マッドエイプとかギルドとか初耳だけど。とりあえず一つ、言えることって……。

「あの、ハーヴェイさんって嫌われてるんですね」
「!? なっ違う! あいつはいつも誰に対してもそんな調子だ。俺だけ特段そんな風にされてるってわけじゃない」
「……そう、なんですか?」
「…………たぶんな」
「……」

 その『たぶん』の言葉が虚しいよ、ハーヴェイさん。
 あとそう言ってから、「あれ、そんなことないよな……? そうだよな?」ってブツブツ一人で考え込まないでください。とっても不穏です。

 ……それにしても。ハーヴェイさんの幼なじみの人って、言葉の内容とかが私の知ってる人と被っちゃう。
 丁寧語と冷たい言葉って……。

 …………えっと、まさか。そんな偶然、ない、よね?

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