ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第二章◇   知人は友人になりますか?

第三十二話  「あんたに届けものだ」

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 今日で異世界に来てから、11日目。
 なんだか、毎日が慌ただしくて来たのが昨日のことみたいに思えるよ。

 前回の空きの日は教会とか名所に行ったから、今度はどこへ行ってみようかな。
 できれば、職場を紹介してくれそうなところがいいんだけど……。

「えっと……」

 今は決まったらすぐに向かえるように、街頭で行先を考え中。やみくもに歩いても仕方ないしね。

 この国って、タウンワークみたいな求人情報が載ってる冊子とか置いてないのかな?
 ……うん。たぶんない、かな。だって、本って高価なんだよね? それなのに、そういう多めに用意しなきゃいけないのを発行できるはずないよ。

 だとしたら……前にハーヴェイさんが話題に挙げてたギルド、とか?
 どういうところなのかわからないけど、行ってみる価値はありそうだよね。

「おーい、クガ」
「……え?」

 今、聞き覚えのある声が聞こえたような?
 呼ばれたほうを見てみると、見知った人が私に手を軽く振りながら近づいてきた。 
 
「……偶然ですね、ハーヴェイさん。どうか、しましたか?」
「偶然も何も。俺はあんたを探してたんだって」
「……?」

 探してたって……。どうして、そんなわざわざ?
 疑問に首を傾げてしまうと、ハーヴェイさんは胸ポケットから一枚の白い封筒を取り出した。

 そして、そのまま封筒を私に差し出してきた。

「あんたに届けものだ」
「え?」

 私に?
 とっさに、手を伸ばして受け取ってしまう。だけど……手紙なんて、誰から?

 裏をめくってみると、赤のろうで封をされてる。蝋の上には、紋章みたいな印が浮き上がってた。
 丸みのある王冠が中央にあって、周りに植物のツルがしげってる。それらを全部、丸がグルッと囲ってた。なんのマークかな?

 封筒の右下には、滑らかな筆跡で文字が書かれてた。

「……アルから?」
「俺があんたと知り合いだからって、今朝あいつから託された。……っつーか、どこで手に入れたんだよ、そんなコネ」

 ハーヴェイさんがいぶかしそうな表情をしてる。そんなことを言うってことは、やっぱりアルって身分が高いのかな?

 騎士の彼が配達屋さん代わりになっちゃってるんだから、相当なのかもね。……あ、でも、『あいつ』って言ってるから、アルとは気安い関係だから頼まれたっていうだけ?
 ……どっちなのかな?

 とりあえず、ハーヴェイさんの質問に答えようとするけど。
 どこって言ったって……。

「……家?」
「はぁ!? そんなわけないだろ!」
「?」

 そんなわけないって言われても……。事実だよ?
 使用人の仕事をしてたら、ひょっこり現れたんだから。

「今、居候させてもらってるんです。その居候先に、アルが客人として来てたのがキッカケです」
「あー……なんつうか、その。まず居候してんのかとか、居候先何者だよってツッコミたいけど、一端おいとく。あんたって、超運が良いんだな」
「そう、なんですか?」
「そうだろ。そもそもだ、どうやってあんな奴を手懐かせたもんだよ」
「あんな奴って……」

 随分な言い様。しかもハーヴェイさん、すっごく渋い顔してる。まるで渋柿みたいな苦い食べ物でも食べたみたいに。
 陽気なハーヴェイさんをこんな嫌そうにさせるなんて……アルってば一体何をしたのかな。

「でも。私には最初から優しかった、ような……?」
「クガ!」
「っ!? は、はい!」

 び、びっくりしたよ。だって、ハーヴェイさんがいきなり私の両肩つかんだりするから。

 深刻そうな顔をしてる彼に、威勢よく返事しちゃったけど。
 どうかしたの? 悲壮感漂わせて、私に何を言う気なのかな?

「あんた……だまされてないか?」
「え?」
「あいつは腹に一物どころか、底なし沼みたいになんでも詰まってる奴だ。そんな奴が最初から優しいなんて、絶対裏がある。あんたみたいな良い女でも、おいしくいただかれてポイだ、ポイ」

 ポイって……そんな燃えるゴミみたいに。
 冗談なのかなって思っても、ハーヴェイさんは真面目な表情をしてるから、嘘を言ってるみたいには見えないし。

 えっと、ハーヴェイさんには、そう考えられちゃうような人なのかな。アルって。
 それとも。

「単純に、ハーヴェイさんが嫌われてるだけじゃ……? ポイも、ハーヴェイさんじゃないから、しないかと……」
「!?」
「あ」

 つ、つい本音が出ちゃった。口を片手で押さえたけど、もう遅いよね。
 そのまま、ハーヴェイさんの様子をうかがってみたら、彼はガックリ肩を落としてへこんでた。

「クガが容赦ねぇ……」
「……正直で、ごめんなさい」
「いや、あのな。それは謝ってるようで全然、謝ってないからな? むしろ、追い打ちかけてるぞ?」
「……」

 わ、わざとじゃないんです。ちょっと、思ったことが口から飛び出ただけなんです。
 だけど、落ち込んでるハーヴェイさんを見てると、どうしても罪悪感が……。

 わ、話題を変えようかな。……あ、そういえば。

「あ、あの……ハーヴェイさんって、アルと知り合い……なんですか?」
「…………は? あ、ああ、俺? ま、そうだな……級友だった奴だ。そこから、今もズルズル付き合いが続いてる」
「……」

 級友ってことは……同級生だったってこと? アルの出身校って、たしか。

「ハーヴェイさんも、王都魔法学院出身だったんですか?」
「あいつから聞いたのか? ああ、そうだ。俺も、そこの卒業生だ。とは言っても、俺は奴ほど魔法に関して明るくはないけど」

 肩をすくめてみせるハーヴェイさんは、そう肯定した。

「つまり、友人ですか」
「友人っつうか……敵?」
「!?」
「あー。あと、腐れ縁。これだな、うん」

 そっちの方がしっくりきてるみたいで、ハーヴェイさんは『うんうん』と腕組みをしてうなずいてる。
 て、敵って……友人と同意語だったかな?
 でも、手紙を渡しに行くくらいだから、仲は良いんだよね?

 男の人の友人関係って、よくわからないよ。それとも、二人が特殊なだけ?

「あいつともう一人の奴と、よくつるんだもんだよ。なんだかんだで、いっつも三人でいたな」
「もう一人?」

 それって前に言ってた人?

「あの、それって。ギルドに依頼、とか言ってた人ですか?」
「そうそいつ。あいつもクセがある奴でなー。まともなのは俺だけだった」
「……」

 いえ、あなたもまともじゃないです。どうしてそんなに女タラシなんですか。
 そう言いたいのをグッと我慢して、私は沈黙で返した。 
 
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