35 / 164
◇第二章◇ 知人は友人になりますか?
第三十一話 「君の力になれるなら」
しおりを挟む
教会に行ってそれから、昨日は街の名所を歩いてみたけど。他に職を見つけられるとか、目立った進捗はなくって。
元の世界に戻る方法だって、手掛かりは何一つない。
一応、あの後シスターに異世界から来た人はいるのか、とか聞いてみたけど、黙って首を振られちゃった。今まで聞いたことがないって。
だけど珍しい文献を探せば載っているのかも、ってアドバイスをもらった。歴史書とかには探せば不思議な人物としては載ってる可能性があるから。
でも、歴史書って……本、だよね。この世界の本って、高いはずだよ。
ということは、堂々巡り? どうにかしたくて、街を探ったり歩いてみたのに。
「……どうしよう……」
「悩み事?」
「っあ……ごめんなさい、アル。ちょっと、考え事してただけ」
私は、アルに心配ないと首を左右に振ってみせた。
……いけない。今は目の前にアルがいたのに。
今はちょうど、アルに遭遇して料理を振る舞ってたところ。
今回は具だくさんオムレツ。ナイフを入れると、中から鳥肉とブロッコリーとキノコがトローっとこぼれるもの。あとはジャガイモのポタージュを添えてみたよ。
アルはというと、それを食べようとしていた。
前のより、内容は力を入れてる。おいしく食べてもらえるといいな。
……そういえば、料理している間はさっきの件が気になって特に考えてなかったけど。
キノコって、この世界でも取れるんだね。大きさが手のひらくらいだったけど。鳥肉も、大きめだったな。きちんと解体済みで、胸肉のみだったって話なのに500gは余裕でありそうだった。
あれ? そんな大きな鳥なんている? キノコもそうだけど。異世界だから?
それとも、もしかして。RPGにありがちな、モンスターとか……?
……これ以上考えるのはやめておこうかな。そうしないと、これから私が毎食食べにくくなっちゃうかも。
「悩み事なら話してみてくれないかな? 何か力になれると思うよ」
「え?」
アルはナイフをオムレツにサクッと入れつつ、話しかけてきた。私がいた世界での満月みたいな黄色のオムレツが割れて、中身がこぼれる。
出てきたブロッコリーを、アルは口に運んだ。
「……でも、それは……」
話してもどうしようもないから。
それに、単なる愚痴を聞いてもご飯がおいしくなくなっちゃうんじゃないのかな?
アルは私の遠慮に対して、ニコニコと笑っていた。
「……うん、おいしい。リオン、話してみせてよ。私にできることは、なんでもしてあげるから」
「なんでもって……」
そんなの、冗談だよね? アルってば、大げさすぎるよ。
……でも、そういうノリだったら、話せるのかも。
私は、おずおずと口を開いた。
「実は――」
◇◇◇
「本を読むために、王宮図書の利用許可書が欲しい?」
「はい……。でも、絶対無理そうだから」
少しでもこの世界の知識がほしかったんだけど、ね。
それには、条件が厳しそう。
必要かどうかはわからないけど、市民権だって持ってない。それに、ある程度偉い人の推薦書だっているよね。
せめて、推薦書が必要かな。
「なら、私が用立てておこうか?」
「……え?」
今、なんて?
パッと顔を上げると、アルが微笑んでいた。
それって、準備しておいてくれるってこと?
どうやって? そもそも、できるの?
……でも、待って。もしかして、できるとしたらアルってすっごく偉い人なの?
「立場のことについては深く考えないでよ。あと、また敬称付けになるのも禁止するよ」
「……」
先読みされちゃった。私の困惑を、アルは無視して話を戻した。
「君の力になれるなら、それくらいなんてことはないよ」
「……でも」
軽々しくお願いしちゃっていいのかな?
もしも、それがアルの負担になったりとかしない? そうなのに、私のために無理してとかなら、心苦しくなるよ。
「ふふ……私のことを考えるなんて、優しいね。そこまで遠慮しなくていいんだよ。私が、君を甘やかしたいんだから」
「……」
楽しそうに笑うアルは、心からそう願ってるみたい。
細めて私を見つめる彼の瞳の方が、優しそう。……だけど、私は久々にアルの表情に恐怖を覚えた。
……なんでかな? 怖い顔なんてしてないし、話している内容だってそんな内容とは程遠いのに。
「あの……どうしてですか?」
「ん?」
「アルは、どうして私に優しくしてくれるんですか? だってまだ、会って3回目ですよ?」
私の問いかけに、アルは惚れ惚れしちゃうような、綺麗な笑みを返してきた。
「……私がリオンには優しくしたいだけだよ。残念だけど、それ以上の理由なんてないかな」
「……」
こういう人って、私の記憶が正しかったらタラシっていうよね。この見た目で、そんな会話を日頃からしてるとしたら、アルってかなりの女の人を泣かせてきたのかも。
それより、どうしようかな。
素直に甘えちゃおうかな。
……でも、なんだか怖くもあるんだよね。
アルに1回でも頼っちゃうと、その後も何回も頼っちゃうことがありそうで。
…………だけど、ね。これが一番いい方法だって、どこかでわかってる。それに、こんなチャンス二度と巡ってこないかも。
虫が良すぎて、裏を疑っちゃいたくなる。けど、ここはお願いしてみよう、かな。
「あの……頼んでもいいですか?」
「うん、もちろん」
「……じゃあ、お願いします」
「わかった。明日にでも、君の手元に届くようにするよ」
「え!?」
明日!? そんなすぐに発行できちゃうものなのかな?
「私はありがたいけど、それってできるものなんですか?」
「できるよ。早い方がいいよね?」
「それはそう、だけど……」
無理させちゃったりしないのかな。
こんなに警戒しちゃう理由は自分でもわからないけど、あんまりアルに頼っちゃいけないような気がするんだよね。だから、負担もなるべくかけたくないよ。
私の複雑な懸念をよそに、アルは朗らかに笑った。
「気を遣う必要なんてない。それくらい、君のためなら安いものだよ」
「……」
戸惑ったし、迷った。
でも、他に入手する明確な方法なんてないし、のどから手が出ちゃうほど欲しいから。
私は、やむなく首を縦に振った。
「わかりました。……ありがとうございます」
アルは私の言葉に、キョトンとした後。フワッとその表情がやわらかくほころんだ。
「……うん。どういたしまして」
「っ!」
その表情が心から嬉しそうだから、私は思わず息をのんじゃったよ。
なんで、私の言葉一つでコロコロ表情を変えるのかな、とか。
お礼を言ったのは、私の方なのに。どうしてアルの方が嬉しそうなの? とか。
聞きたいことはあるはずで、言いたいのに。
私は彼に対して、何も言えなかった。
元の世界に戻る方法だって、手掛かりは何一つない。
一応、あの後シスターに異世界から来た人はいるのか、とか聞いてみたけど、黙って首を振られちゃった。今まで聞いたことがないって。
だけど珍しい文献を探せば載っているのかも、ってアドバイスをもらった。歴史書とかには探せば不思議な人物としては載ってる可能性があるから。
でも、歴史書って……本、だよね。この世界の本って、高いはずだよ。
ということは、堂々巡り? どうにかしたくて、街を探ったり歩いてみたのに。
「……どうしよう……」
「悩み事?」
「っあ……ごめんなさい、アル。ちょっと、考え事してただけ」
私は、アルに心配ないと首を左右に振ってみせた。
……いけない。今は目の前にアルがいたのに。
今はちょうど、アルに遭遇して料理を振る舞ってたところ。
今回は具だくさんオムレツ。ナイフを入れると、中から鳥肉とブロッコリーとキノコがトローっとこぼれるもの。あとはジャガイモのポタージュを添えてみたよ。
アルはというと、それを食べようとしていた。
前のより、内容は力を入れてる。おいしく食べてもらえるといいな。
……そういえば、料理している間はさっきの件が気になって特に考えてなかったけど。
キノコって、この世界でも取れるんだね。大きさが手のひらくらいだったけど。鳥肉も、大きめだったな。きちんと解体済みで、胸肉のみだったって話なのに500gは余裕でありそうだった。
あれ? そんな大きな鳥なんている? キノコもそうだけど。異世界だから?
それとも、もしかして。RPGにありがちな、モンスターとか……?
……これ以上考えるのはやめておこうかな。そうしないと、これから私が毎食食べにくくなっちゃうかも。
「悩み事なら話してみてくれないかな? 何か力になれると思うよ」
「え?」
アルはナイフをオムレツにサクッと入れつつ、話しかけてきた。私がいた世界での満月みたいな黄色のオムレツが割れて、中身がこぼれる。
出てきたブロッコリーを、アルは口に運んだ。
「……でも、それは……」
話してもどうしようもないから。
それに、単なる愚痴を聞いてもご飯がおいしくなくなっちゃうんじゃないのかな?
アルは私の遠慮に対して、ニコニコと笑っていた。
「……うん、おいしい。リオン、話してみせてよ。私にできることは、なんでもしてあげるから」
「なんでもって……」
そんなの、冗談だよね? アルってば、大げさすぎるよ。
……でも、そういうノリだったら、話せるのかも。
私は、おずおずと口を開いた。
「実は――」
◇◇◇
「本を読むために、王宮図書の利用許可書が欲しい?」
「はい……。でも、絶対無理そうだから」
少しでもこの世界の知識がほしかったんだけど、ね。
それには、条件が厳しそう。
必要かどうかはわからないけど、市民権だって持ってない。それに、ある程度偉い人の推薦書だっているよね。
せめて、推薦書が必要かな。
「なら、私が用立てておこうか?」
「……え?」
今、なんて?
パッと顔を上げると、アルが微笑んでいた。
それって、準備しておいてくれるってこと?
どうやって? そもそも、できるの?
……でも、待って。もしかして、できるとしたらアルってすっごく偉い人なの?
「立場のことについては深く考えないでよ。あと、また敬称付けになるのも禁止するよ」
「……」
先読みされちゃった。私の困惑を、アルは無視して話を戻した。
「君の力になれるなら、それくらいなんてことはないよ」
「……でも」
軽々しくお願いしちゃっていいのかな?
もしも、それがアルの負担になったりとかしない? そうなのに、私のために無理してとかなら、心苦しくなるよ。
「ふふ……私のことを考えるなんて、優しいね。そこまで遠慮しなくていいんだよ。私が、君を甘やかしたいんだから」
「……」
楽しそうに笑うアルは、心からそう願ってるみたい。
細めて私を見つめる彼の瞳の方が、優しそう。……だけど、私は久々にアルの表情に恐怖を覚えた。
……なんでかな? 怖い顔なんてしてないし、話している内容だってそんな内容とは程遠いのに。
「あの……どうしてですか?」
「ん?」
「アルは、どうして私に優しくしてくれるんですか? だってまだ、会って3回目ですよ?」
私の問いかけに、アルは惚れ惚れしちゃうような、綺麗な笑みを返してきた。
「……私がリオンには優しくしたいだけだよ。残念だけど、それ以上の理由なんてないかな」
「……」
こういう人って、私の記憶が正しかったらタラシっていうよね。この見た目で、そんな会話を日頃からしてるとしたら、アルってかなりの女の人を泣かせてきたのかも。
それより、どうしようかな。
素直に甘えちゃおうかな。
……でも、なんだか怖くもあるんだよね。
アルに1回でも頼っちゃうと、その後も何回も頼っちゃうことがありそうで。
…………だけど、ね。これが一番いい方法だって、どこかでわかってる。それに、こんなチャンス二度と巡ってこないかも。
虫が良すぎて、裏を疑っちゃいたくなる。けど、ここはお願いしてみよう、かな。
「あの……頼んでもいいですか?」
「うん、もちろん」
「……じゃあ、お願いします」
「わかった。明日にでも、君の手元に届くようにするよ」
「え!?」
明日!? そんなすぐに発行できちゃうものなのかな?
「私はありがたいけど、それってできるものなんですか?」
「できるよ。早い方がいいよね?」
「それはそう、だけど……」
無理させちゃったりしないのかな。
こんなに警戒しちゃう理由は自分でもわからないけど、あんまりアルに頼っちゃいけないような気がするんだよね。だから、負担もなるべくかけたくないよ。
私の複雑な懸念をよそに、アルは朗らかに笑った。
「気を遣う必要なんてない。それくらい、君のためなら安いものだよ」
「……」
戸惑ったし、迷った。
でも、他に入手する明確な方法なんてないし、のどから手が出ちゃうほど欲しいから。
私は、やむなく首を縦に振った。
「わかりました。……ありがとうございます」
アルは私の言葉に、キョトンとした後。フワッとその表情がやわらかくほころんだ。
「……うん。どういたしまして」
「っ!」
その表情が心から嬉しそうだから、私は思わず息をのんじゃったよ。
なんで、私の言葉一つでコロコロ表情を変えるのかな、とか。
お礼を言ったのは、私の方なのに。どうしてアルの方が嬉しそうなの? とか。
聞きたいことはあるはずで、言いたいのに。
私は彼に対して、何も言えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる