ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第二章◇   知人は友人になりますか?

第三十一話  「君の力になれるなら」

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 教会に行ってそれから、昨日は街の名所を歩いてみたけど。他に職を見つけられるとか、目立った進捗はなくって。
 元の世界に戻る方法だって、手掛かりは何一つない。

 一応、あの後シスターに異世界から来た人はいるのか、とか聞いてみたけど、黙って首を振られちゃった。今まで聞いたことがないって。
 だけど珍しい文献を探せば載っているのかも、ってアドバイスをもらった。歴史書とかには探せば不思議な人物としては載ってる可能性があるから。

 でも、歴史書って……本、だよね。この世界の本って、高いはずだよ。

 ということは、堂々巡り? どうにかしたくて、街を探ったり歩いてみたのに。

「……どうしよう……」
「悩み事?」
「っあ……ごめんなさい、アル。ちょっと、考え事してただけ」

 私は、アルに心配ないと首を左右に振ってみせた。
 ……いけない。今は目の前にアルがいたのに。

 今はちょうど、アルに遭遇して料理を振る舞ってたところ。
 今回は具だくさんオムレツ。ナイフを入れると、中から鳥肉とブロッコリーとキノコがトローっとこぼれるもの。あとはジャガイモのポタージュを添えてみたよ。

 アルはというと、それを食べようとしていた。
 前のより、内容は力を入れてる。おいしく食べてもらえるといいな。

 ……そういえば、料理している間はさっきの件が気になって特に考えてなかったけど。
 キノコって、この世界でも取れるんだね。大きさが手のひらくらいだったけど。鳥肉も、大きめだったな。きちんと解体済みで、胸肉のみだったって話なのに500gは余裕でありそうだった。
 あれ? そんな大きな鳥なんている? キノコもそうだけど。異世界だから?
 それとも、もしかして。RPGにありがちな、モンスターとか……?

 ……これ以上考えるのはやめておこうかな。そうしないと、これから私が毎食食べにくくなっちゃうかも。

「悩み事なら話してみてくれないかな? 何か力になれると思うよ」
「え?」

 アルはナイフをオムレツにサクッと入れつつ、話しかけてきた。私がいた世界での満月みたいな黄色のオムレツが割れて、中身がこぼれる。
 出てきたブロッコリーを、アルは口に運んだ。

「……でも、それは……」

 話してもどうしようもないから。
 それに、単なる愚痴を聞いてもご飯がおいしくなくなっちゃうんじゃないのかな?

 アルは私の遠慮に対して、ニコニコと笑っていた。

「……うん、おいしい。リオン、話してみせてよ。私にできることは、なんでもしてあげるから」
「なんでもって……」

 そんなの、冗談だよね? アルってば、大げさすぎるよ。

 ……でも、そういうノリだったら、話せるのかも。 
 私は、おずおずと口を開いた。

「実は――」


 ◇◇◇


「本を読むために、王宮図書の利用許可書が欲しい?」
「はい……。でも、絶対無理そうだから」

 少しでもこの世界の知識がほしかったんだけど、ね。
 それには、条件が厳しそう。

 必要かどうかはわからないけど、市民権だって持ってない。それに、ある程度偉い人の推薦書だっているよね。
 せめて、推薦書が必要かな。

「なら、私が用立てておこうか?」
「……え?」

 今、なんて?

 パッと顔を上げると、アルが微笑んでいた。
 それって、準備しておいてくれるってこと?

 どうやって? そもそも、できるの?
 ……でも、待って。もしかして、できるとしたらアルってすっごく偉い人なの?

「立場のことについては深く考えないでよ。あと、また敬称付けになるのも禁止するよ」
「……」

 先読みされちゃった。私の困惑を、アルは無視して話を戻した。

「君の力になれるなら、それくらいなんてことはないよ」
「……でも」

 軽々しくお願いしちゃっていいのかな?
 もしも、それがアルの負担になったりとかしない? そうなのに、私のために無理してとかなら、心苦しくなるよ。

「ふふ……私のことを考えるなんて、優しいね。そこまで遠慮しなくていいんだよ。私が、君を甘やかしたいんだから」
「……」

 楽しそうに笑うアルは、心からそう願ってるみたい。
 細めて私を見つめる彼の瞳の方が、優しそう。……だけど、私は久々にアルの表情に恐怖を覚えた。

 ……なんでかな? 怖い顔なんてしてないし、話している内容だってそんな内容とは程遠いのに。

「あの……どうしてですか?」
「ん?」
「アルは、どうして私に優しくしてくれるんですか? だってまだ、会って3回目ですよ?」

 私の問いかけに、アルは惚れ惚れしちゃうような、綺麗な笑みを返してきた。

「……私がリオンには優しくしたいだけだよ。残念だけど、それ以上の理由なんてないかな」
「……」

 こういう人って、私の記憶が正しかったらタラシっていうよね。この見た目で、そんな会話を日頃からしてるとしたら、アルってかなりの女の人を泣かせてきたのかも。

 それより、どうしようかな。
 素直に甘えちゃおうかな。

 ……でも、なんだか怖くもあるんだよね。
 アルに1回でも頼っちゃうと、その後も何回も頼っちゃうことがありそうで。

 …………だけど、ね。これが一番いい方法だって、どこかでわかってる。それに、こんなチャンス二度と巡ってこないかも。
 虫が良すぎて、裏を疑っちゃいたくなる。けど、ここはお願いしてみよう、かな。

「あの……頼んでもいいですか?」
「うん、もちろん」
「……じゃあ、お願いします」
「わかった。明日にでも、君の手元に届くようにするよ」
「え!?」

 明日!? そんなすぐに発行できちゃうものなのかな?

「私はありがたいけど、それってできるものなんですか?」
「できるよ。早い方がいいよね?」
「それはそう、だけど……」

 無理させちゃったりしないのかな。
 こんなに警戒しちゃう理由は自分でもわからないけど、あんまりアルに頼っちゃいけないような気がするんだよね。だから、負担もなるべくかけたくないよ。

 私の複雑な懸念をよそに、アルは朗らかに笑った。

「気を遣う必要なんてない。それくらい、君のためなら安いものだよ」
「……」

 戸惑ったし、迷った。
 でも、他に入手する明確な方法なんてないし、のどから手が出ちゃうほど欲しいから。

 私は、やむなく首を縦に振った。

「わかりました。……ありがとうございます」

 アルは私の言葉に、キョトンとした後。フワッとその表情がやわらかくほころんだ。

「……うん。どういたしまして」
「っ!」

 その表情が心から嬉しそうだから、私は思わず息をのんじゃったよ。

 なんで、私の言葉一つでコロコロ表情を変えるのかな、とか。
 お礼を言ったのは、私の方なのに。どうしてアルの方が嬉しそうなの? とか。

 聞きたいことはあるはずで、言いたいのに。
 私は彼に対して、何も言えなかった。

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