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◇第二章◇ 知人は友人になりますか?
第三十五話 「妙な場所でよく会うものじゃな?」
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目の前の視界を埋めるのは、私の身長の2倍はある高さの本棚の数々。でも、それによる閉鎖感がないのが逆に不思議だけど、どうしてか落ち着く空間。
もしも本棚が倒れちゃったら、どうなっちゃうのかな?
「……!」
空きの今日、王宮図書に行ってみることにした私は、言葉を失ってた。
せっかくアルから手配してもらったから使ってみようと思って来たけど、こんなすごい場所だったなんて!
怖そうな騎士二人が入り口で立ってるのには何事かなって思ったけど、厳重なのも納得だよ!
ハーヴェイさんと本屋さんに行ったことがあるけど、その比じゃないくらいの蔵書数。元の世界で言ったことがあるどの図書館より、本の数が多い。
入っていいのか迷っちゃいそうなほど上質そうな赤のカーペットまで敷いてあるし。
……踏んで、いいんだよね? これ。
恐る恐る奥へと入っていくけど、誰にも会わない。許可された人しか入れないから、人気がないのかな?
図書館だからとっても静かで、誰か居てもわからないかも。
本棚の間を縫うように歩いていくと、閲覧者向けの読書用のテーブルと椅子がいくつか設置されてる場所に出た。
そのすぐ近くの本棚に、脚立が置かれてる。そして、脚立の上に座っている人が一人。
ここで会う初めての人は、どんな人なのかな?
「……え?」
その人は室内なのに、ローブをしっかり着込んで、パーカーもしっかり被っている。
そして、それは私にとって、見覚えのある人物のもの。
その人は、傍に立った私に気づいて、読んでいた本から視線を外した。パーカーの下から少しだけ見える口元が、わずかに弧を描いてる。
「……こんにちは、セオドールさん」
「久しいの。ふむ、妙な場所でよく会うものじゃな?」
「そう、ですね」
振り向いたからパーカーがかすかに揺れるけど、セオドールさんの顔はやっぱり見えなかった。
こんなところで会うなんて、予想もしなかったよ。
でも、ここで会うってことはセオドールさんって貴族か、貴族に認められてる有力者ってことなのかな?
……あれ、ちょっと待って。この理論だと、私も有力者ってことなの?
…………考えないことにしようかな。私には、力なんて何もないよ。あるはずなんて、ない。
「お主とは、縁があるようじゃ。よもや、このような場所で再会とは」
「私も、ビックリしてます」
「そうじゃな。中々来れる者も限られる上、互いにそのような立場にあるとは思うまい」
「あ……。私はただ、知り合いにお願いして何とかなっただけで、立場とかないです」
首を振って否定すると、セオドールさんが緩く首を振った。
「謙遜しなくてもよいぞ。人の伝手も、立派な力よ」
「そう、ですか?」
単なるお世辞だってわかってるけど、そう言ってもらえるとありがたいよね。
「わざわざ王宮図書に用とは。お主は本が好きなのかの?」
「……好きでも、嫌いでもないです。でも……物語なら」
欲しい知識があるから本を読むって感覚に近いから、好きだから読むっていうのとは違うかも。
昔は、おとぎ話とか童話とか物語が好きだったけど。
「どちらでもないのに、ここに来るのじゃな。お主は変わっておるの。……して、どのような物語なら好みじゃ?」
どんなのって、そんなの決まってるよ。
「ハッピーエンドの、です」
最初は不幸せだったり、ハラハラしちゃうような展開があったとしても。『めでたしめでたし』で締めくくられるお話がいい。
「ふむ、お主のような年頃の娘が好むにはちと、ズレておらんかの? 悲恋ものと言い出すと立てておった予想が、見事にハズレたわ」
「悲恋なんて……」
「お気に召さぬようじゃな」
思わずしかめっ面になってたみたい。セオドールさんは楽しそうに唇の端を上げてみせてた。
悲しい恋物語は、たしかに好きな人はいるだろうけど。私は苦手だし嫌い。
恋物語だけじゃなくて、普通の物語でも悲しいものは読みたくない。
「では、今日はその明るい結末の小説を探しに来たのじゃな?」
「いえ……この国のことが載ってる本を読みに来ました」
『異世界について載ってる本がないか探しに来ました』とはさすがに言いづらくて、思わず誤魔化しちゃった。
でも、今のだって嘘じゃない。この国のことをもっと知っておきたいって思ったのは事実だからね。
「パンプ王国をかの? 何故じゃ?」
「……遠くから来たから、この国についてほとんど知らないんです。だから、調べてみようかなって思いました」
「……そうなのじゃな。だとすれば……この辺りが妥当かの」
そう言って本棚から一つ、分厚い本を取り出した。
セオドールさんからそれを手渡されて、私は落とさないように両手で持った。
お、重いよ……! キャベツ一玉くらい重さあるよ、これ。どうしてセオド-ルさん、こんなに重たいの片手でヒョイッて持てたの!?
「我が独断で選んだものじゃが、読んでみるとよいぞ。歴史、環境、祭典、宗教、貴族の功績等が全て載っておる。詳細には載っておらんが、ひとまずはこれでよいじゃろう?」
「! ありがとう、ございます」
十分すぎるくらいだよ。
でも……今日でこれ、読み終えられるかな?
一人でいたら、挫折しちゃいそう。2~3時間したら寝ちゃいそうな気がするよ。
……あ。
「あの、セオドールさん。もしよかったら、ですけど……ここで私、読んでても良いですか?」
「……ふむ? ここで、とな? 突拍子もないことを言いよるの、お主は」
「ダメ、ですか?」
近くにちょうど閲覧者向けのテーブルとイスもあるから、ぴったりなんだけど。
ドキドキして返事を待ってると、あっさりとセオドールさんは首を縦に振ってくれた。
「べつに我は構わぬが。お主は奇特よの」
「……そうですか?」
そんなことないと思うけど。
セオドールさんの許可がもらえた私は、いそいそと一番近くの席に座った。
そして早速、目の前の本を読み始めてみようっと。
◇◇◇
……。
…………。
……………………。
……あ。やっと、半分くらい読み終わった。
セオドールさんが勧めてくれるくらいだから、この本とってもわかりやすい。思わず集中して読んじゃったよ。
今、どれくらい時間経ったのかな?
顔を上げると、文字ばっかり追いかけてたせいで、室内の光に目が少し痛くなる。
「っ! ……?」
図書館の窓から差し込む光に当たって、何かキラキラとしてる。
ホコリ?
でも、丸い球体みたい。大きさだって私の親指くらいだから、ホコリのはずないよね。
色だって、白とか灰色じゃなくて、薄いピンク色。
ピンク色の球体は、ふよふよってセオドールさんのパーカーの辺りを漂った。
セオドールさん、気づいてないの? それとも見えないの?
やがて、「ポンッ」と弾けるような音がした。そこにいたのは、人形サイズの女の子……?
「!!??!」
え、ええ!?
音がしたかと思ったら、ピンク色の物体が小さな女の子に変わっちゃった!?
驚いた。けど、この世界に来てしばらく経っちゃってるせいか、すぐに「そういうこともあるよね」なんて納得しちゃう。
なにより、可愛いよ! 手のひらサイズでちっちゃくて、すっごく可愛い。
撫でてみたいな……。
それと、あの大きさで、フワフワした服装って。童話とかで見たことあるような。
もしかしてだけど……妖精、なのかな?
「……あの、セオドールさん?」
「……」
もしかして、聞こえてないの? 本にすっごく集中しちゃってる。
あの子が近くにいることにも、気づいてないのかな?
私の視線に気づいた妖精さんが、可憐な笑顔を見せてくれた。
片手を軽く振られて、思わず振り返す。……何だか私、アイドルとかに手を振られたファンの気持ちがわかっちゃったかも。
手を振ることに満足した妖精さんは、セオドールさんの本を覗き込む。
「ふんふん」みたいな様子で、頷いてるけどわかるのかな?
セオドールさんもセオドールさんだよね。あんな大接近されて気づかないなんて、すごいよ。
今読んでる本だって、枕の代用として使えちゃいそうなほど分厚い。膝だって痺れたりしないのかなって心配になるし、何より集中力が高いよね。
私なら途中で絶対、読むのをいったん止めちゃうよ。休憩しながらじゃないと、しんどくなるから。
妖精さんはセオドールさんの肩に座って、本を読んでた。だけど、やっぱり飽きちゃったのか足をブラブラ動かし始める。
……うん、可愛い!
私は、とってもほんわかした気持ちになってた。これを写真に撮ったりとかして、残したいな。
ふいに、妖精さんはパタ、と動かしてた足を止めた。
……? どうしたのかな?
そして、クルリと私の方を向くと、笑顔を向けてきた。
「……!?」
なんでなのかな。すっごく可愛い笑顔なのに、私は嫌な予感がした。
そして、次の瞬間。彼女は、ギュッと近くにあった布をつかんで、引き上げた。
「……あ!」
妖精さんがつかんだのは、セオドールさんのパーカーだった。
「ダメ……っ!」
セオドールさんがずっとパーカーをしたままなのにも、きっと理由があるはずだから。それを勝手に外されるなんて、この人は望んでないと思って。
私はとっさに、制止の声を上げてた。
だけど、止めるのには少し遅くて、彼女は完全にパーカーを上げてしまった。
セオドールさんの顔が、髪が、はっきりと見えた。
「男の、子?」
そこにいたのは、小学生くらいの見た目の男の子だった。女の子かとも一瞬思ったくらい、線の細い儚げな顔立ちで、肌の色も私より白い。
でも、何より目を引いたのは、彼の髪の色と目。
「……アルビノ?」
肩までのある白い髪は、まるで雪みたい。窓からの日の光で、眩しい。
ルビーみたいな真っ赤な瞳は、つやつやきらめいててずっと見ていたいくらい。
「……? なんじゃ、どうしてこんな明るいのじゃ?」
「あ……」
セオドールさんの漏らした声に我に返った。見とれちゃってたけど、どうしよう。
彼になんて言えば、いいのかな?
私の戸惑いなんて知りもしないで、妖精さんはいつの間にか姿を消していた。
……無責任すぎるよ!
「クガ……どうしたのじゃ、そのように呆けおって」
「あ、あの……」
戸惑って、言葉を探してる私をセオドールさんは不審そうにしばらく見つめてた。
「なんじゃ? ほんに、如何様にしたのじゃ。様子が常と違うではないかの」
「それは……」
なんて言ったら、一番いいのかな?
「……まさか」
ハッと何かに気づいた顔になって、彼はそっと手を頭にあてた。
「っ!」
「あ……」
セオドールさんが、わかっちゃった。
すぐに、その不思議そうな表情を悲しそうに、顔を歪ませた。
「さしずめ、フェアリーのせいか。……見られて、しまったのじゃな」
「ごめん、なさい」
見てしまって、ごめんなさい。
そんなに見られたくないものだなんて、思わなかった。
目を逸らしちゃえばよかった。セオドールさんの顔が見たいって、少しでも思った私がいけなかった。
彼に、そんな顔をさせてしまうくらいなら。
そんな……まるで、全てに絶望したみたいな表情なんて。
「見苦しいものを晒してすまぬな……詫びにもう、お主には会わぬので許せ」
「え……!」
もう会わないって、どういうこと!?
私とは、もう会いたくないってことなの?
「さらばじゃ」
「ま、待って!」
呼び止める私を無視して、セオドールさんは指を振るう。
そして、一瞬で姿を消した。
最初から誰もいなかったみたいに、彼はいなくなっちゃった。
痕跡といえば、読みかけだった彼の本1冊。
それが、ポツンと脚立の一番上に乗っかってた。
「そんな……」
せっかく、仲良くなれたと思ったのに。
「もう、会えないの……?」
私の呟きが、やけに大きく聞こえた。
もしも本棚が倒れちゃったら、どうなっちゃうのかな?
「……!」
空きの今日、王宮図書に行ってみることにした私は、言葉を失ってた。
せっかくアルから手配してもらったから使ってみようと思って来たけど、こんなすごい場所だったなんて!
怖そうな騎士二人が入り口で立ってるのには何事かなって思ったけど、厳重なのも納得だよ!
ハーヴェイさんと本屋さんに行ったことがあるけど、その比じゃないくらいの蔵書数。元の世界で言ったことがあるどの図書館より、本の数が多い。
入っていいのか迷っちゃいそうなほど上質そうな赤のカーペットまで敷いてあるし。
……踏んで、いいんだよね? これ。
恐る恐る奥へと入っていくけど、誰にも会わない。許可された人しか入れないから、人気がないのかな?
図書館だからとっても静かで、誰か居てもわからないかも。
本棚の間を縫うように歩いていくと、閲覧者向けの読書用のテーブルと椅子がいくつか設置されてる場所に出た。
そのすぐ近くの本棚に、脚立が置かれてる。そして、脚立の上に座っている人が一人。
ここで会う初めての人は、どんな人なのかな?
「……え?」
その人は室内なのに、ローブをしっかり着込んで、パーカーもしっかり被っている。
そして、それは私にとって、見覚えのある人物のもの。
その人は、傍に立った私に気づいて、読んでいた本から視線を外した。パーカーの下から少しだけ見える口元が、わずかに弧を描いてる。
「……こんにちは、セオドールさん」
「久しいの。ふむ、妙な場所でよく会うものじゃな?」
「そう、ですね」
振り向いたからパーカーがかすかに揺れるけど、セオドールさんの顔はやっぱり見えなかった。
こんなところで会うなんて、予想もしなかったよ。
でも、ここで会うってことはセオドールさんって貴族か、貴族に認められてる有力者ってことなのかな?
……あれ、ちょっと待って。この理論だと、私も有力者ってことなの?
…………考えないことにしようかな。私には、力なんて何もないよ。あるはずなんて、ない。
「お主とは、縁があるようじゃ。よもや、このような場所で再会とは」
「私も、ビックリしてます」
「そうじゃな。中々来れる者も限られる上、互いにそのような立場にあるとは思うまい」
「あ……。私はただ、知り合いにお願いして何とかなっただけで、立場とかないです」
首を振って否定すると、セオドールさんが緩く首を振った。
「謙遜しなくてもよいぞ。人の伝手も、立派な力よ」
「そう、ですか?」
単なるお世辞だってわかってるけど、そう言ってもらえるとありがたいよね。
「わざわざ王宮図書に用とは。お主は本が好きなのかの?」
「……好きでも、嫌いでもないです。でも……物語なら」
欲しい知識があるから本を読むって感覚に近いから、好きだから読むっていうのとは違うかも。
昔は、おとぎ話とか童話とか物語が好きだったけど。
「どちらでもないのに、ここに来るのじゃな。お主は変わっておるの。……して、どのような物語なら好みじゃ?」
どんなのって、そんなの決まってるよ。
「ハッピーエンドの、です」
最初は不幸せだったり、ハラハラしちゃうような展開があったとしても。『めでたしめでたし』で締めくくられるお話がいい。
「ふむ、お主のような年頃の娘が好むにはちと、ズレておらんかの? 悲恋ものと言い出すと立てておった予想が、見事にハズレたわ」
「悲恋なんて……」
「お気に召さぬようじゃな」
思わずしかめっ面になってたみたい。セオドールさんは楽しそうに唇の端を上げてみせてた。
悲しい恋物語は、たしかに好きな人はいるだろうけど。私は苦手だし嫌い。
恋物語だけじゃなくて、普通の物語でも悲しいものは読みたくない。
「では、今日はその明るい結末の小説を探しに来たのじゃな?」
「いえ……この国のことが載ってる本を読みに来ました」
『異世界について載ってる本がないか探しに来ました』とはさすがに言いづらくて、思わず誤魔化しちゃった。
でも、今のだって嘘じゃない。この国のことをもっと知っておきたいって思ったのは事実だからね。
「パンプ王国をかの? 何故じゃ?」
「……遠くから来たから、この国についてほとんど知らないんです。だから、調べてみようかなって思いました」
「……そうなのじゃな。だとすれば……この辺りが妥当かの」
そう言って本棚から一つ、分厚い本を取り出した。
セオドールさんからそれを手渡されて、私は落とさないように両手で持った。
お、重いよ……! キャベツ一玉くらい重さあるよ、これ。どうしてセオド-ルさん、こんなに重たいの片手でヒョイッて持てたの!?
「我が独断で選んだものじゃが、読んでみるとよいぞ。歴史、環境、祭典、宗教、貴族の功績等が全て載っておる。詳細には載っておらんが、ひとまずはこれでよいじゃろう?」
「! ありがとう、ございます」
十分すぎるくらいだよ。
でも……今日でこれ、読み終えられるかな?
一人でいたら、挫折しちゃいそう。2~3時間したら寝ちゃいそうな気がするよ。
……あ。
「あの、セオドールさん。もしよかったら、ですけど……ここで私、読んでても良いですか?」
「……ふむ? ここで、とな? 突拍子もないことを言いよるの、お主は」
「ダメ、ですか?」
近くにちょうど閲覧者向けのテーブルとイスもあるから、ぴったりなんだけど。
ドキドキして返事を待ってると、あっさりとセオドールさんは首を縦に振ってくれた。
「べつに我は構わぬが。お主は奇特よの」
「……そうですか?」
そんなことないと思うけど。
セオドールさんの許可がもらえた私は、いそいそと一番近くの席に座った。
そして早速、目の前の本を読み始めてみようっと。
◇◇◇
……。
…………。
……………………。
……あ。やっと、半分くらい読み終わった。
セオドールさんが勧めてくれるくらいだから、この本とってもわかりやすい。思わず集中して読んじゃったよ。
今、どれくらい時間経ったのかな?
顔を上げると、文字ばっかり追いかけてたせいで、室内の光に目が少し痛くなる。
「っ! ……?」
図書館の窓から差し込む光に当たって、何かキラキラとしてる。
ホコリ?
でも、丸い球体みたい。大きさだって私の親指くらいだから、ホコリのはずないよね。
色だって、白とか灰色じゃなくて、薄いピンク色。
ピンク色の球体は、ふよふよってセオドールさんのパーカーの辺りを漂った。
セオドールさん、気づいてないの? それとも見えないの?
やがて、「ポンッ」と弾けるような音がした。そこにいたのは、人形サイズの女の子……?
「!!??!」
え、ええ!?
音がしたかと思ったら、ピンク色の物体が小さな女の子に変わっちゃった!?
驚いた。けど、この世界に来てしばらく経っちゃってるせいか、すぐに「そういうこともあるよね」なんて納得しちゃう。
なにより、可愛いよ! 手のひらサイズでちっちゃくて、すっごく可愛い。
撫でてみたいな……。
それと、あの大きさで、フワフワした服装って。童話とかで見たことあるような。
もしかしてだけど……妖精、なのかな?
「……あの、セオドールさん?」
「……」
もしかして、聞こえてないの? 本にすっごく集中しちゃってる。
あの子が近くにいることにも、気づいてないのかな?
私の視線に気づいた妖精さんが、可憐な笑顔を見せてくれた。
片手を軽く振られて、思わず振り返す。……何だか私、アイドルとかに手を振られたファンの気持ちがわかっちゃったかも。
手を振ることに満足した妖精さんは、セオドールさんの本を覗き込む。
「ふんふん」みたいな様子で、頷いてるけどわかるのかな?
セオドールさんもセオドールさんだよね。あんな大接近されて気づかないなんて、すごいよ。
今読んでる本だって、枕の代用として使えちゃいそうなほど分厚い。膝だって痺れたりしないのかなって心配になるし、何より集中力が高いよね。
私なら途中で絶対、読むのをいったん止めちゃうよ。休憩しながらじゃないと、しんどくなるから。
妖精さんはセオドールさんの肩に座って、本を読んでた。だけど、やっぱり飽きちゃったのか足をブラブラ動かし始める。
……うん、可愛い!
私は、とってもほんわかした気持ちになってた。これを写真に撮ったりとかして、残したいな。
ふいに、妖精さんはパタ、と動かしてた足を止めた。
……? どうしたのかな?
そして、クルリと私の方を向くと、笑顔を向けてきた。
「……!?」
なんでなのかな。すっごく可愛い笑顔なのに、私は嫌な予感がした。
そして、次の瞬間。彼女は、ギュッと近くにあった布をつかんで、引き上げた。
「……あ!」
妖精さんがつかんだのは、セオドールさんのパーカーだった。
「ダメ……っ!」
セオドールさんがずっとパーカーをしたままなのにも、きっと理由があるはずだから。それを勝手に外されるなんて、この人は望んでないと思って。
私はとっさに、制止の声を上げてた。
だけど、止めるのには少し遅くて、彼女は完全にパーカーを上げてしまった。
セオドールさんの顔が、髪が、はっきりと見えた。
「男の、子?」
そこにいたのは、小学生くらいの見た目の男の子だった。女の子かとも一瞬思ったくらい、線の細い儚げな顔立ちで、肌の色も私より白い。
でも、何より目を引いたのは、彼の髪の色と目。
「……アルビノ?」
肩までのある白い髪は、まるで雪みたい。窓からの日の光で、眩しい。
ルビーみたいな真っ赤な瞳は、つやつやきらめいててずっと見ていたいくらい。
「……? なんじゃ、どうしてこんな明るいのじゃ?」
「あ……」
セオドールさんの漏らした声に我に返った。見とれちゃってたけど、どうしよう。
彼になんて言えば、いいのかな?
私の戸惑いなんて知りもしないで、妖精さんはいつの間にか姿を消していた。
……無責任すぎるよ!
「クガ……どうしたのじゃ、そのように呆けおって」
「あ、あの……」
戸惑って、言葉を探してる私をセオドールさんは不審そうにしばらく見つめてた。
「なんじゃ? ほんに、如何様にしたのじゃ。様子が常と違うではないかの」
「それは……」
なんて言ったら、一番いいのかな?
「……まさか」
ハッと何かに気づいた顔になって、彼はそっと手を頭にあてた。
「っ!」
「あ……」
セオドールさんが、わかっちゃった。
すぐに、その不思議そうな表情を悲しそうに、顔を歪ませた。
「さしずめ、フェアリーのせいか。……見られて、しまったのじゃな」
「ごめん、なさい」
見てしまって、ごめんなさい。
そんなに見られたくないものだなんて、思わなかった。
目を逸らしちゃえばよかった。セオドールさんの顔が見たいって、少しでも思った私がいけなかった。
彼に、そんな顔をさせてしまうくらいなら。
そんな……まるで、全てに絶望したみたいな表情なんて。
「見苦しいものを晒してすまぬな……詫びにもう、お主には会わぬので許せ」
「え……!」
もう会わないって、どういうこと!?
私とは、もう会いたくないってことなの?
「さらばじゃ」
「ま、待って!」
呼び止める私を無視して、セオドールさんは指を振るう。
そして、一瞬で姿を消した。
最初から誰もいなかったみたいに、彼はいなくなっちゃった。
痕跡といえば、読みかけだった彼の本1冊。
それが、ポツンと脚立の一番上に乗っかってた。
「そんな……」
せっかく、仲良くなれたと思ったのに。
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