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◇第二章◇ 知人は友人になりますか?
第三十六話 「……どうするつもりなのですか?」
しおりを挟む「……」
昨日、セオドールさんの件があってから。夜が明けて、朝が来ても私は何も考えられなくなってた。
使用人として働く日だから、しっかり仕事に取り組まなきゃいけない。でも、どうしても身が入らなくて。
誰かと顔を合わせるときは、何事もないように過ごせてるようにみせたけど。でも、一人になると、どうしても考えちゃう。
庭の掃き掃除をしていても、浮かぶのは別れ際のセオドールさんの顔。
あの時、何をしておけば。彼を悲しませずに済んだの?
それとも、しっかり何か伝えれば、事態は変わったのかな。
「わからないよ……」
ぼやいてしまうけど、その後に出ちゃうのは決まってため息。
周りに誰もいないからいいけど、こんな姿を見られたら。マクファーソンの人達は良い人すぎるから、きっと怒るよりも心配させちゃう。
ただでさえ今日の掃除の速度、いつもより遅いのに。このままじゃ、時間通りに次の仕事内容に移れないのに。
自分でもわかってる。でも、憂鬱すぎてボンヤリしちゃって、動けない。
「それに……」
それに、私は選ばなきゃいけない。
明日で、この屋敷に滞在を決めて14日目になる。区切りの日になるんだから。
――方法は、三つ。
一つは、ここで使用人を続ける。
二つは、ジョシュアさんに仕事先を紹介してもらって、ここじゃないところに勤める。
三つ目は、ハーヴェイさんの紹介で、騎士舎に家政婦として雇われる。
このうちのどれかから、私は、選ばなきゃいけない。
私の目標は、『元の世界に帰る』。これだけは変わらないけど、それを探す手段はアルのおかげで、本という情報で手に入れてる。
でも、それが書いてある本がすぐに見つかるとは思えない。だって、あの蔵書数だったからね。……一体全部で何冊王宮図書にあるのかな。
それに、全部読み終わったとして。本に『異世界に帰る』ためのヒントが載ってるとは限らない。
とすれば、長期戦になるのは目に見えてる。長い期間勤めるっていう覚悟で、さっきの三つから今後を決めなきゃいけない。
……ここで、神様から直々に元の世界に帰れるって言われる可能性は、今捨てておこうかな。これまでの間で一回も、何も神様からアプローチないからね。
ここまでそうってことは、これからもきっと、その希望は望めないはずだよ。
私は、どうすればいいのかな。
何を選んだら一番いいの?
頭はずっとグルグルして集中できてないけど、ただ、手だけはしっかり動かさなきゃとはわかってて。
私はため息をつきながら、箒を使って落ち葉をかき集めてた。ただし、掃いてもそのほとんどが空振りだったけど。
「……?」
そんな不毛すぎる動きをしていたら、石畳とあたって鳴る靴音が後ろから聞こえた。
……誰?
背後を振り返ったら、モノクルをした物静かで冷たい物言いをよくする彼がいた。
前は一対一なんて怖くてビクビクしちゃった。だけど、セバスチャンとかアルが関わったときの彼を見た時から、その時の恐怖心はだいぶ薄れてる。
その証拠に、今、私の肩は全然震えてない。
「レイモンドさん」
「……ここに居たのですか」
振り向けば、レイモンドさんが私をあの深い緑色の瞳に映していた。
……「ここに居た」? それって、つまりレイモンドさんが、私を探してたってこと?
何のために?
疑問を持ったまま、私は彼の様子をうかがっていた。
レイモンドさんは、普段の冷静な素振りじゃなくて、何故か、どこか緊張してるみたいで。
「あなたは……どうするつもりなのですか?」
「え……」
投げかけられた言葉に、私は思わず目を開いてしまった。
レイモンドさんは何かを我慢するような、苦しそうな表情を浮かべてる。
「何が、ですか?」
「明日で、あなたがマクファーソン家に来て14日目になります」
「っ!?」
それは、さっきまで私がちょうど考えてたことで。
息をのみ込んだ私は、どう返事をしていいのかわからなくなる。
……でも、どうしてわざわざ、話しかけてまで聞いてくるの?
最初から私がこの屋敷に反対だったから、やっぱり……。
「……レイモンドさんは、出て行ってほしいですよね」
「……」
どうして、こんなことを私は聞いてるの?
返ってくる答えなんて、わかりきっているのに。
レイモンドさんは、静かに息を吸い込んで、ゆっくりと言葉と一緒に吐き出した。
「……愚問です。当然でしょう? 私にとってあなたは煩わしい存在でしかないのですから」
「……そう、ですよね」
予想してた言葉なのに。どうして私は今、ガッカリしてるのかな。
どこかで、期待してたの? レイモンドさんが、少しでも否定してくれるなんて。
そんな都合の良いこと、起きるはずがないよ。
落ち込む私に、レイモンドさんは冷たい微笑を向けてきた。
「後一日くらい耐えます。けれど、速やかに出て行ってくださいね。まさか、残るなんて恥知らずなことは、言い出したりしないでしょう?」
「! ……失礼、します」
これ以上聞きたくない。
心臓を容赦なく切り裂いていく彼の言葉は、耳が痛くなる。
だから私は、情けないけど背を向けてこの場から逃げ出すことを選んだ。
軽く頭を下げて、レイモンドさんから離れた。
彼は、当たり前の意見を言っただけ。だから、「そんなことを言わないで」なんて責めるのは間違ってるよね。
だから、気持ちが苦しくなって顔色を変えちゃった私の表情なんて、見せるわけにはいかないよ。
……声の震えだけは、どうしても誤魔化せなかったけど。
「……ハァ」
「……」
少し距離がある背後から、レイモンドさんのため息が聞こえた。
……呆れさせちゃったのかな。
昨日もそうだったけど。
レイモンドさんとも少しは仲良くなれたって思ってたのは、きっと、私の勘違いで。
たぶん、そういう私の願望が先走っちゃっただけで。
――事実はきっと。
「私は……」
やっぱり、とにかく私が元の世界に早く戻ることが、誰にも迷惑をかけないことなんだよ。
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