ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第二章◇   知人は友人になりますか?

第三十七話  「お前の幸せは、どこにある?」

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「はぁ……」

 就寝前の時間。
 私はため息を吐きつつ、ベットに力なく横たわった。やわらかいベットが、とっても快適。
 
 ……もう何もしたくない。考えたくない。
 でも、絶対に、今じゃないと決められないし、考えなきゃいけない。

 天井で淡くつく照明用の魔道具を見上げて、私はボンヤリとする。

「私は……どうしたいの?」

 自分への問いかけが、虚しく部屋中に響く。返す人がいないからこそ、言える。

 迷っているけど、いい加減に決めなきゃいけない。今後の身の振り方を、考えなきゃ。
 時間は限られてるんだから。

 ゴロゴロベットの上で何となく転がると、気が紛れる。……って、まぎれちゃダメなんだっけ。

「……」

 頭の中がグチャグチャに散らかってて、全然整理できてない。
 ここ数日の出来事が、多くありすぎたせいもあるかも。

 やっと慣れてきたかなってときに、たくさん驚いたこととか悲しいことがあったから。

 レイモンドさんには、「早く出て行け」なんて言われて。
 ハーヴェイさんは、意外と面倒見が良くて、騎士舎の仕事を紹介してもらえた。
 アルは、初めて会った時より今の方が全然性格がつかめないし。
 セオドールさんには、「二度と会わない」って悲しそうな顔をさせちゃった。

「……これじゃ、ダメだよね」

 外の空気でも吸って、気分転換しようかな?

 立ち上がってバルコニーに通じる窓に近づいた。もう、すっかり月が空に上がりきってる時間だよね。
 カーテンを開けてみれば、それもわかるかな。

「……!」

 引いていたカーテンを開けると、バルコニーに人がいた。
 その人は手すりに腰けて、まるでここにいるのが当然、って感じで居座ってる。そんな彼は、以前一度だけ話したことがあった。

 窓を開けると、月を静かに見上げていた彼がこっちを向いた。
 水色の月が、彼の黒髪を淡い光で照らしている。

 私は自然と、彼の名前を口にしていた。

「クロウ?」
「……」

 無言!?
 『久しぶり』なんてあいさつが返ってくることも、期待しなかったけど。せめて一言くらいほしいよ!

「あの……久しぶり」
「……そうだな」
「……」
「……」

 え、それだけ!?
 せめてもうちょっと、何か言って!?

 ……待ってみても、きっと変わらないよね。
 そもそも、前も思ったけど、クロウは何のためにここに来てるのかな?

「あの……クロウは、どうしてここに来たの? 前も、来てたけど……」
「俺は、見届ける義務がある」
「義務?」

 堅苦しい言葉。
 それに、見届けるって?

「あの……何を? 何を、見届けるの?」
「お前がもたらす終焉しゅうえんを」
「……前も、それ言ってたよね。終焉って、何?」

 不穏な言葉だったから、みょうに耳に残ってたんだよね。
 聞く前に結局、クロウがバルコニーから飛び降りちゃったから詳しく聞けなかったけど。今なら答えが聞けるかも。

「終焉は終焉でしかない」
「……それがわからないんだけど」
「時がくればいずれわかる」
「……」

 無機質に言うなんて、まるで定められたセリフみたい。
 掘り下げても、かたくなに同じ答えしか戻ってこなさそうな気がする。

 要領がつかめないことばかり言われて、もやもやするのに。クロウは、私が落ち着くのを待ってなんかくれない。

「そのために、お前は選択しなければならない」
「え……」

 なんか、今の私の状況を知ってるみたい。
 ……まさか、そんなはずないよね。

 戸惑って思わず声を上げちゃった私を、クロウはただ闇のような瞳で見ていた。

 吸い込まれそうな瞳。それは、彼の感情が読み取れないってせいもあるのかも。……ううん、もしかしたらクロウは、何も考えていないのかな。 

 ……そういえば、元の世界では見慣れた黒なのに、どうしてこの世界ではないの?

 外れてしまった私の思考を、クロウの問いが現実に引き戻した。

「お前の幸せは、どこにある?」
「…………私の、幸せ?」

 そんなの……わからないよ。

 困って黙ってしまった私に、クロウは問い続けた。

「お前は、この世界で何をしたい。全ては、ここに集約する」
「ナシ……?」

 つい、食べるナシが浮かんじゃったけど、そんなはずないよね。きっと、『成す』って言いたいのかな。
 何をしたいか、なんて……。

「帰る方法を探すだけ、だけど」
「……それすらも、答えることが困難なのか」

 クロウが険しい顔になったってことは、答えを間違えた? それとも、彼の欲しい言葉じゃなかったのかな。

「わかった。では、お前が一番、そばにいたい相手は誰だ」
「……え?」

 何? その質問。
 冗談かな? ……でも、とっても真剣にクロウが聞いてるから、きっと、彼にとっては重要なことなのかな。
 でも、私の答えに何の意味があるの?

そばにいたい相手?」
「そうだ」

 聞き返すと、クロウはゆっくりとうなずいてみせる。

「この世界で、今、誰と共にいたいと願う?」
「……」

 ――この世界で、誰と?

 たぶん、『この世界で会った人たちの中で』ってことだよね?
 あっという間みたいに感じた2週間だけど、色んな人たちと会って私なりに彼らと少しづつ関わってきた。

 でも、もしも。その中で一人ってことだと……。

「私が、一緒にいたいのは――」



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