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◇第六章 ルイス編◇ 先輩に似てない彼は私にとって何ですか?
◆Louis Happy END◆ これからの未来も、あなたの横で(前編)
しおりを挟む「あ、あの!」
「……え?」
人混みの中で声をかけられて振り返ると、同い年くらいの女の子が私を見て表情を輝かせた。
彼女の後ろには、数人の女の子がチラチラと私の様子をうかがってる。
「私、ですか?」
「は、はい!!」
な、なに? なんで目が合った瞬間に、キラキラ目を輝かせるの? 腰を曲げて前のめりになられると、気圧されて思わず後ずさっちゃうんだけど。
「あの……『リオン・クガ』様、ですよね!? もしよかったら、握手していただけませんか!? 私、あなたの大ファンなんです!」
「!?」
「え!? こちらの方があの『リオン・クガ』様なの!? 私も! 私もサインしてください!」
「わ、私も! 私もお願いします!」
「あ、ちょっとあなた!? 図々しいのわよ!? 私だって、あの奇抜なサインがほしいのに! それを、彼女の負担になるかしらと、こうして我慢してるのに!」
「…………」
彼女の叫び声につられて、通行人の女の人も何人かが足を止めて会話に混じってきた。人が増えたかと思ったら、互いに火花を散らしあってる。
金切り声で言い争う原因がまさか私だって思いたくないけど。目の前の光景は、白昼夢でもなんでもなさそう。
ただ私は、休みを利用して街に買い物に来てただけなのに。
見て見ぬふりの現実逃避はできない……よね? むしろすればするほど、事態が悪化していくだけのような予感がする。
心なしか、囲ってきてる人の数が増えてるような……。気のせいだって思いたいよ。
「ええっと、その。ここでは他の方々の迷惑になりますので、できましたら握手だけにしていただけませんか?」
第一、私の握手にしても何の価値もないと思うのに……。
「安心しなよ! ここにテーブルとイスを男共に用意してもらったさ!」
やんわりお断りをしようとしたら、サッと現れた気前の良さそうな中年女性がニッカリ笑った。
やっぱり取り囲んでる女の人が増えてる!?
若い女性だけじゃなくて、中年女性もチラホラいるよ!?
「ほら、あそこにいる彼女だよ!」なんて、口コミで広めなくていいですから! 人をこれ以上集めないでほしいよ。
おばさんの言葉が嘘でない証拠に、筋肉がしっかりついてる男性達が彼女の後でテーブルとイスを並べてた。
彼らと目が合うと、にこやかな笑顔が返ってきた。思わず会釈したら、「応援してるぜ!」なんて返事が。反応に困ることを自然に混ぜてきましたね!?
「いやー、私もすっかりファンでさ。年甲斐もなく、ドキドキしたよ。特に、あの求婚の場面にはやっとかって感じだったねぇ! 読んでいてじれったくて仕方なかったよ!」
「!?」
っちょ、え、ええ!?
やめてください! どんな罰ゲームですか!?
「私はあの出会いかしらね」
「あら、私はあのバジリスクからの危機を救いに駆けつける場面よ」
「っ! あの場面もいいわよね!! どちらも優劣つけられないわ!」
他の人達も口々に感想を言い合わないでください!
意見交換がされるたびに、私の精神が大いに羞恥で傷ついているので!
穴があったら入りたいなんてことわざ、使う機会があるなんて考えもしなかったのに!
おばさんは、私が恥ずかしさから変な汗が肌に浮かんできたのなんて知るよしもなくて。人好きの良さそうな顔で、にこやかに笑った。
「握手とサイン、両方してくれないかい? ほら、ここにあの本もあるからさ!」
そう言って取り出したのは、クリームがかったベージュ色の表紙に、黒の滑らかな曲線を描いて文字が踊ってる物で。
ーー『騎士と少女』と書かれてるそれは、今、この国で一番売れてる本だった。
中には『挿し絵』っていう技術が、この国で初めて取り入れられてる。今まではイラストとか絵は、絵本にしか使われてなかったみたい。
それがこの本では、合間のページに挟まってる。
絵があることで、まるでその場にいるように想像力をかき立てられる。それに、いたって斬新だって好評みたい。
それ以外にも内容が良い、みたい。いわく、騎士なのに軽くて気持ちが不透明な男と、最初は警戒心しか持ってない主人公の少女との不器用な恋が甘酸っぱくてトキメクとのこと。
「素晴らしいわ! これで、皆がサインがいただけるわね!」
「うれしい! あ、私友人の分も頼んじゃダメ?」
周りの人達の喜ぶ声が聞こえる。
こんなにハシャグ彼らを見たら、「いいえ」なんて言えそうもないよ。
「……アリガトウ、ゴザイマス」
「いいってことさ!」
笑顔が引きつってたのは、バレなかったって信じたいな。
結局、この日のほとんどは、サインと握手をするのに潰れた。
◇◇◇
なんだか、最近周りが騒がしい。
理由なんてわかりきってる。そんなのは一つだけ。
「どうして、私達のことが小説になっているんですか!?」
「さぁな? 俺だってわかんねぇよ。ま、おおかたあの舞踏会に参加した奴らの誰かが文章化したんだろ」
心からの叫びに、ルイスさんが肩をすくめてみせた。
どうして平然としていられるの!?
だって、私達の恋愛事情が本になって、しかもそれがこの国でベストセラーになってるのに!
「そもそも、それならどうして舞踏会以前のことも載っているんですか!?」
「わっかんね。誰かが見てたんじゃないか?」
全部が全部、書かれてるわけじゃないけど! 所々本当に実際にルイスさんと交わした会話が出てきて、ビックリしたよ。
それも忠実すぎて、怖いくらい。
朝の自主鍛練の休憩中のルイスさんに愚痴を吐き出しても、彼は気のない返事しか返ってこない。
同じ立場のルイスさんなら、今の気持ちをわかってくれると思ったのに。
「ルイスさんは、恥ずかしくないんですか」
「全然? アレがあればあんたにちょっかいかけるような奴だって出なくなるだろ?」
? 何を言ってるのかな、ルイスさん?
そんなこと、あるはずないのに。
「そんな人、いないですよ」
「あんたは自分を軽視しすぎなんだって」
心配しすぎですよ。
彼の言葉に首を傾けても、思い当たるところなんて浮かばない。だけど、ルイスさんは苦い表情を浮かべてる。
「数日前、食堂であいつらに絡まれてただろ」
「それは、あの本の読者だったからじゃないですか?」
ルイスさんの言葉で、あの時のことを思い出した。
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