ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第四章 ルイス編◇   チャラい彼はヒミツを抱えています

第十七話    「遠慮なく俺に甘えろ」

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 約束した日から一週間経つと、あっという間に花祭りの日になってしまった。
 
 この日を待ち望んでたわけじゃないけど、なんだかすごく早く時間が流れてった気がするよ。

 待ち合わせは騎士舎前に指定させてもらった。
 ハーヴェイさんとしてはデートらしく噴水前にしたかったみたいだけど、ずっと前みたいに女性集団の中にいる彼を呼びかけるのは御免ごめんだから丁重に断った。

「ごめんなさい。待ちましたか?」
「いや? 俺もさっき来たばっかだから」

 時間より早めに向かったのに、すでにハーヴェイさんがいるなんて。ちょっと、肩身がせまいな。

「気にするなって。俺がたまたま先にいただけだろ、な?」
「……」

 私の視線を、頭に手をのせて髪を混ぜることでさえぎってみせた。ハーヴェイさんは苦く微笑んでいた。

 言おうとした言葉を先回りして、謝らせないようにするなんて。
 ハーヴェイさんって時折そういうことをするから、私の考えが読めちゃうんじゃないかって不安になる。

「あんたがわかりやすいだけだって」
「……そんなことは」
「あるんだって」
「……」

 だとしたら不便かな。もし、ハーヴェイさんの女癖のことについて考えてるのがバレるのは、ちょっと……。

「おい、今何だか不穏なこと考えてないのか」
「!? なんでもない、です!」

 だから撫でてる手に力を込めないでください! 指に頭がくい込みそうで痛いです。

「……さて、と。クガでからかうのは置いといて」
「!?」

 『私』でからかっていたんですか!?
 驚いてる私を笑って、グシャグシャと髪を混ぜないでください。誤魔化されたりしないんですからね。

 片目をつむって、ハーヴェイさんは微笑みながら手を差し出した。 

「ほら、お手をどうぞ? お嬢さん」
「……」

 とってもキザったらしいのに、それが似合ってるからムカッとする。

 ふてくされて拒絶するのも、私の方が子供っぽい感じがする。かといって、素直に手をのせるのもしゃくさわるから、憎まれ口を叩きながらしてみせた。

「仕方ないから、エスコートされます」
「おう、されとけよ。なんてったって、デートなんだからな」

 そういえば、そういうことになってたんだっけ。
 でも……ハーヴェイさんにとって、私は『妹』みたいなものなんでしょ?

 …………どうしてかな。とっても、イラッとするんだけど。

 トゲトゲする気持ちをなだめて普通に話したいのに、私の口から飛び出たのは突っかかるような言葉。

「『妹』とデートするなんて、ハーヴェイさんはシスコンなんですね?」
「うぐっ!? ………………そ、そうだ! 俺はシスコンなんだ!」
「……そこで開き直られても、困ります」

 どうしてそこで胸を張るんですか。そして私はそれになんて反応したらいいんですか。

 私の困惑した瞳とはち合わせた彼の瞳が、逡巡しゅんじゅんした後にやわらかくゆるんだ。

「だから、遠慮なく俺に甘えろ。それが妹のつとめってもんだろ?」
「そんなの、初めて知りましたよ?」
「じゃあ新しい知識を得られてよかったな」
「……」

 嘘をサラリとついてみせて、ハーヴェイさんは明るく笑ってみせた。

 そんなことを言われても、甘えるなんてできない。仕方だってわからないんだから。
 そもそも、それって図々しすぎるよ。

 一番心配なのは、祭りが終わった後に切り替えがもしできなかったとき。
 もし、そのままハーヴェイさんの気持ちなんて構わずに甘えちゃって嫌われてしまったりなんかしたら。

 …………怖い。

 私の戸惑いを察した彼は、顔をのぞきこんできた。

「なにかしてほしいこととか、欲しいものとかないのか? なんでも買ってやるぞ?」
「……そう簡単に『なんでも』なんて言葉、使わないほうがいいですよ。もし私がすっごく高価な物が欲しいなんて言い出したら、どうするんですか?」
「けどあんたは言わない。そうだろ?」
「…………その通り、ですけど」

 たしかに私は言わない。だけど、同じような言葉、他の女の人にも言ってるんじゃないのかな? そうだとしたら、いつか破産しそうで心配になるよ。
 女性にだらしない人だとは思うけど、友人くらいにはなれたと思うから気を遣う。

「俺だって誰にでも言うわけじゃないぞ」
「どうでしょうか?」
「信用ないな。そんなにホイホイ言いそうか?」
「はい」
「即答かよ!」

 だって、仕方のないことだと思います。それで不服そうな顔をされても、正直な気持ちを話したにすぎないので困るよ。

「……ハァ。あのなー」
「…………はい」

 特大の溜息を一つ吐き出させちゃった。
 それから、ハーヴェイさんは人差し指で私のおでこを軽くつっついてきた。爪はとがってなかったから刺さらなかったけど、結構な力で押されたからちょっと痛い。

 思わず両手で額をかばった私を見ながら、彼は唇をとがらせた。

「俺は、あんただから言ってるんだ」
「え……」

 私だから?

 目を瞬かせる私を、ハーヴェイさんは微笑んで見つめてきた。

「あんただから、甘えてほしいし頼ってほしい」
「……どうして?」

 なんで、私なの? 

「…………それは」
「……」

 ――そこで、どうして黙るんですか? 何故、苦しそうな表情を浮かべるんですか?

 そう聞きたいのに、私は意気地がなくて口に出せなかった。

 ……もしもその質問を投げかけることが、ハーヴェイさんをつらい気持ちにさせるのなら。そんな疑問は考えない方がいいと思ったから。

「…………俺が気に入ったからに決まってるだろ! クガは特別! 妹だしな!」
「またそれですか」

 一瞬だけのぞかせた苦悩の表情なんかなかったみたいに、パッと明るい笑顔を見せてくる。
 どっちが本当の感情なのか、わからなくなるよ。

 でも、彼が誤魔化してくれたことに、安堵してしまった私がいることは事実。
 私が足を踏み入れてもいい内容なのか、わからなかったから。

 だってきっと、誰でも人に踏み込んでほしくない境界線ってあるはずだから。

「だから、な? あんたは、何も考えずに甘えろよ」
「……甘える、ですか」

 それを彼も望んでるってわかってはいるけど。でも、甘えるって言っても、どうしたらいいのかな。

 うーん?
 んんー…………。
 ……………………あ。これなら、どうかな?

 私は、つないだ手をギュッと握りしめた。
 その動作に気づいたハーヴェイさんが、「お?」という顔で私の様子をうかがってる。

「じゃあ、今日はよろしくお願いします。『お兄さん』?」
「……」
「…………」
「………………」

 あの、目を見開いて固まられると、非常に居たたまれないんですが。
 なにか言ってくれないのかな、ハーヴェイさん。

「いかかでしたか?」
「っ!?」
「え……」

 なんで急に、腕を振り払われたの?
 しっかりつないでいたはずの手がほどかれて、行き場をなくしてる。

 ハーヴェイさんの顔には、困惑しかなかった。
 
 行動をしたハーヴェイさんじゃなくって、私が戸惑ってるくらいなのに。
 どうしてそんな顔をするのかな?

「シスコンのハーヴェイさんだったら、こういうのが嬉しいかと思ったんですけど」
「……あ、ああ…………そう、だな」
「……違うんですか?」

 そもそも甘えるってはずが、それがどうしてそんなことに。

 ……? あ、れ? 私、甘えるためっていうよりも、ハーヴェイさんが喜ぶかと思って行動したの?

 ハーヴェイさんだけじゃなくって、私も混乱してきたよ。
 二人して困った顔を見合わせてるなんて、なんなのかなこの状況。

「ごめんなさい、困らせて」
「いや違うんだ! あんたが悪いわけじゃない!」
「でも……」

 だったら、さっきの表情の理由を教えてほしい。

 でも、そんなことを聞いても、余計にハーヴェイさんを困らせてしまうだけって予想できるから。私は黙るしかない。

「大丈夫だって! あんたは気にしなくていい。なんでもねぇから…………時間ももったいないし、もう行くか」
「あっ……」

 もう一度手をつなぎ直して、ハーヴェイさんはその手を引っ張ってきた。
 『この話題の詮索はなし』って無言で伝えてくる行動に、私からは何も聞けなくなる。

 私は、ハーヴェイさんに迷惑をかけたいわけじゃなくて。

 そうじゃなくて、私は――

「……っ!」
「……」

 つないだ手のひらに力を入れてみせても、もうハーヴェイさんは振り返って私を見ようとしなかった。
 それに、ギュッと胸の奥が引きしぼられるような切なさがくる。

 …………私は、ハーヴェイさんの力になりたいよ。

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