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◇第四章 ルイス編◇ チャラい彼はヒミツを抱えています
第十八話 「…………私が望むのは」
しおりを挟む喧騒はやかましく、人ごみは減ることがなくて、私とハーヴェイさんの周囲を流れていっている。
私達は、メインストリートの噴水近くに来ていた。
そこには、露店を開く人達がギッチリという表現がまさしくってほどにたくさんいる。
売る人も店を冷やかす人達も活気にあふれてて、皆それぞれにこの祭りを楽しんでた。
きっとこれほど大きな祭りだから、他国から来た観光客の人もいるのかも。
「……すごい、ですね」
「ま、そりゃ年に一度の無礼講な祭りだからな」
でも、それにしたってこれはすごいですよ。
元の世界にも花火大会とかで屋台を開いているのは見たことがあるけど、こんな大規模なものじゃなかった。
さすが、国を挙げてのお祭りだよね。
「んじゃ、俺らも店を適当に見て回るか」
「はい」
「なんか欲しいもんがあったら言えよ?」
「…………遠慮しときます」
「いや、だから遠慮すんなって」
「無理です」
ハーヴェイさんと言葉の応酬をしながら、私達も人ごみの一部になるために歩き出した。
◇
「……っ?」
いくつかの露店を冷やかして歩いていた私は、とある店の前を横切ろうとしたときに足を止めてしまった。
……何か光ったような?
「おい、どうした?」
「あ……いいえ、その」
歩くのをやめた私に合わせて、ハーヴェイさんも立ち止まる。
光ったのが何か、気になるんだけど……このお店、かな?
褐色の布が敷かれた細身の長テーブル。その上には、雑貨が所狭しと並べられていた。コップにアクセサリーそれに、ペーパーナイフに……本当に、種類問わずに色々ある。
目線を上げると、年配のオジサンと目が合った。この露店の店主なのかな?
「いらっしゃい、可愛らしいお嬢さんに色男の兄ちゃん! デートかい?」
「!?」
あいさつ代わりに何てこと言い出してるんですか、この店主さん!?
「お? オッサン見る目あるな。そうなんだ、今俺達初デート中なんだよ」
「え!? ハーヴェイさん、な、なにを言っているんですかっ?」
どうして満更でもない表情でニヤついているんですか。
それと、さりげなく腰に手を回して引き寄せようとしないでください!
ハーヴェイさんからのセクハラの手から逃れようとあたふたしてるうちに、彼らの会話は続いていく。
「……とまぁこんな風に、彼女照れ屋なんだよ。そこがイイんだけどな!」
「!? 本当に、何を言っているんですかっ? だ、第一、私のことは妹みたいなものですよね?」
まずは否定しましょうよ、ハーヴェイさん。どうしてさっきからオジサンの言葉に乗っかっているんですか。
「…………なるほど、見せつけてくるじゃねーか! 兄さん苦労しそうだな」
「そうなんだよ。……つーわけで、彼女になんかプレゼントしたいんで、なんかまけてくれないか?」
「よしきた! 仕方ねぇ、片思いの兄さんのためにここはオッサンが人肌脱いでやろうじゃねぇの!」
「本当か? ありがとうな、オッサン」
「おうよ!」
あ……。そっか、値引きのためだったの?
だから、カップルのフリをしようとしてたのかな?
ドキドキして損した気分。
…………? 『損した』って……どうしてそんなこと思ったのかな、私。
…………考えてもわからないから、深く考えなくてもいいよね?
「ほらクガ。どれがいいんだ? さっき、何かに興味を持っただろ?」
「え……気づいてたんですか?」
「わかりやすいんだって、あんた」
苦笑されても。……そんなにあからさまなのかな、私。
表情筋を鍛えたほうがいいのかも。
「あんたはそのまんまでいいんだって」
「考えを読まないでください」
「ハイハイ。ほら、どれにするんだ」
「……だから、何度も言っていますけど、奢《おご》りは結構です」
「ま、見るだけでもいいだろ。どれをさっき見てたんだ?」
「どれって……」
どれなのかな?
私も、視界の中で光った何かが気になっただけだから。具体的にこれって言いきれないよ。
並べられた商品に目を通していく。
その中で私の目を引きとめたのは、チカッと眩しく太陽の光を反射している手鏡だった。
「……これ」
「おや、お嬢さんお目が高いね。これは掘り出しモンだよ! 何しろ、これは『真実を映す鏡』さ!」
「真実を?」
「……うさんくせ-」
ボソッと不審そうにハーヴェイさんが呟いた。たしかに眉唾物《まゆつばもの》だけど……どうしてかわからないけど、目が離せないよ。
疑わしそうな瞳を向けたままのハーヴェイさんを見て、露天商を営むオジサンが苦笑いをした。
「まあそういうなよ、色男の兄ちゃん。こいつは手に取った者の真に見たいと願った物を映し出すものなんだ……って言われてんな」
「……なんで語尾曖昧なんだよ。しかも真実っていうのか、それって」
「いやー、長いこと俺もこの店を営んでるんだがな? 一度も客にその真実とやらを見せてねぇみたいなんだよ。おかげで、偽物をつかまされたんじゃねぇかって俺自身考え始めてんだ!」
「おい。明るく笑ってんじゃねぇよ、オッサン」
ガッハッハなんて豪快に笑い飛ばすオジサンを、ハーヴェイさんは呆れ混じりに眺めてる。
でも、『真実』なんて。そんな仰々しいものを見せるものなのかな?
「手に取っても、いいですか?」
「おう、構わねぇぜ!」
そっと取っ手をつかんでみる。
重さは、普通の手鏡と同じくらい。鏡の裏を見てみると、木製の土台に綺麗な女性が彫られていた。その周辺に植物のツタが優雅に這わされている。
「……へぇ。この装飾だけでも中々のモンだな」
「そうだろう!」
横からのぞきこんだハーヴェイさんが感嘆の声を上げた。それに対して、私も頷くことで肯定する。オジサンも褒められたことに満更でもないみたい。
……うん、たしかに。とっても綺麗な飾り。
問題の鏡の部分だけど……。
表に返してみて、私は鏡をのぞきこんだ。
そこには、おそるおそる様子をうかがう、黒髪で黒目の少女と目が合った。
うん、私だね。
やっぱり、普通の鏡なのかな?
『…………クス』
「え?」
耳元で、女性の笑い声がかすかに聞こえたような。
……気のせい?
首を傾げると、鏡の中の私が妖しく微笑んだ。
「!?」
笑ってなんかいないのに、どうして?
映っているものが得体のしれないものに見えて、確かめるように鏡に指先で触れてみた。
そして瞬きをした瞬間。
「え?」
私は、真っ暗な空間に一人で立っていた。
◇◇◇
……ここは、どこ?
どうして私は、いつの間に移動してるの? 歩いた覚えだってないのに。
さっきまで昼だったのに、いきなり暗くなるものかな?
…………ううん、ただ暗いってだけじゃない。周りが見えないくらい暗闇なのに、どうして正面にあるアレだけ光って見えるの?
それに、隣にいたはずのハーヴェイさんだっていないよ。
……そのことを認識したら、余計に心許なくなっちゃったかも。
正面にいたはずの露店を開いていたオジサンだっていない。
代わりに大型の姿身の鏡がデンっと鎮座してる。
さっきから鏡がキラキラ輝いて見えてるけど……どうして?
『お前の望むモノは何だ』
「!」
さっき聞えた、女の人の声と一緒だ。
この声って、どこから聞えてるの?
『お前が望むモノは何だ』
「……誰?」
『答えよ。さすれば、その真実の姿が』
聞こえてくるのって、鏡から?
顔を鏡に近づけていくと、鏡の表面に輝きが増していく。
『お前が望む真実は何だ』
「……」
これって、さっきのオジサンが言ってた真実を見せるっていう鏡?
……伝えれば、本当に願った物が見えるの?
『願え、娘よ』
「…………私が望むのは」
急に聞かれて、とっさに浮かんだのは。
『あいわかった』
「あ…………ま、待ってくださ」
やっぱりなしにしてほしいって言う前に、承諾されちゃった!?
鏡がペカペカ電灯みたいに眩しくなっちゃってるし!
ああっ違うんです! ちょっとした気の迷いなんです!
ハーヴェイさんのことなんて、考えてなんかいないんです!
「……!」
鏡が、まるで小石を落とされた水面みたいに波紋を描いてる。
波が収まったかと思えば、新たに映るのは私の姿じゃなかった。
「この子達は……?」
そこには幼稚園生くらいの、小さな男の子が一人と、女の子が映っていた。
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