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◇第四章 ルイス編◇ チャラい彼はヒミツを抱えています
第十九話 『これが真実の鏡だとしたら、何も映すな』
しおりを挟む鏡の中にいる小さな女の子と男の子がいるのは、どこかの庭?
女の子は綿菓子みたいなフワフワってやわらかそうなピンク色の髪。男の子は春の空みたいな爽やかな水色。
芝生の上に座り込んだ女の子の横に、男の子が寝転んであくびをしてる。
『こうして、お姫様と王子様はいつまでも幸せに過ごしましたとさ』
彼女はそう言うと、膝の上に置いた絵本をパタリと閉じてみせた。
『お前、いっつもそれ読んでるよなー。そんなに好きなのか?』
『うん、大好き!』
呆れた声の男の子の声に、女の子は満面の笑顔で答えた。
花が咲いたような笑みを正面から向けられた彼は、小さなやわらかそうな頬を赤く染めた。
『そっそうかよ! 飽きたりしないのか?』
『ぜんっぜん! とっても楽しいよ! 王子様がね、剣でバーンって悪い魔物をやっつけちゃうの!』
『本当に、好きだよなー。たしか、『おてんば姫と王子さま』だったか?』
『うん!』
「そのタイトル……聞いたことがある、かも」
そこまで黙って二人の会話に聞き入っていたけど、知ってる言葉が出てきて、思わず口をはさんじゃった。
慌てて唇を押さえたけど、鏡の中の二人は私に気づいた様子はないみたい。
私の声は、届いてないのかな。…………よかった。なんだか盗み聞きしてるみたいで、バレたら申し訳ないから。
ホッとして唇から手を外す。
……あれ? ちょっと待って。これって「盗み聞きみたい」じゃなくって、まさしく「盗み聞き」そのもの……?
…………ふ、不可抗力、だよね?
それにしても、「おてんば姫と王子さま」かぁ。それって一度、王宮図書で読んだことがあるよ。
この女の子もその絵本がお気に入りなのかな?
『いいなー。お姫さまにはステキな王子さまがいて』
『……』
女の子はキラキラした瞳を宙に向けて、ホウッと溜息を吐いた。あの子の視界には思い描くその「ステキな王子さま」が見えてるのかも。
一方、男の子はそんな彼女の様子にムッとしている。
だけど、何かを思いついたみたいでパッと表情を輝かせた。
『じゃあさ、俺がなってやるよ! 王子さまは無理だけど、騎士にだったらなってやる!』
不遜な態度で男の子は、勢いよく立ち上がりながらそう告げた。
彼の宣言をクリクリとした瞳をパチパチと瞬かせながら、彼女は聞き届ける。そして、その表情をふわりと蕩かせた。
『本当に!? なってくれるっ?』
『おう! お前だけの騎士だ!』
『私だけ?』
その言葉に、ますます女の子の表情が明るくなる。
『……うれしい! じゃあ、私もあなただけのお姫さまになるね?』
『! おう、約束だぞ!』
『うん、約束』
二人の視線が絡み合って、笑い声が辺りに響き渡る。
……とっても微笑ましい風景。
でも…………どうして鏡は、いきなりこの二人を映し出したの?
『二人ともここに居たのか』
『あ! どうかしたの?』
『……ゲ』
新たに鏡の隅から男の子が現れた。髪の色は若草色で、彼は不機嫌そうに顔をしかめてる。
『『ゲ』とは随分な言い様だな。……お前に迎えの馬車が来てる』
『ほら見ろ。嫌な知らせじゃないか』
渋い表情で、水色の髪の男の子は嫌そうに呟いた。
女の子も頬をふくらまして拗ねてみせる。
『もう、気が利かないんだから! これだから堅物なんて言われちゃうの!』
『ひどい言い草だな。……仕方がないだろ、リーチェ』
『う~……でも』
リーチェって呼ばれた女の子は、悲しそうな表情を浮かべてる。
それを見て、黄緑色の髪をした男の子は「仕方ないな」っていう感じで、彼女の頭を優しく撫でた。
『また来させればいい。……というよりも来い』
『命令形かよ!?』
『当たり前だ。俺のリーチェをお前なんぞが悲しませるのは百年早い。それに、お前だって勝手に来るだろうが』
『……ま、たしかに来るけどな』
『本当に? 約束だからね』
コクリと頷く彼に、女の子は嬉しそうに表情をほころばせた。
『ほら、行くぞ』
『うん!』
左右の手を男の子に取られて、女の子は立ち上がり歩き出す。
両手のふさがった彼女のために、黄緑色の髪の男の子が絵本を空いた手に忘れずにしっかりと持っていた。
三人の姿が霞んで、消えていく。
「え……」
霧がかかったみたいに濁って……見えてた三人が姿をなくした。
鏡が曇っちゃって、何も見えないよ。
湯気で隠されたみたいに、そこにはもう何も映してない。
拭けば、もう一度さっきの光景が見えたりとかするのかな?
そっと指先を鏡に伸ばして触れた。
……冷たい。
冬に水に手を浸けたらこんな感じだよ。指から伝わる冷えに身体の芯まで凍らされてしまいそうな感覚。
その時だった。私の耳に、囁くような声が届いた。
『これが真実の鏡だとしたら、何も映すな』
「え?」
この声……聞き覚えがある。
まさか、ハーヴェイさん?
でも、さっきそんなこと、何も言ってなかったよね。
『あんたは何も知らなくていい。俺が抱えてる感情なんて知ったら、逃げちまうだろうから』
「……」
声が止まない。
この声は、一体何?
『「傍にいる」なんて言ったけど、あんただってどうせいなくなるんだろ?』
「……! そ、そんなこと……」
否定したい。でも、いずれ私は彼の目の前から消えるとは思う。
だって、私は元の世界に帰らなきゃいけないから。
「……」
『ああ、やっぱり――』
口ごもった私に対して、凍てつくような冷たい声が降りかかってきた。
『あんたなんか嫌いだ』
「っ!」
息をのみ込んだ途端、目の前の鏡にヒビが入り始めた。まるで、氷の板が割れるようにパキパキと音を立てる。
……割れる?
このよくわからない空間に連れてこられた原因がこの鏡だとしたら、これが割れちゃったら私はどうなるの?
鏡にクモの巣のようにヒビが入り続ける。
「! ま、待って!」
私の制止の声と、鏡が砕ける音は同時だった。
◇◇◇
『映し出すのは、優しい真実とは限らない』
『それでも娘は望んだ』
『行われたことは元には戻らない』
『お前は何を選び取り、どれを真とする』
聞えたのは、この空間に誘った女性のものと同じ声。
……どうして、そんなことを聞いてくるの?
それにその言葉が本当だとしたら、ハーヴェイさんが私を嫌ってるってことになる。
そんなの、認めたくないよ。
意図がわからないまま、私の意識がふっと遠ざかっていく。
私の指先から鏡が離れていった。
鏡はわずかに光を反射した後、一瞬だけ一人の姿を映し出す。
「え……?」
ハーヴェイ、さん?
でも、なんで…………。
鏡と私の身体が離れていく。鏡が、遠ざかっていってるの?
……ううん、違う。私が後ろに倒れていってるんだ。
私の視界から見切れる直前に見えた、鏡の中の彼の姿は。
彼の頭に見えた、その二つの影は見間違い?
だって、それは。元の世界にいる先輩はもちろん、ハーヴェイさんにも生えてないはず。
顔の横からのぞいた、二つの三角。あれって、どう見ても……。
――動物の耳、だよね?
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