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◇第四章 ルイス編◇ チャラい彼はヒミツを抱えています
第二十二話 「咲いて、ください」
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「さて、次はどこか見たい所ってってないか?」
「特に思い浮かばないです」
そもそも、この祭りだって初めて参加するし、特に情報も持ってない。
「ま、そっか。あんた、遠くから来たからあんまり知らないのに、選べっつうのも無理な話か」
「はい」
でも、なんでもかんでもハーヴェイさんまかせにするのもよくないよね。
うーん…………あ、だったら。
「この祭りならではの物ってないんですか?」
「おう、あるぞ。そうだなー、女の子向きだったらアレがちょうどいいかもな」
「アレ?」
「いつも同じ場所に店を出してたはずだから、行ってみっか」
「はい」
何を指してるのかよくわからないけど、ハーヴェイさんが勧めるくらいだから問題ないよね。
ハーヴェイさんの後に続いていくと、木製ワゴンのお店に着いた。
こじんまりしてるけど……店を取り囲むみたいに人がまばらにいるってことは、人気なんだよね。
「なんのお店なんですか?」
「本店は別にあって宝石店だ。この時期だけこんな風に出張店舗を出してんだよ」
「宝石!?」
そんなの私、買えないよ!?
ギョッとして身を引くと、リアクションがツボに入ったみたいでハーヴェイさんが噴き出した。
「安心しろって。ここで取り扱ってんのは、んな高いのじゃねーよ。ま、あんたが欲しいのなら買ってやっけど?」
「いいえ! 結構です!」
「全力拒否かよ!」
ウィンクを飛ばしながら言ってたから冗談だってわかってるけど、さすがにそれはないよ!
首を左右に力強く振ってると、その様子がさらに面白かったみたいでハーヴェイさんは笑いながらツッコミを入れてきた。
「ここで扱ってんのは宝石じゃない。化ける石だ」
「化ける、石?」
「そ。ま、見たほうが早いな」
そう言うと、ハーヴェイさんは店舗のほうに近づいていく。遅れないように私も横に並んで身を乗り出すと、商品の載った棚が見えた。
「……え?」
商品が全部、同じに見えるよ。それも、ただの小石みたいなのが、バケツにぎっしり入ってるだけ。
まさか、これが売り物なの? ……というより、売れるのかな?
「おっと、まだ手に触れんなよ?」
「……?」
伸ばしかけた私の手を取って、ハーヴェイさんが止めた。
「どうして、ダメなんですか?」
「触った瞬間に変わっちまうからだよ」
「?」
変わるって、ただの石じゃないの?
「これはカレイドストーンって呼ばれてる奴だ。贈りたい相手を思いながら素肌で触り続けると、それに合わせて花形に形を変えるんだよ。世界に二つとないプレゼントになるから、人気があるってわけ」
「……なんだか、信じがたいです」
たしかにハーヴェイさんの言うことが本当なら、花祭りの商品にふさわしいけど……。
こんな見た目はどこにでもありそうな石なのに。
灰色の石が姿を変えたって、プレゼント向きにはならなそう。
「もしかして、形だけじゃなくて色も変わるんですか?」
「察しがいいな、クガ。おう、その通りだ。何色になるかもお楽しみっつうわけだな」
「……ギャンブルすぎます」
「それが楽しいんだよ。ちなみに色が透き通れば透き通るほど、いいモンって言われてんな」
「その透明かどうかも、想いに比例するんですか」
「もちろん」
「……」
あんまり考えないで楽しんだ方がいい物なのかも。
でも、今の話だとこれはプレゼントとして人気なのかな?
だったら……。
「あの、私これ買います」
「そっか。じゃあ俺が――」
「いいえ、自分で出します」
うん。こればっかりは私がお金を出さないと意味がないよ。
ハーヴェイさんは押しが強いけど、流されないようにしなきゃ。
「……」
「…………」
「………………」
「………………わかった。俺は見とくだけにしとくな」
「はい」
勝った!
ジッと無言での見つめ合いに負けたハーヴェイさんが、苦い笑顔を浮かべてる。
「なぁ、もし俺が…………」
「……?」
俺が?
何かを言いかけて、ハーヴェイさんは口を止めた。
「……や、なんでもない」
「え?」
どうして、途中で言うのをやめたの?
何を言おうとしたのかな。
困惑して見つめても、ハーヴェイさんは黙って左右に首を振って否定した。
「気にすんな。……ほら、買うんだよな? 待っとくから、やってみろって」
「……はい」
店員さんに代金を支払ってから、私は一つ石を取った。
触ってみても、どこからどう見てもやっぱり単なる石ころだけど。
とりあえず、両手で包み込むみたいにキュッと握りこんでみる。
潰したりしないように、本物の花を持つみたいに。
私が、贈りたい相手は――
「……」
そっと瞳を閉じて、彼の姿を思い描く。
想いが形を変えてみせるなんて、なんだか恥ずかしいけど。
この気持ちが、届くといいな。
「咲いて、ください」
囁くように唱えると、私の両手の中がじんわりと温かくなっていく。その熱が全身まで広がって、心までそのぬくもりに包まれそう。
指と指の隙間から漏れていた光が、やがて収束していく。同時に、熱もゆっくりと失っていく。
横から見守ってたハーヴェイさんが、わずかに笑った。
「うまくいったみたいだな」
「はい」
というよりも、いってくれなきゃ困るよ。だって、これは……。
「ほら、確認してみろよ」
「はい。…………え」
「お」
髪、飾り……。
水色と薄紫色のアジサイの花を模ったガラス細工が、銀金属の上に乗ってる。
とっても綺麗な物に変わった。でも……。
「不満そうだな。どうしたんだよ、可愛いじゃん」
「可愛いじゃ、意味がないんです」
「? なんでだよ」
「……これは、その」
言いづらくて、口をためらいながら動かした。
本当は、言いたくない。……でも、ハーヴェイさんが心配そうに見てるから、そんな気遣いをさせたくなくって、仕方なく話すことにした。
「これは、ハーヴェイさんにプレゼントしようって思ってたんです」
「は?」
「……」
ですよね。その反応が返ってきそうだったから、言わなかったのに。
そのまま、私はつらつらと言い訳にも近いものを重ねていった。
「ハーヴェイさんには、もらってばっかりだから。私からも、何かをプレゼントしたくて」
まだ知り合いとしか言えなかった頃には地図を。今日は鏡に飲み物を買ってもらった。
もらってばかりは、心苦しくて。だから、何かを返したかった。
……ううん、それだけじゃない。
私は――
「そっか。なら……」
「え……」
私の手のひらから、ガラス製の小ぶりの花が消えた。
髪飾りを持った彼の指が、自身の髪に近づいていく。深みのある青の髪に、アジサイの花が咲いた。
「これでいいか? 似合わなくはないだろ」
「……はい。だけど…………」
たしかに彼の言うように、違和感はない。ハーヴェイさんのタレ目と相まって、余計に色気が増したくらい。
ハーヴェイさんには、きっといらないものなんじゃないかな。それは明らかに、男性向きじゃないのに。
「いやー色男なのも罪だな! こういうのもイケるなんて、さっすが俺」
「……自分で言っちゃいますか」
私の危惧なんて、彼はお見通しみたい。
ふざけた様子でそう不敵に笑ってみせた彼につられて、私はぎこちなく笑ってみせた。
結局気遣わせちゃって。……ダメだね、私。
「――嬉しいぞ」
「!」
私の心を読むのが得意なハーヴェイさんは、水色の瞳を優しく細めている。
……でも、それは本当なの?
私を安心させるための、嘘じゃなくて?
「あんたがくれたモンだからな」
「……ハーヴェイ、さん」
彼は、私がほしい言葉をくれた。
……私が彼にプレゼントをしたかった一番の理由は、喜んでほしかったから。
だから、望みが叶った私は心からホッとしちゃった。
「実はな、俺の方からあんたに頼もうかと思ってたんだよ」
「え?」
照れくさそうにはにかむハーヴェイさんと、目が合った。
もしかして、さっき言いかけていたのはこれのことだったの?
「けど、強請んのもどうかと思ったし、あんたが他の奴に贈るモンを横から奪うのもよくねぇかなって黙ってたんだよ」
「……」
「諦めてたから余計に、得した気分だな!」
「っ!」
そう言った彼は、嬉しそうに歯を見せて笑った。
私の心臓が勢いよく飛び跳ねたのが、ハーヴェイさんの笑顔にやられてしまったせいなんて。
……そんなこと、絶対にありえないしバレたくないよ。
認めることだってできないから、私はそっと顔を伏せた。
「特に思い浮かばないです」
そもそも、この祭りだって初めて参加するし、特に情報も持ってない。
「ま、そっか。あんた、遠くから来たからあんまり知らないのに、選べっつうのも無理な話か」
「はい」
でも、なんでもかんでもハーヴェイさんまかせにするのもよくないよね。
うーん…………あ、だったら。
「この祭りならではの物ってないんですか?」
「おう、あるぞ。そうだなー、女の子向きだったらアレがちょうどいいかもな」
「アレ?」
「いつも同じ場所に店を出してたはずだから、行ってみっか」
「はい」
何を指してるのかよくわからないけど、ハーヴェイさんが勧めるくらいだから問題ないよね。
ハーヴェイさんの後に続いていくと、木製ワゴンのお店に着いた。
こじんまりしてるけど……店を取り囲むみたいに人がまばらにいるってことは、人気なんだよね。
「なんのお店なんですか?」
「本店は別にあって宝石店だ。この時期だけこんな風に出張店舗を出してんだよ」
「宝石!?」
そんなの私、買えないよ!?
ギョッとして身を引くと、リアクションがツボに入ったみたいでハーヴェイさんが噴き出した。
「安心しろって。ここで取り扱ってんのは、んな高いのじゃねーよ。ま、あんたが欲しいのなら買ってやっけど?」
「いいえ! 結構です!」
「全力拒否かよ!」
ウィンクを飛ばしながら言ってたから冗談だってわかってるけど、さすがにそれはないよ!
首を左右に力強く振ってると、その様子がさらに面白かったみたいでハーヴェイさんは笑いながらツッコミを入れてきた。
「ここで扱ってんのは宝石じゃない。化ける石だ」
「化ける、石?」
「そ。ま、見たほうが早いな」
そう言うと、ハーヴェイさんは店舗のほうに近づいていく。遅れないように私も横に並んで身を乗り出すと、商品の載った棚が見えた。
「……え?」
商品が全部、同じに見えるよ。それも、ただの小石みたいなのが、バケツにぎっしり入ってるだけ。
まさか、これが売り物なの? ……というより、売れるのかな?
「おっと、まだ手に触れんなよ?」
「……?」
伸ばしかけた私の手を取って、ハーヴェイさんが止めた。
「どうして、ダメなんですか?」
「触った瞬間に変わっちまうからだよ」
「?」
変わるって、ただの石じゃないの?
「これはカレイドストーンって呼ばれてる奴だ。贈りたい相手を思いながら素肌で触り続けると、それに合わせて花形に形を変えるんだよ。世界に二つとないプレゼントになるから、人気があるってわけ」
「……なんだか、信じがたいです」
たしかにハーヴェイさんの言うことが本当なら、花祭りの商品にふさわしいけど……。
こんな見た目はどこにでもありそうな石なのに。
灰色の石が姿を変えたって、プレゼント向きにはならなそう。
「もしかして、形だけじゃなくて色も変わるんですか?」
「察しがいいな、クガ。おう、その通りだ。何色になるかもお楽しみっつうわけだな」
「……ギャンブルすぎます」
「それが楽しいんだよ。ちなみに色が透き通れば透き通るほど、いいモンって言われてんな」
「その透明かどうかも、想いに比例するんですか」
「もちろん」
「……」
あんまり考えないで楽しんだ方がいい物なのかも。
でも、今の話だとこれはプレゼントとして人気なのかな?
だったら……。
「あの、私これ買います」
「そっか。じゃあ俺が――」
「いいえ、自分で出します」
うん。こればっかりは私がお金を出さないと意味がないよ。
ハーヴェイさんは押しが強いけど、流されないようにしなきゃ。
「……」
「…………」
「………………」
「………………わかった。俺は見とくだけにしとくな」
「はい」
勝った!
ジッと無言での見つめ合いに負けたハーヴェイさんが、苦い笑顔を浮かべてる。
「なぁ、もし俺が…………」
「……?」
俺が?
何かを言いかけて、ハーヴェイさんは口を止めた。
「……や、なんでもない」
「え?」
どうして、途中で言うのをやめたの?
何を言おうとしたのかな。
困惑して見つめても、ハーヴェイさんは黙って左右に首を振って否定した。
「気にすんな。……ほら、買うんだよな? 待っとくから、やってみろって」
「……はい」
店員さんに代金を支払ってから、私は一つ石を取った。
触ってみても、どこからどう見てもやっぱり単なる石ころだけど。
とりあえず、両手で包み込むみたいにキュッと握りこんでみる。
潰したりしないように、本物の花を持つみたいに。
私が、贈りたい相手は――
「……」
そっと瞳を閉じて、彼の姿を思い描く。
想いが形を変えてみせるなんて、なんだか恥ずかしいけど。
この気持ちが、届くといいな。
「咲いて、ください」
囁くように唱えると、私の両手の中がじんわりと温かくなっていく。その熱が全身まで広がって、心までそのぬくもりに包まれそう。
指と指の隙間から漏れていた光が、やがて収束していく。同時に、熱もゆっくりと失っていく。
横から見守ってたハーヴェイさんが、わずかに笑った。
「うまくいったみたいだな」
「はい」
というよりも、いってくれなきゃ困るよ。だって、これは……。
「ほら、確認してみろよ」
「はい。…………え」
「お」
髪、飾り……。
水色と薄紫色のアジサイの花を模ったガラス細工が、銀金属の上に乗ってる。
とっても綺麗な物に変わった。でも……。
「不満そうだな。どうしたんだよ、可愛いじゃん」
「可愛いじゃ、意味がないんです」
「? なんでだよ」
「……これは、その」
言いづらくて、口をためらいながら動かした。
本当は、言いたくない。……でも、ハーヴェイさんが心配そうに見てるから、そんな気遣いをさせたくなくって、仕方なく話すことにした。
「これは、ハーヴェイさんにプレゼントしようって思ってたんです」
「は?」
「……」
ですよね。その反応が返ってきそうだったから、言わなかったのに。
そのまま、私はつらつらと言い訳にも近いものを重ねていった。
「ハーヴェイさんには、もらってばっかりだから。私からも、何かをプレゼントしたくて」
まだ知り合いとしか言えなかった頃には地図を。今日は鏡に飲み物を買ってもらった。
もらってばかりは、心苦しくて。だから、何かを返したかった。
……ううん、それだけじゃない。
私は――
「そっか。なら……」
「え……」
私の手のひらから、ガラス製の小ぶりの花が消えた。
髪飾りを持った彼の指が、自身の髪に近づいていく。深みのある青の髪に、アジサイの花が咲いた。
「これでいいか? 似合わなくはないだろ」
「……はい。だけど…………」
たしかに彼の言うように、違和感はない。ハーヴェイさんのタレ目と相まって、余計に色気が増したくらい。
ハーヴェイさんには、きっといらないものなんじゃないかな。それは明らかに、男性向きじゃないのに。
「いやー色男なのも罪だな! こういうのもイケるなんて、さっすが俺」
「……自分で言っちゃいますか」
私の危惧なんて、彼はお見通しみたい。
ふざけた様子でそう不敵に笑ってみせた彼につられて、私はぎこちなく笑ってみせた。
結局気遣わせちゃって。……ダメだね、私。
「――嬉しいぞ」
「!」
私の心を読むのが得意なハーヴェイさんは、水色の瞳を優しく細めている。
……でも、それは本当なの?
私を安心させるための、嘘じゃなくて?
「あんたがくれたモンだからな」
「……ハーヴェイ、さん」
彼は、私がほしい言葉をくれた。
……私が彼にプレゼントをしたかった一番の理由は、喜んでほしかったから。
だから、望みが叶った私は心からホッとしちゃった。
「実はな、俺の方からあんたに頼もうかと思ってたんだよ」
「え?」
照れくさそうにはにかむハーヴェイさんと、目が合った。
もしかして、さっき言いかけていたのはこれのことだったの?
「けど、強請んのもどうかと思ったし、あんたが他の奴に贈るモンを横から奪うのもよくねぇかなって黙ってたんだよ」
「……」
「諦めてたから余計に、得した気分だな!」
「っ!」
そう言った彼は、嬉しそうに歯を見せて笑った。
私の心臓が勢いよく飛び跳ねたのが、ハーヴェイさんの笑顔にやられてしまったせいなんて。
……そんなこと、絶対にありえないしバレたくないよ。
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