ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第五章 ルイス編◇   チャラい彼のヒミツに触れます

第二十四話   「ごめん、なさい」

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 それは、花祭りの翌日の朝のこと。

「あーーーーーーーー!!!!」
「!?」

 なに!? 何で叫び声!?
 この声って、スクワイアさん?

 食堂でいつも通り注文受付の仕事をしてると、唐突にスクワイアさんの叫びが聞こえた。
 朝食時で大勢が食堂にいるっていうのに、人のざわめきが一気になくなるほどの大声が、辺りに響く。

 な、なにごとなの?

 注文するために並んでいる人達も気になったみたいで、身体を動かして声の元を探してる。 
 私自身、気になってスクワイアさんを探した。

 あ……注文のための列の最後尾に並んでる。一緒にいるのって、ハーヴェイさん?
 二人で、一体どうしたのかな?

「ちょっ!? 副隊長、それ、どうしたんすか!? カレイドストーンっすよね!?」
「ふふん、いいだろこれー」
「! な……っ!?」

 な、なにをしているんですかハーヴェイさん!
 どうして私があげた髪飾りを自慢してるんですか!?

 一人でアワアワしてる私を見つけて、ハーヴェイさんはキザにウィンクを飛ばしてきた。

「!」

 性悪すぎますよ、ハーヴェイさん!

 ハーヴェイさんが頭を動かすたびに、彼の髪に咲いてるアジサイが光を反射してキラキラと輝く。
 それをスクワイアさんがマジマジと観察して見てる。

「うわ、純度高! めちゃくちゃ良いのじゃないっすか!」
「だろ?」
「……」

 あれって純度高かったの?
 そういえばハーヴェイさんが純度が高いほうが良い物って言ってたような。それならよかったけど。

 ああでもっ! 贈った本人の目の前で話題に出さなくても! 居心地が悪くてムズムズするよ。

「誰にもらったんすか!?」
「誰って…………それは」

 またハーヴェイさんと目が合った。完全に目が笑っていますね、絶対に今の状況楽しんでますよね。
 ……は! も、もしかして、私の名前を言い出す気ですか!?

 慌てて首を左右に振ると、それを見てハーヴェイさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「!」

 言う気ですか!?
 言わないでください!

 だって、作ったのが私だって広まったら、また女の人にやっかまれたりするかもしれないのに。しかも、贈ったのが髪飾りだってバレたら、もっと危ないことになるような……!

 『私達のルイス様に、何付けさせてるのよ!』みたいな感じで!

 必死に目で言わないでほしいってことを訴えてる。すると、ハーヴェイさんの唇がゆっくりと動き出した。

 それと一緒に、彼の指がそっと唇の前に立てられた。

「それは……ヒミツ、だな」
「ええーーーっっ!! ちょっと、副隊長! それはナシっすよ!」

 よ、よかった……。
 スクワイアさんは不満そうにしてるけど、私としてはバレなくて一安心かな。

 スクワイアさんの抗議を、ハーヴェイさんが笑いながら流してる。

「チェスターに言うと、なんか減りそうだしな」
「なんにも減らないっすよ! ってか今の発言って独占欲っすか!?」
「んー? さて、どうだか?」
「うっわーマジで誰っすか!? 来る者拒まず去る者追わずの副隊長が、どうしてそんな無縁の感情むき出しになるんすか!? 余計気になるんすけど」

 スクワイアさんの追及にハーヴェイさんは何度も言葉を濁してくれた。私が嫌がってたから、名前を出すのをやめてくれたのかな。

「……注文お願いします」
「! あ……は、はい!」

 す、すっかり忘れてたけど、仕事にもどらなきゃ。
 ずっとハーヴェイさん達の会話を聞いてたから、さっきより注文の列がのびてるよね。

 速く回していかないと。
 騎士の人達はこれから鍛錬だったり巡回だったりでそれぞれの仕事に向かうから、時間もないんだから。 


 ◇◇◇


「それで。何のために私があげたのをつけてるんですか?」

 翌日の早朝、ハーヴェイさんの朝鍛錬に立ち会った私は、さっそく彼に聞いてみた。
 今日だって、ハーヴェイさんてばあの髪飾りをしてるし。

 訓練が終わって流れる汗をタオルで拭きながら、ハーヴェイさんはニヤッと笑った。

「なにって、自慢するためだろ?」
「!? 自慢ってなんですか!」

 なんの自慢にもならないですよ! それに、日常的に髪飾りをつけるのに抵抗とかないの?

「自慢は自慢だろ。『こんな良いモンもらったんだぞ、うらやましいだろ』って見せびらかしたかったんだよ」
「…………髪飾りなのに」
「んなこと関係ないだろ。俺にとっては、あんたからもらったってことしか重要じゃない」
「……」

 そんなに喜んでもらって、贈ったこっちとしては嫌な気分じゃない。
 だけど……物が物だから、ちょっと素直になれないよ。

「いつまでつけるつもりですか」
「は? んなの、ずっとに決まってるだろ」
「…………それは、困ります」

 ずっとその恥ずかしさに耐えろっていうんですか。鬼畜ですか、エスですか。
 私が心底困って言葉を失っていると、ハーヴェイさんが噴き出した。

「迷子のガキみたいな顔してるぞ。そんなに嫌なのかよ?」
「嫌、ではないですけど……困るんです」

 どう反応したらいいのか、困るというか。
 喜んでいいのか、恥ずかしくなって目を背ければいいのか。

「ふぅん、俺にはわかんねぇけど……あんたが困ってんのはダメだな。……わかった」
「……」

 わかったってことは、つけるのをやめてくれるのかな?

 ……でも、それはそれで残念な気分になるような。

 つけてほしいのか、つけてほしくないのか。自分のことなのに、よくわからなくなるよ。 

「じゃあ、こうすっか。来年の花祭り、あんたからまたカレイドストーンをくれよ」
「……え?」

 来年?
 顔を上げると、ハーヴェイさんが明るく笑ってる。

「んで、俺はそれを常に身に着けるから、今のこの飾りは外す。それでどうだ?」
「…………来年」


 ――それは、私がここにまだいるってこと。

 
「……」

 確実には、約束できない。
 だって、きっと元の世界に戻れるって言われたら、私は帰ってしまうから。……帰らないといけないから。

 だけど…………。

 私がハーヴェイさんにまた、プレゼントをして。
 あの時みたいにとっても嬉しそうに、何よりも大事な物を手に入れたみたいに、顔をほころばせてくれるのなら。

 それを見たいって、思ってしまった。

「もし」

 いけないことなのに、私の口が、勝手に動く。

「もし、私がプレゼントしたら、また大事にしてくれますか?」

 望んじゃないけないことなのに、私は願いを言葉にした。
 ハーヴェイさんはそれを、嬉しそうに目を細めて聞いて頷《うなず》く。

「……おう、当然だろ。そん時はまた、チェスターとか周囲の奴らに見せびらかしてやるよ」
「…………見せびらかすのは、結構です。………………わかりました」


 ――迷いなく肯定するあなたに、心が揺れる。


 揺らいではいけない私自身の決めたしばりが、解けてしまいそうになる。でも、そんなの私に許されることじゃないから。

「もしも私がまだここにいたら、プレゼントさせてください」
「…………なんだよ、それ」
「え?」
  
 さっきまで喜んでたハーヴェイさんが、険しい表情をしてる。
 鋭い眼光に身がすくんで、一歩思わず下がってしまった。

 だって、以前見たときの、剣を持ってる時の怖い雰囲気をまとってたから。

 最近はそんな空気、出してなかったのに。
 一体、どうしたの?
 
「あんたは、どっかに行くつもりなのか?」
「あ……」

 たしかに、さっきの私の発言はそう勘繰かんぐられてもおかしくない内容だった。

「……」
「否定、しないんだな」

 否定なんてできるはずがないよ。だってしてしまったら、それが嘘になるから。
 だけど余計にそれが、ハーヴェイさんのかんさわったみたい。

「いつかは、わからないんです。……でも、私はいずれ帰らなきゃいけなくなるんです」
「どこにだよ」
「それは…………遠いところ、です」
 
 元の世界に、なんて言っても正気を疑われるだけだから。ボンヤリとした答えしか返せない。

「遠いってどれくらいだよ」
「……とっても、とっても遠い場所です。一度戻ったら、ここには来れなくなるくらいに遠く」
「だったら」

 ハーヴェイさんの手が、私へとのびる。
 彼の大きな手のひらに手首がとられて、視線にい止められた。

「だったら帰んなきゃいいだろ。そばにいるって、あんた言ったよな」
「私は、帰らなきゃいけないんです。……ここにいる間は、ハーヴェイさんのそばにいます」
「っ! …………んだよ、それ……!」

 ハーヴェイさんの大きな舌打ちが聞こえた。
 でも、嘘を言うことなんてできない。私がいずれ元の世界に戻るのは、事実なんだから。

「……胸糞むなくそ悪ぃ」

 吐き捨てる言葉と共に、ハーヴェイさんは乱雑に手を払った。それと同時に、拘束こうそくされてた手首が自由になる。

「あんた、しばらく顔見せんな」
「っ! あ……」

 身体が凍りそうなくらい、冷たい視線にさらされる。
 きら、われた……?

「このままだと、一緒にいると俺があんたを痛めつけそうになる」
「……」

 強い拒絶。
 ハーヴェイさんに何か言わなきゃいけないって思うのに、言葉が出ない。

 だって、私が彼に黙っていたのは本当だから。
 それで傷ついてるのは私じゃなくて、ハーヴェイさんのほうだから。

「…………っ……待っ……」

 そのまま背を向けて、ハーヴェイさんはこの場から立ち去った。
 私は呼び止めることも、できなかった。


 ……どうしてこうなったのかな。
 さっきまでは、普通に話してただけなのに。

 きっと、一番の原因は私が今まで彼に隠してた、私自身が気づかないようにしてたこと。
 ……いつか、元の世界に私が帰らなきゃいけないってこと。


 胸が押しつぶされそうに痛い。
 だけどきっと、私以上にハーヴェイさんの方が苦しんでる。そして、そんな気分にさせてしまったのは、他ならない私自身。

「ごめん、なさい」

 こぼれた謝罪は、彼に届くことがなくて。
 私は瞳を静かにせた。



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