71 / 164
◇第五章 ルイス編◇ チャラい彼のヒミツに触れます
第二十七話 「彼につきまとうのをお止めになられたら?」
しおりを挟む
「……」
どうして、私、こんなところにいるのかな?
はしたないって言われないように、こっそり周囲を見てるけど。どう考えても場違いにしか思えないよ。
天井にはキラキラ眩しいくらいの明るさで輝いてるシャンデリア。
この床に使われてるツルツルした白い石は……たぶん大理石じゃないかな?
座ってる一人掛け用のソファーはふっかふかで、気を抜くと足が浮いちゃいそうなほど。
目の前にあるテーブルの上には、青みがさしてる琥珀色の紅茶。湯気から漂う香りは、ホッとする素敵なもの。
紅茶が入ってるカップも、なんだかとっても高価そう。模様は花が細かく描かれてて、繊細な印象がある。
割っちゃたら怖くて手が伸ばせないよ。このティーカップ一つだけでも、絶対私の給金じゃ払えないような代物だよ。
「どうかしたのかしら? 先程から手をつけていないけれど」
「あ…………いいえ、私のことはお構いなく」
かけられた声に顔を上げると、優雅に唇にティーカップを運びながらエミリア様が首を傾げた。
……どうして平然と使えるんですか。慣れですか?
「あの……それで、私はどうしてここに連れてこられたんですか?」
馬車でエミリア様に連れていかれた先は、カフェだった。
内装もすっごくオシャレで豪華で、正直気後れしてる。テーブルごとに個室になるような店のつくりだからまだいいけど……でも、これはこれで落ち着かない。
そもそも、彼女は私に何の用なのかな?
「……そうね。長引かせても得るものはないわね」
「……」
エミリア様はカップをおろした。そして、その水色の瞳で私を正面から見据えてきた。
「――彼につきまとうのをお止めになられたら?」
「……彼って」
「わかっているでしょう? ルイスのことよ」
「……つきまとっているわけじゃ、ありません」
そんな言い方されても。私はべつに、ハーヴェイさんのストーカーでも何でもないし。
単なる、友人関係にあてはまるよね?
私の否定に、エミリア様は訝しそうに眉をひそめた。
「なら、何故あなたはあの方の傍にいるのかしら?」
「それ、は……」
……話せば、長くなるよね。
知り合い程度の出会った当初に比べると、たしかに今ってハーヴェイさんといる時間が多い気がする。
でも、私が彼の傍にいる一番の理由は。
「約束、したからです」
「約束?」
「『傍にいる』って。『私がここにいる限り、ずっと傍にいる』って約束をしたから」
「……不確かすぎるわ。それをあなた自身、従うつもりなの?」
「彼が……ハーヴェイさんが、許してくれるのなら」
ただ、今となっては怪しいけど。
彼が私を拒んでいたら、私はそれを受け入れるしかない。
「……あなたに遠回しな言い様は通じないみたいだから、包み隠さず言うわね。私としては、あなたが彼から離れてくださることが叶うなら、金銭に糸目はつけないわ」
「っ!? お、お金なんていりません!」
そんな理由で、私はハーヴェイさんの傍にいるわけじゃない!
私の言葉に、目を細めてエミリア様は微笑んだ。
「殿方が良いと言うのでしたら、そちらでも構わなくてよ」
「いりません! ハーヴェイさんじゃないと、意味なんてないです! 私はハーヴェイさんだから、傍にいたいんです!」
そう、彼じゃないと意味なんて全然ない。だって、約束したのはハーヴェイさんとなんだから。
第一、誰でもいいなんてあるわけないよ。
私が必死に精一杯力強く言い返すと、彼女はその目の奥に獰猛な光を宿した。
「…………そう。だとしたら、あなたはハーヴェイ家の障害となり得るおつもりなのね?」
「……」
「例え、それがルイスのためにならないとしてもかしら?」
「……もしその質問の意図が、『ハーヴェイ家のルイスさん』のためを指しているんだとしたら、そうかもしれません」
「どういう意味かしら」
「……」
今日気づいたこと。
それを反芻して、私は息を吸い込んだ。
「『ハーヴェイ家らしく』、なんて。彼は望んでないからです」
「っ!」
きっと、そう。
彼は、ハーヴェイ家に嫌悪感を抱いてる。
本人に確かめてはないけど、実家とか家族の話題に触れることが全くなかった。
「……私だって」
「え?」
……なに?
ボソッと聞こえた声は、俯いていたエミリア様からだった。伏せてた顔を上げて、彼女は私をキッと睨んできた。
「私だって、気づいてはいたわよ」
「え……」
どうしたの?
「だけどそんなの認めるわけにいかないじゃない! そうでないと彼を庇えなくなるのよ!?」
「庇う?」
エミリア様は、ルイスさんを庇っているの?
「ただでさえ、近年の彼の動向で見切りをつけることをハーヴェイ家当代は視野に入れようとしているの」
「……」
女癖の悪さとか、そう言った噂でとかかな?
ハーヴェイ家当主ってことは、もしかしてハーヴェイさんのお父さんが?
見切りをつけるってことは……後継者から外すとかそういうことなのかな。
「そのような状況下に、あなたみたいな庶民に彼が執心だと知れたら……! 彼は、用済みになって処分されかねないわ」
「処分? それって、殺されるってことですか?」
「……表立ってはされないでしょうけれど、裏ではどうかわからないわ」
暗殺者を差し向けられたりするってこと? もしくは、何かの事故に巻き込まれたみたいに見せかけて殺そうとしてくるとか?
「どうして、そこまでその当主さんはハーヴェイさんを殺そうとしてるんですか?」
「……当代は家の汚点となるような存在を、極度な嫌悪感をもって対応するのよ。出自からルイスには当代にとって気に喰わない点が多すぎるの」
生まれたときから?
それって……ハーヴェイさんには何の落ち度もないよね?
実の父親からそんな目で見られて育ってたなんて……ハーヴェイさん、どう感じてたのかな。
「とにかく、ルイスにはもう、あとがないのよ」
「……」
エミリア様は、苦しそうに表情を歪めていた。
どうして、私、こんなところにいるのかな?
はしたないって言われないように、こっそり周囲を見てるけど。どう考えても場違いにしか思えないよ。
天井にはキラキラ眩しいくらいの明るさで輝いてるシャンデリア。
この床に使われてるツルツルした白い石は……たぶん大理石じゃないかな?
座ってる一人掛け用のソファーはふっかふかで、気を抜くと足が浮いちゃいそうなほど。
目の前にあるテーブルの上には、青みがさしてる琥珀色の紅茶。湯気から漂う香りは、ホッとする素敵なもの。
紅茶が入ってるカップも、なんだかとっても高価そう。模様は花が細かく描かれてて、繊細な印象がある。
割っちゃたら怖くて手が伸ばせないよ。このティーカップ一つだけでも、絶対私の給金じゃ払えないような代物だよ。
「どうかしたのかしら? 先程から手をつけていないけれど」
「あ…………いいえ、私のことはお構いなく」
かけられた声に顔を上げると、優雅に唇にティーカップを運びながらエミリア様が首を傾げた。
……どうして平然と使えるんですか。慣れですか?
「あの……それで、私はどうしてここに連れてこられたんですか?」
馬車でエミリア様に連れていかれた先は、カフェだった。
内装もすっごくオシャレで豪華で、正直気後れしてる。テーブルごとに個室になるような店のつくりだからまだいいけど……でも、これはこれで落ち着かない。
そもそも、彼女は私に何の用なのかな?
「……そうね。長引かせても得るものはないわね」
「……」
エミリア様はカップをおろした。そして、その水色の瞳で私を正面から見据えてきた。
「――彼につきまとうのをお止めになられたら?」
「……彼って」
「わかっているでしょう? ルイスのことよ」
「……つきまとっているわけじゃ、ありません」
そんな言い方されても。私はべつに、ハーヴェイさんのストーカーでも何でもないし。
単なる、友人関係にあてはまるよね?
私の否定に、エミリア様は訝しそうに眉をひそめた。
「なら、何故あなたはあの方の傍にいるのかしら?」
「それ、は……」
……話せば、長くなるよね。
知り合い程度の出会った当初に比べると、たしかに今ってハーヴェイさんといる時間が多い気がする。
でも、私が彼の傍にいる一番の理由は。
「約束、したからです」
「約束?」
「『傍にいる』って。『私がここにいる限り、ずっと傍にいる』って約束をしたから」
「……不確かすぎるわ。それをあなた自身、従うつもりなの?」
「彼が……ハーヴェイさんが、許してくれるのなら」
ただ、今となっては怪しいけど。
彼が私を拒んでいたら、私はそれを受け入れるしかない。
「……あなたに遠回しな言い様は通じないみたいだから、包み隠さず言うわね。私としては、あなたが彼から離れてくださることが叶うなら、金銭に糸目はつけないわ」
「っ!? お、お金なんていりません!」
そんな理由で、私はハーヴェイさんの傍にいるわけじゃない!
私の言葉に、目を細めてエミリア様は微笑んだ。
「殿方が良いと言うのでしたら、そちらでも構わなくてよ」
「いりません! ハーヴェイさんじゃないと、意味なんてないです! 私はハーヴェイさんだから、傍にいたいんです!」
そう、彼じゃないと意味なんて全然ない。だって、約束したのはハーヴェイさんとなんだから。
第一、誰でもいいなんてあるわけないよ。
私が必死に精一杯力強く言い返すと、彼女はその目の奥に獰猛な光を宿した。
「…………そう。だとしたら、あなたはハーヴェイ家の障害となり得るおつもりなのね?」
「……」
「例え、それがルイスのためにならないとしてもかしら?」
「……もしその質問の意図が、『ハーヴェイ家のルイスさん』のためを指しているんだとしたら、そうかもしれません」
「どういう意味かしら」
「……」
今日気づいたこと。
それを反芻して、私は息を吸い込んだ。
「『ハーヴェイ家らしく』、なんて。彼は望んでないからです」
「っ!」
きっと、そう。
彼は、ハーヴェイ家に嫌悪感を抱いてる。
本人に確かめてはないけど、実家とか家族の話題に触れることが全くなかった。
「……私だって」
「え?」
……なに?
ボソッと聞こえた声は、俯いていたエミリア様からだった。伏せてた顔を上げて、彼女は私をキッと睨んできた。
「私だって、気づいてはいたわよ」
「え……」
どうしたの?
「だけどそんなの認めるわけにいかないじゃない! そうでないと彼を庇えなくなるのよ!?」
「庇う?」
エミリア様は、ルイスさんを庇っているの?
「ただでさえ、近年の彼の動向で見切りをつけることをハーヴェイ家当代は視野に入れようとしているの」
「……」
女癖の悪さとか、そう言った噂でとかかな?
ハーヴェイ家当主ってことは、もしかしてハーヴェイさんのお父さんが?
見切りをつけるってことは……後継者から外すとかそういうことなのかな。
「そのような状況下に、あなたみたいな庶民に彼が執心だと知れたら……! 彼は、用済みになって処分されかねないわ」
「処分? それって、殺されるってことですか?」
「……表立ってはされないでしょうけれど、裏ではどうかわからないわ」
暗殺者を差し向けられたりするってこと? もしくは、何かの事故に巻き込まれたみたいに見せかけて殺そうとしてくるとか?
「どうして、そこまでその当主さんはハーヴェイさんを殺そうとしてるんですか?」
「……当代は家の汚点となるような存在を、極度な嫌悪感をもって対応するのよ。出自からルイスには当代にとって気に喰わない点が多すぎるの」
生まれたときから?
それって……ハーヴェイさんには何の落ち度もないよね?
実の父親からそんな目で見られて育ってたなんて……ハーヴェイさん、どう感じてたのかな。
「とにかく、ルイスにはもう、あとがないのよ」
「……」
エミリア様は、苦しそうに表情を歪めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる