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◇第五章 ルイス編◇ チャラい彼のヒミツに触れます
第二十八話 「変わらない、ですけど」
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重苦しい沈黙に圧迫されて、息がつまりそう。
でも、雰囲気にのまれている場合じゃない。緊張で無意識のうちに乾いた唇を動かした。
「例えそうだとしても。それを選ぶのは、ハーヴェイさん……いえ、ルイスさんです」
「……何を悠長なことを。あなただって無関係ではないのよ」
「え?」
私? 私がどうかしたの?
エミリア様は私をジッと観察してる。彼女の透き通った水色にいる私は、不思議そうに目を丸くしてる。
「ルイスの動向をたどっていけば、あなたに行き着くわ。……庶民のあなたを消した方が、武道に長けたルイスを消すより容易でしょう?」
「…………なるほど」
その可能性は考えなかったよ。
ありえない話じゃないよね。
「納得してどうするのかしら。命が脅かされるかもしれない可能性に、何故平然としていらっしゃるの?」
平然というより……。
「現実味がない、って言った方がいいかもしれません」
だって、私に暗殺者が向けられるって言われても……。まるでどこかの映画の中の話みたいなこと、起こるのかなって思っちゃうよ。
「あなた……もう少し警戒心をお持ちになったらいかがかしら?」
「よく、言われます」
特にルイスさんに。
……でも、言われちゃうほど警戒心がないとは思わないんだけどな。
「それともあなた、このまま死んでもいいって言うのかしら?」
「! いえ、それはありえないです!」
だって、私は元の世界に帰らなきゃいけないんだから。
生きてないと、それだって叶わないんだしね。
首を勢いよく左右に振ると、エミリア様は「そうよね」と息を吐いた。
「それでも、ルイスから離れる気は起きないのかしら?」
「……はい」
自分からそうしたいとは思えない。……いずれ、その時が訪れたとしても。
私の意志を汲んだエミリア様は、悩ましそうな表情を浮かべてた。
「あるいは、あなたが彼の行動を変えさせられるなら…………」
「え?」
私が、ルイスさんを変える?
でも……。
「無理だと思います」
「何故かしら?」
「彼は決めて、選んで行動してるからです」
「何を……」
だって、私は覚えてる。
花祭りのあの日、たしかにルイスさんはこう言ったから。
『貴族らしさなんて、俺の方から願い下げだっつうの』
今までの行動だって、考えてみればおかしな点がいくつもある。
『女好き』なはずなのに、どうして自分からは女性に話しかけにいかないのか。
好意を寄せられている女性に対しても、どこか一線を引いて冷静に物事を見ていた。
言動は女好きみたいなのに、行動は伴ってない。ううん、もしかしたら私に見せてないだけなのかもしれないけど。
でも、女性に好かれてても「どうでもいい」って姿勢が見え隠れしてた。
あれは――
「ルイスさんは、勘当されたいんだと思います」
「っ! あなた、ご自分が何を言っているのかわかっていらっしゃるの?」
「もちろん、わかってます」
冗談でこんなこと言うはずがないよ。
私とルイスさんは短い付き合いだけど、それくらいわかるよ。
「そんなわけ、あるはずが……」
「そう、でしょうか。ルイスさんは、あえてそういう行動をとっているようにしか見えません。……多少は、彼の本能で動いてる部分もあるみたいですけど」
うん、女の子が好きなのは嘘じゃないみたいなんだけど。誰彼構わずって感じではなさそうなんだよね。
どこか周りを観察して自分の行動を選んでしてる気がする。
……でも、それだけじゃなくって。
思い出しちゃうのは、ルイスさんと隊長さんの会話。
『ちったぁ反省しやがれ。後ろからナイフで刺されてもおかしくねぇような生活送りやがって』
『それなら、本望ですよ』
ためらいなく笑って答えたルイスさんに、隊長さんは渋い表情をしてた。
「そもそも、私が彼の傍にいるって約束したキッカケですけど……彼が不安定だったからです」
「……何をおっしゃっているの?」
私の発言にエミリア様は怪訝そうにしてた。
「…………ルイスさんは、『いつ死んでも構わない』。そんな雰囲気をたまにするから」
「っ!」
例えばそれは、剣を振るとき。
出会ってすぐの頃は、一瞬でルイスさんの目が無機質に変わってた。
今は、そうでもなくなったけど。そういえば、いつから彼は変わったのかな?
「あなたは、それを厭って彼の近くに侍っているというの?」
「……」
それだけじゃない。彼が先輩に似てるから、余計にほっておけなかったなんて。
だけど……それをここで言う必要はない、よね。
沈黙でもって返事をしたら、エミリア様は紅茶を一口ふくんでみせた。
一つ小さな嘆息をこぼした後に、彼女は静かに瞳を伏せた。
「……聞いても、いいかしら」
「なんですか?」
「今後、ルイスがハーヴェイ家の者から外れたときに、あなたはどうするのかしら?」
どうするって……そんなの。
「変わらない、ですけど」
「……え?」
キョトンとして目を瞬かせるエミリア様だけど、私には疑問しかないよ。
首を傾げてしまうけど、仕方ないよね。
「私は『騎士のハーヴェイさん』……いえ、『騎士のルイスさん』しか知らないです。だから、彼が彼である限り変わらないです」
ナンパな言葉でからかったり、変に焦ったり、明るく笑ったりするけど、たまに朧げに存在が揺らぐ。
そんな彼しか知らない。
地位とか、家とか話されたって、どれだけすごいことなのかなんて私にはわからないよ。
「……そう」
「?」
どうして、満足そうに微笑んでるの?
優しい眼差しに、こっちとしては戸惑うよ。
「それが、あなたの強みなのかもしれないわね」
「あの……?」
「…………」
笑ってるだけじゃ、わからないよ。
……あ、れ? エミリア様の笑顔って、見たことある、ような。
でも、どこで?
…………思い出せないよ。
「話し込んで、時間も遅くなってしまったわね。……騎士舎まで送るわ」
「……はい」
後ろ髪を引かれるような気分。だけど、私とは対照的にエミリア様は上機嫌だった。
そういえば、私がルイスさんから離れるってことの話から逸れて、途中から違う話になっちゃってたけど……。
エミリア様はいいの?
婚約者とか恋人だったら、周りに女の人なんて近づけたくないよね。そのために確証がほしくなるんじゃ……。
なのにどうして、そんな相手の私に笑いかけてるのかな?
それとも…………私の勘違い?
エミリア様とルイスさんはそういった関係じゃない、とか?
だとしたら二人は……どういう繋がりなのかな。
でも、雰囲気にのまれている場合じゃない。緊張で無意識のうちに乾いた唇を動かした。
「例えそうだとしても。それを選ぶのは、ハーヴェイさん……いえ、ルイスさんです」
「……何を悠長なことを。あなただって無関係ではないのよ」
「え?」
私? 私がどうかしたの?
エミリア様は私をジッと観察してる。彼女の透き通った水色にいる私は、不思議そうに目を丸くしてる。
「ルイスの動向をたどっていけば、あなたに行き着くわ。……庶民のあなたを消した方が、武道に長けたルイスを消すより容易でしょう?」
「…………なるほど」
その可能性は考えなかったよ。
ありえない話じゃないよね。
「納得してどうするのかしら。命が脅かされるかもしれない可能性に、何故平然としていらっしゃるの?」
平然というより……。
「現実味がない、って言った方がいいかもしれません」
だって、私に暗殺者が向けられるって言われても……。まるでどこかの映画の中の話みたいなこと、起こるのかなって思っちゃうよ。
「あなた……もう少し警戒心をお持ちになったらいかがかしら?」
「よく、言われます」
特にルイスさんに。
……でも、言われちゃうほど警戒心がないとは思わないんだけどな。
「それともあなた、このまま死んでもいいって言うのかしら?」
「! いえ、それはありえないです!」
だって、私は元の世界に帰らなきゃいけないんだから。
生きてないと、それだって叶わないんだしね。
首を勢いよく左右に振ると、エミリア様は「そうよね」と息を吐いた。
「それでも、ルイスから離れる気は起きないのかしら?」
「……はい」
自分からそうしたいとは思えない。……いずれ、その時が訪れたとしても。
私の意志を汲んだエミリア様は、悩ましそうな表情を浮かべてた。
「あるいは、あなたが彼の行動を変えさせられるなら…………」
「え?」
私が、ルイスさんを変える?
でも……。
「無理だと思います」
「何故かしら?」
「彼は決めて、選んで行動してるからです」
「何を……」
だって、私は覚えてる。
花祭りのあの日、たしかにルイスさんはこう言ったから。
『貴族らしさなんて、俺の方から願い下げだっつうの』
今までの行動だって、考えてみればおかしな点がいくつもある。
『女好き』なはずなのに、どうして自分からは女性に話しかけにいかないのか。
好意を寄せられている女性に対しても、どこか一線を引いて冷静に物事を見ていた。
言動は女好きみたいなのに、行動は伴ってない。ううん、もしかしたら私に見せてないだけなのかもしれないけど。
でも、女性に好かれてても「どうでもいい」って姿勢が見え隠れしてた。
あれは――
「ルイスさんは、勘当されたいんだと思います」
「っ! あなた、ご自分が何を言っているのかわかっていらっしゃるの?」
「もちろん、わかってます」
冗談でこんなこと言うはずがないよ。
私とルイスさんは短い付き合いだけど、それくらいわかるよ。
「そんなわけ、あるはずが……」
「そう、でしょうか。ルイスさんは、あえてそういう行動をとっているようにしか見えません。……多少は、彼の本能で動いてる部分もあるみたいですけど」
うん、女の子が好きなのは嘘じゃないみたいなんだけど。誰彼構わずって感じではなさそうなんだよね。
どこか周りを観察して自分の行動を選んでしてる気がする。
……でも、それだけじゃなくって。
思い出しちゃうのは、ルイスさんと隊長さんの会話。
『ちったぁ反省しやがれ。後ろからナイフで刺されてもおかしくねぇような生活送りやがって』
『それなら、本望ですよ』
ためらいなく笑って答えたルイスさんに、隊長さんは渋い表情をしてた。
「そもそも、私が彼の傍にいるって約束したキッカケですけど……彼が不安定だったからです」
「……何をおっしゃっているの?」
私の発言にエミリア様は怪訝そうにしてた。
「…………ルイスさんは、『いつ死んでも構わない』。そんな雰囲気をたまにするから」
「っ!」
例えばそれは、剣を振るとき。
出会ってすぐの頃は、一瞬でルイスさんの目が無機質に変わってた。
今は、そうでもなくなったけど。そういえば、いつから彼は変わったのかな?
「あなたは、それを厭って彼の近くに侍っているというの?」
「……」
それだけじゃない。彼が先輩に似てるから、余計にほっておけなかったなんて。
だけど……それをここで言う必要はない、よね。
沈黙でもって返事をしたら、エミリア様は紅茶を一口ふくんでみせた。
一つ小さな嘆息をこぼした後に、彼女は静かに瞳を伏せた。
「……聞いても、いいかしら」
「なんですか?」
「今後、ルイスがハーヴェイ家の者から外れたときに、あなたはどうするのかしら?」
どうするって……そんなの。
「変わらない、ですけど」
「……え?」
キョトンとして目を瞬かせるエミリア様だけど、私には疑問しかないよ。
首を傾げてしまうけど、仕方ないよね。
「私は『騎士のハーヴェイさん』……いえ、『騎士のルイスさん』しか知らないです。だから、彼が彼である限り変わらないです」
ナンパな言葉でからかったり、変に焦ったり、明るく笑ったりするけど、たまに朧げに存在が揺らぐ。
そんな彼しか知らない。
地位とか、家とか話されたって、どれだけすごいことなのかなんて私にはわからないよ。
「……そう」
「?」
どうして、満足そうに微笑んでるの?
優しい眼差しに、こっちとしては戸惑うよ。
「それが、あなたの強みなのかもしれないわね」
「あの……?」
「…………」
笑ってるだけじゃ、わからないよ。
……あ、れ? エミリア様の笑顔って、見たことある、ような。
でも、どこで?
…………思い出せないよ。
「話し込んで、時間も遅くなってしまったわね。……騎士舎まで送るわ」
「……はい」
後ろ髪を引かれるような気分。だけど、私とは対照的にエミリア様は上機嫌だった。
そういえば、私がルイスさんから離れるってことの話から逸れて、途中から違う話になっちゃってたけど……。
エミリア様はいいの?
婚約者とか恋人だったら、周りに女の人なんて近づけたくないよね。そのために確証がほしくなるんじゃ……。
なのにどうして、そんな相手の私に笑いかけてるのかな?
それとも…………私の勘違い?
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