ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第五章 ルイス編◇   チャラい彼のヒミツに触れます

第三十四話   「首を突っ込むんじゃねぇ」

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 あの後、私は合流してきた騎士団の人達に保護された。
 ……ルイスさんの腕の中にいる状態で。

 その時になってようやく、我に返ったルイスさんが私を引きはがした。それから後ずさりを大げさなくらいしたのには、ちょっとビックリしたけど……。
 なにより、「うわぁぁああああっっ!?」って悲鳴を上げるのは酷いと思います。

 それほど、ルイスさんが動揺してたってことなのかもしれないけど……失礼すぎませんか?

 騎士団の人達が来てから、ルイスさんは目を合わせてもくれなくなったし。
 それが居たたまれないからか、気恥ずかしさからか、もともと近寄るなって彼から言い出したせいかはわからないけど。

 助けてもらった瞬間とは比べられないほど、ぎこちない動きに戻るなんて。


 王都にたどり着いたかと思えば、すぐに事情聴取。エミリア様みたいな爵位を持つ人が強襲されたってこともあって、かなり詳しく聞き取りされた。
 この時に、私より少しだけ先にエミリア様も無事に保護されたって教えてもらった。
 エミリア様は目が覚めたら、真っ先に騎士の人達に私の行方を詰問したんだって。すぐそばに私の姿がないから、余計に心配になったみたい。そこまで気にかけてくれるなんて、やっぱりエミリア様は優しいよね。

 なにより、彼女を助けることができてよかったって思う。
 もっとしゃべってみたいけど、エミリア様の身分から考えるとなかなか厳しいかも。また会えたりできるといいな。

 長引いた事情聴取で、解放されたときにはもうクタクタ。自分の部屋に着いた途端、ベッドに直行しちゃった。


「明日、ルイスさんにお礼を言いに行きたいな」


 つぶやくと同時に、意識が落ちていく。

 ――でも、私の希望は叶わなかった。
 翌日から、ルイスさんは食堂に来なくなった。


 ◇◇◇


 これで5日間連続……。

「……おかしい、よね」

 昼食はわかるよ。気分転換にってわざわざ外で済ませる人だって、いなくはないし。夕食も……たまにだったら、行く人もいるけど。
 でも、さすがに毎日続けてっていうのはないよ。

 なぜかっていうと、外食はお金がかさむし、面倒だから。
 騎士舎の食堂は職場割引があって、比較的に安い。元の世界での学食みたいなもので、よく食べる男の人でも一食8枚の小銅貨……800円程度で足りちゃう。加えて外でとなると、その移動も大変だから敷地内にある食堂へと皆流れる。

 だから大概の人は、『たまに』になるというわけ、なんだけど……。

 あ、もしかして、娼館に行くついでに済ませてる、とか?
 前に、『毎日娼館に行ってた』って言ってたような。

「……」

 なんだか胸の奥がもやもやする、ような……。
 ルイスさんがそういう人だってことくらい、わかってたはずなのに。

 でも、それはハーヴェイ家から勘当されたくてとか理由がありそうだと思ってたけど。
 そうじゃ、ないのかな。

 そういえば、ルイスさん本人には確かめてない、よね。

「……どう、なのかな」
「何がだ」
「!?」

 ビックリした……! 独り言に横から口をはさまれるなんて思わなかったから、つい飛び上がっちゃいそうになったよ。
 恐る恐る後ろを振り返ると、見慣れた人がいた。

「隊長さん」
「おう。テメェもこの間は災難だったな」
「……はい」

 あの事件のこと、知ってるんだ。
 ……でも、それもそうかな。だってここに私は勤めてるわけで、助けてくれたのもルイスさんだから耳に入ってても変じゃないよ。

「あの……今日は、何か用ですか?」
「あ”? 薄々感づいてんだろ、テメェなら」
「…………ルイスさんのことですか?」
「わかってんじゃねぇか」

 重々しくうなずく隊長さんの表情は渋くて、まるで苦い物を噛み砕いたみたい。

「また隊員さん達にうながされてですか?」
「まぁ、な。ッチ、アイツら俺だとあのバカの怒りを買わねぇって踏んで、押しつけやがって……」
「? どういうことですか?」

 ブチブチ文句言ってるけど……。他の人だとルイスさんが怒るって?
 首を傾けて浮かんだ疑問をそのまま隊長さんに聞いてみると、彼は厳つい顔を嫌そうにしかめた。

「……本人が知らねぇっつううのも酷か。俺がバラしたってルイスに言わねぇなら、教えてやってもいいが」
「わかり、ました」

 よくわからないけど、隊長さんが渋るってことはよっぽど嫌なことなのかな。
 承諾の意味をこめて首を縦に振ると、隊長さんはため息を深くついた。

「要するにだ。テメェはルイスのモンだって認識されてんだよ」
「……え?」

 …………私が!?
 なんで!?

 キョトンとした後に、驚いて隊長さんを見つめる。
 彼はと言うと、「やっぱり自覚ねぇのかよ、メンドクセェ」なんてぼやいた。

「テメェに粉かけようとした奴らをことごとくルイスがほふってるっつうことも、知んねぇんだな」
「え、ええ!?」

 屠るって、何ですかそれ!?
 すっごく不穏な言葉が聞こえたよ!?

「そ、そんなことあるはずないです」
「あ? 俺が嘘吐いてるっつうこと言いてぇのか」
「!? っ違います! そうじゃなくて……ルイスさん、そんな様子全然見せなかったから……その、勘違いだとか」
「ある訳ねぇだろ。平和ボケしてんじゃねぇ」

 そんなバッサリ。
 しかも私が言うたびに隊長さんの眉間のしわが深くなってくよ。元々人相が悪いのに、ますます凶悪になってます。

「あのバカ、変に頭が回るから隠すのもウメェんだよ。あとは、テメェ自身の鈍感さをうらめ」
「……鈍感」

 私って、そうなの?
 でも、先輩に対して憧れで好きだってことは、すぐに思ったのに?

「っつうわけでな、下手にテメェと関わろうモンならルイスに報復にう。それをいとんだ野郎共が俺に代表として行けって泣きついてきやがったのが、くだらねぇ原因だ」
「……そう、なんですね。それは…………あの、ごめんなさい」
「全くだ」

 私が悪いわけじゃないけど、なんとなく謝っちゃうよ。
 隊長さんは嘲笑の息を吐いて、私をジロリと見下ろしてきた。

「んで、今回だが……俺から言えんのは一つだ。テメェはこれ以上、首を突っ込むんじゃねぇ」
「……え?」

 どういう、こと?
 騎士の人達はそれを伝えてほしかったの?

「勘違いするんじゃねぇ。奴らはテメェに今すぐにでもルイスに会ってくれって訴えたいだろうな」
「……」

 だったら、どうして?
 怪訝けげんな顔をする私を見て、隊長さんは無表情になった。冷たい眼差しに射すくめられて、自然と肩が揺れた。

「テメェには覚悟がねぇ。んな奴に、今のルイスに会うのは互いに深みにはまっちまうだけだ」
「……前は、ルイスさんの態度に関係なく、関われって言ってましたよね?」

 なんで、意見が変わってるの?
 納得できなくて咎めるように隊長さんを見つめると、彼は気まずそうに視線を外した。

「状況が変わっちまったんだよ。今の・・ルイスは、危険だ」
「危険?」

 ためらいなく言われた言葉に、目をパチリと瞬いてしまったけど。
 ルイスさんが危険って……?

 ふと、脳裏にある光景がよぎった。

 
 それは、月明かりの中剣を片手にたたずむ彼の姿。
 彼の剣の先端からこぼれるのは、赤い――


「っ!」
「そういうことだ。わかるか」
「……」

 顔色を変えてしまった私に対して、隊長さんが静かに問いかけた。

 わかり、ます。でも、だけど……。

「だったら、余計に無理です」
「あ?」

 胡乱うろんげな視線を受け止めて、私は首を左右に振ってみせた。

「もし、ルイスさんが今そんな状況だったんだとしたら、私はほっておけないです」
「テメェ……正気か?」
「はい」

 マジマジ顔をのぞきこまれて、隊長さんと目が合う。
 真意を確かめるように眺められてるけど、べつに私は誤魔化しとかで言ったつもりなんかないよ。

「森で奴のアノ状態を見たんじゃねぇのか」
「アノ状態が何を指してるのかわからないですけど……私と隊長さんの想像と同じだったら、見たと思います」
「だったらなんで、んな流暢りゅうちょうなこと言ってやがる。いつ牙をくかわかんねぇってことくらい、テメェでもわかんだろ」
「……」

 釘を刺されなくたって、わかっていますよ。だけど……。

「約束、したんです」

 確かめるように、言葉にする。
 そう、私はルイスさんに一方的だけど、約束を結んだから。

 彼が望んでいるかどうかは、わからないけど。

そばにいるって」
「……」

 バジリスクに襲われたとき。命を失う寸前だったあの瞬間、感じたのは後悔だった。
 『ルイスさんに拒絶されたからって、距離を置かなければよかった』って。

 もっと、近くにいたい。
 彼のことを知りたい。

 …………まだ、元の世界に戻らなきゃって思ってる。
 だから、無責任な行動と考え方をしてるってことも、わかってる。

 でも……ここで、行動しないと元の世界に帰ったって後悔するってことも予想できる。

 だったら、私のできることをしようって決めた。

「クガは……ルイスにむやみに近づこうとしやがった今までの女共と違うな。やっぱり、テメェならあのバカを…………」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」

 軽く首を振って誤魔化されたけど、隊長さんは一体何を言いかけてたの?

「危険だって、わかってんだよな?」
「はい」
「……そうか」

 ハッキリと答えると、隊長さんは特大のため息をついた。
 それから、頭を無造作にきむしって「あー……」なんて呻《うめ》いた。

「…………なら、俺からテメェに言うことなんざねぇ。頑張れよ」
「! はい!」

 励ましをもらって、背中を押された気分だよ。
 それが、嬉しくて私は強くうなずいた。

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