ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第六章 ルイス編◇   先輩に似てない彼は私にとって何ですか?

第四十八話   『君が望むモノは何?』

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 舞踏会当日の朝は、普段と変わらないように始まった。

 ついにこの日が来てしまったことに焦りもあるけど、いっそのこと、さっさと終わらせてしまったほうがいいのかもしれない。

 舞踏会の日が近づけば近づくほど、表情が固くなっていく。そんな私を見かねて、ルイスさんは軽い調子で助言をくれた。

『んな固く感じんなって。単なる食事が豪勢ごうせい宴会えんかいだととらえとばいいんだ』

 ……うん、それはどう考えても無理です。
 だって、私がルイスさんに恥をかかせちゃったり、嫌な思いをされたりしないかとか、不安が山ほどあって。

 ――本当に私で、いいのかな?

 考えただけでも、憂鬱ゆううつ。このままベットにとじ込もってたいよ。

「でも、そうもしてられないよね」

 今日は一日仕事を休みにして、夜に開かれる舞踏会の準備にあてることになってる。
 着付けたり、化粧に髪型も気を配らなきゃいけない。

 私一人じゃ到底できないから、ルイスさんの伝手つてをつかって支度をすることになってた。
 目覚まし時計を確認してみるけど、まだ時間に余裕がある。だからって、二度寝するような気分でもないけど。

「あと一時間後に騎士舎前、だよね?」

 そこで待ち合わせになってたけど、どこかのお店とかで着付けのサービスでもしてるのかな?
 元の世界で言う、美容院の着物着付けみたいな。

 とりあえず、身一つでいいって言われるけど。前に、ルイスさんが私に見立ててくれたドレスは持っていかなくちゃ。
 あとは、何がいるかな?

「……あ」

 一つだけ思いあたって、机の引き出しの取っ手を引く。
 中には、鏡面を伏せられた手鏡があった。

 花祭の時の、ルイスさんからの贈り物。ルイスさんからもらった日からこの手鏡は、毎日欠かさず持ち歩いてた。

 最初に『真実を映す鏡』なんて聞いた時は、半信半疑だったけど。
 これがあったから、ルイスさんが抱えてる物がもっと細かくわかった。
 それだけじゃなく、バジリスクから命を救ったのもこの鏡。

「やっぱり、何か特別な力でもあるのかな?」

 白昼夢みたいに鏡が私に見せた光景は、間違えようのない真実でしかなかった。
 にわかには信じがたいけど、最近だとつい、こう言って流してしまいそうになる。

「……異世界だからアリ、なのかも?」

 人間、諦めと割り切りが必要だよね。

 最初は異世界だって実感するような物事に、うんざりしてた。
 いつからかな、それが事実だからって受け入れるようになったのは。

 元の世界との違いを見つけるたびにあせりを覚えていたのは、いつまで?

「……」

 自分自身が気づかないで起きてた変化が、怖い。
 いつまでもこの世界にいるはずなんてなくて。帰らなきゃいけない、そのはずなのに。

「私は――」

 答えが出なくて、唇の動きが止まってしまう。
 言いかけた言葉は、何だったのかな。

 視界に、『真実を映す鏡』が入った。

「これを使えば、わかる?」

 ……私が今、何を望んでいるのかもわかるのかな。

 指先を伸ばして、手鏡の持ち手に触れる。細かくツタ模様に彫刻された持ち手が、手のひらにデコボコした感触を伝えてきた。

 ソッと顔の正面まで持ち上げる。映りこんだのは、見慣れた私の真剣な表情で、背景はいつも私の過ごす部屋。
 ……変わらない、普段の景色。

「……何も映らない?」

 やっぱり、そんな何回も簡単に見れたりしないのかな。
 …………期待してガッカリしてもいいはずなのに、どうして今私は、安堵あんどしてるの?

『真実を見るのが、怖い?』
「え?」

 誰かの声が聞こえたような。
 とっさに声を上げて反応してしまった。見えない誰かに投げかけられた問いに、ドキッとした。

 気づいちゃいけない物を、指摘されたような。

 改めて、マジマジと鏡を観察してみる。
 前にも、鏡を見てる時に声が聞こえたことがあった。

 たしかあの時は、その後。

「……」

 あの時と同じように、指先で鏡の面に触れてみた。


 ――そして、次の瞬間。


 また私は、真っ暗な空間に気づけば立っていた。


 ◇◇◇


「あ……」

 また、同じ場所。
 少し離れた場所にあるのは、前に見たことがある大きな姿見の鏡。

 光をこぼす鏡だけが、この空間の中で唯一の明かりだった。

『さぁ、のぞいてみなよ』

 うながされる声につられるように、自然と足が鏡へと近づいていく。
 きっとそう、ココ・・に答えがある。

 優しい声は、私の様子をうかがってるみたいだった。

 鏡の前で立ち止まる。
 手を伸ばせばすぐに触れられる距離まで近づいてるのに、鏡には私の姿は映らない。くもりガラスみたいに、白くにごって何も見えない。

 前は、最初は私の姿は映ってたのに。その時とは、違うの?

「どういうこと……?」

 私の疑問と困惑をよそに、見えない声の主は疑問をぶつけた。
 
『――君が望むモノは何?』

 
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