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◇第六章 ルイス編◇ 先輩に似てない彼は私にとって何ですか?
第四十九話 「ルイスさんの傍にいたい!」
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私の望みなんて、自覚しちゃいけない。そう、自分に言い聞かせてた。
気づくと辛くなるだけだって。
私はいずれ、元の世界に帰らなきゃいけないんだから。
「私、は……っ」
でも、声を出して形にしてもいいの?
私にそんな我儘、許されるのかな?
…………わからない。だけど、もし。もしも許されるんだったら。
自分の衝動のままに、願いをのどから絞り出した。
「ここに……ルイスさんの傍にいたい!」
……言ってしまった。こんな我儘、言ってもいいはずがないのに。
いつからかな。元の世界に戻ることを不安に思い始めたのは。
私がこの世界から消えたって、何も変わらない。迷うことは一つもなかったはずだった。
この世界にいたいと願うのは、自分勝手でしかなくて。
一時のことで、今後の生活の全てが決まる。
だからこそ余計に、元からいた世界に帰るべきなのに。
この世界にとって異分子でしかない私が居続けることで、ルイスさんに悪いことが起きたら。
私は悔やんでも悔やみきれないって、わかりきってるのに。
……だけど、できてしまった。
大切な人達や、思い出が。
そして何より、ルイスさんを好きになったから。
この恋が実るか実らないかわからないのに、この世界を選ぶのはバカげてるかもしれない。
それでも、後悔したくなかった。
元の世界に戻らないと決めたことを、きっと一生私は後悔するんだと思う。
でもきっと私は、元の世界に戻ってもルイスさんを想って後悔すると思うから。
だったら私は、大好きな人の傍で後悔していたい。
「っ!? 光が……」
何!? 突然鏡が、眩しく輝き始めるなんて……。
鏡の面に波紋が生まれた。波は表面を揺らして、それはやがて鏡全体へと繋がっていく。
『それが君の望みなんだね?』
さっきから私に尋ねてきた声が聞こえる。
どこかホッとしたみたいな声色みたいに感じたのは、私の気のせいなのかな?
光る鏡の中には、いつしか虚像の私がいた。映し出された制服姿の私が問いかける。
『逃げるの?』
「……ううん、違うよ」
そう、逃げるんじゃない。
私は選んだにすぎないだけ。
この異世界にいることでずっと、ルイスさんの傍にいる。
『後悔しない?』
「それでもいいよ」
この選択で、悩んだって。
何でも得られるなんて、都合のいい話ないから。
そんなの、おとぎ話でしかない。
「皆幸せに過ごしました」なんて一言で済ませられるのは、物語の中だけ。
私に訪れるのは、ハッピーエンドじゃないかもしれない。
「それ以上に嬉しいって、そう思えるから」
『……』
悲しくても、きっと。
それよりもっと、嬉しく思うよ。
ルイスさんが笑ってくれれば。そんな彼の傍にいられれば。
彼と同じ世界を、見ていきたいの。
微笑んで伝えると、鏡の中の私は黙って見つめ返してきた。
『……そう。ならきっと、大丈夫だよね』
「っ!?」
笑って彼女がそう告げると、鏡の光がますます強くなって。
目が開けていられないくらい、強い光に飲み込まれていく。
光に耐えるためにまぶたを閉じると、何も見えなくなった。
そして――
◇◇◇
「え……? 戻ってこれた、の?」
次に目を開けたときには、いつもの私の部屋にいた。
手鏡を持ったままの態勢で、まるでついさっきまでのことがなかったことみたい。
部屋の中を見渡しても、特に異変はない、よね?
「っ!? 時間!?」
視界に入った目覚まし時計が、約束の時間にもう少しでなろうとしてるなんて!?
慌ててカバンに今日着る予定のドレスと、手鏡を詰めこんで部屋を飛び出した。
ーーさっきまで見たことが、単なる白昼夢か、現実のことなのかはわからない。
だけど、どちらにしても私は、この世界に残ることを決めた。
もしも今後、神様に「元の世界に帰れる」って言われても、首を縦に振らない。
……ごめんなさい。
謝罪の言葉を心の中で呟いて、私は自分の中の未練を絶ちきるように走り出した。
◇
待ち合わせの騎士舎の前に行くと、一台の馬車が停まってた。だけど、ルイスさんの姿はない。
「もしかして、遅刻しちゃった……?」
それで、置いていかれたとか?
……ううん、それはないよね。ルイスさんって、「待たされるのは男の甲斐性だろ!」なんて言いそう。
だったら、ルイスさんもまだ来てない、とか?
それなら、いいんだけど。
でもそれはそれで、心配。今まで待ち合わせした時も必ずルイスさんのほうが先にいたのに、今日に限っていないとか。
……もしかして、何かあったのかな?
「遅いですよ、何をノンキにしているのですか」
「!?」
この声って、まさか。
声がした方に顔を向けると、停まっていた馬車の小窓から見知った人がいた。
「レイモンドさん!」
「さっさと乗りなさい。時間がありませんから一刻も無駄にせず、迅速に行動に移してください」
久しぶりに会った彼はそう言って、鼻にかけたモノクルの位置を片手で直していた。
「計画性の足りない野生児に頼まれました。あのバカは後で追うそうです。あなたは先にこちらへ」
計画性の足りない野生児って……?
よくわからなくて戸惑ってたら、そんな私の様子にあきれたようにため息をつかれた。
「……察しが悪いですね。頼んできたのは、ルイスですよ」
「! ルイスさんが、ですか?」
ルイスさん、レイモンドさんに一体何を頼んでたの?
まだ疑問しかなくて困惑する私に、レイモンドさんは嘆息して冷たい眼差しを向けてきた。
「説明は後です。早くなさい」
「っ! は、はい!」
彼にうながされて、私は急いで馬車に乗り込んだ。
とっさに動いちゃったけど、今の状況を全然、私は飲み込めていないよ!?
気づくと辛くなるだけだって。
私はいずれ、元の世界に帰らなきゃいけないんだから。
「私、は……っ」
でも、声を出して形にしてもいいの?
私にそんな我儘、許されるのかな?
…………わからない。だけど、もし。もしも許されるんだったら。
自分の衝動のままに、願いをのどから絞り出した。
「ここに……ルイスさんの傍にいたい!」
……言ってしまった。こんな我儘、言ってもいいはずがないのに。
いつからかな。元の世界に戻ることを不安に思い始めたのは。
私がこの世界から消えたって、何も変わらない。迷うことは一つもなかったはずだった。
この世界にいたいと願うのは、自分勝手でしかなくて。
一時のことで、今後の生活の全てが決まる。
だからこそ余計に、元からいた世界に帰るべきなのに。
この世界にとって異分子でしかない私が居続けることで、ルイスさんに悪いことが起きたら。
私は悔やんでも悔やみきれないって、わかりきってるのに。
……だけど、できてしまった。
大切な人達や、思い出が。
そして何より、ルイスさんを好きになったから。
この恋が実るか実らないかわからないのに、この世界を選ぶのはバカげてるかもしれない。
それでも、後悔したくなかった。
元の世界に戻らないと決めたことを、きっと一生私は後悔するんだと思う。
でもきっと私は、元の世界に戻ってもルイスさんを想って後悔すると思うから。
だったら私は、大好きな人の傍で後悔していたい。
「っ!? 光が……」
何!? 突然鏡が、眩しく輝き始めるなんて……。
鏡の面に波紋が生まれた。波は表面を揺らして、それはやがて鏡全体へと繋がっていく。
『それが君の望みなんだね?』
さっきから私に尋ねてきた声が聞こえる。
どこかホッとしたみたいな声色みたいに感じたのは、私の気のせいなのかな?
光る鏡の中には、いつしか虚像の私がいた。映し出された制服姿の私が問いかける。
『逃げるの?』
「……ううん、違うよ」
そう、逃げるんじゃない。
私は選んだにすぎないだけ。
この異世界にいることでずっと、ルイスさんの傍にいる。
『後悔しない?』
「それでもいいよ」
この選択で、悩んだって。
何でも得られるなんて、都合のいい話ないから。
そんなの、おとぎ話でしかない。
「皆幸せに過ごしました」なんて一言で済ませられるのは、物語の中だけ。
私に訪れるのは、ハッピーエンドじゃないかもしれない。
「それ以上に嬉しいって、そう思えるから」
『……』
悲しくても、きっと。
それよりもっと、嬉しく思うよ。
ルイスさんが笑ってくれれば。そんな彼の傍にいられれば。
彼と同じ世界を、見ていきたいの。
微笑んで伝えると、鏡の中の私は黙って見つめ返してきた。
『……そう。ならきっと、大丈夫だよね』
「っ!?」
笑って彼女がそう告げると、鏡の光がますます強くなって。
目が開けていられないくらい、強い光に飲み込まれていく。
光に耐えるためにまぶたを閉じると、何も見えなくなった。
そして――
◇◇◇
「え……? 戻ってこれた、の?」
次に目を開けたときには、いつもの私の部屋にいた。
手鏡を持ったままの態勢で、まるでついさっきまでのことがなかったことみたい。
部屋の中を見渡しても、特に異変はない、よね?
「っ!? 時間!?」
視界に入った目覚まし時計が、約束の時間にもう少しでなろうとしてるなんて!?
慌ててカバンに今日着る予定のドレスと、手鏡を詰めこんで部屋を飛び出した。
ーーさっきまで見たことが、単なる白昼夢か、現実のことなのかはわからない。
だけど、どちらにしても私は、この世界に残ることを決めた。
もしも今後、神様に「元の世界に帰れる」って言われても、首を縦に振らない。
……ごめんなさい。
謝罪の言葉を心の中で呟いて、私は自分の中の未練を絶ちきるように走り出した。
◇
待ち合わせの騎士舎の前に行くと、一台の馬車が停まってた。だけど、ルイスさんの姿はない。
「もしかして、遅刻しちゃった……?」
それで、置いていかれたとか?
……ううん、それはないよね。ルイスさんって、「待たされるのは男の甲斐性だろ!」なんて言いそう。
だったら、ルイスさんもまだ来てない、とか?
それなら、いいんだけど。
でもそれはそれで、心配。今まで待ち合わせした時も必ずルイスさんのほうが先にいたのに、今日に限っていないとか。
……もしかして、何かあったのかな?
「遅いですよ、何をノンキにしているのですか」
「!?」
この声って、まさか。
声がした方に顔を向けると、停まっていた馬車の小窓から見知った人がいた。
「レイモンドさん!」
「さっさと乗りなさい。時間がありませんから一刻も無駄にせず、迅速に行動に移してください」
久しぶりに会った彼はそう言って、鼻にかけたモノクルの位置を片手で直していた。
「計画性の足りない野生児に頼まれました。あのバカは後で追うそうです。あなたは先にこちらへ」
計画性の足りない野生児って……?
よくわからなくて戸惑ってたら、そんな私の様子にあきれたようにため息をつかれた。
「……察しが悪いですね。頼んできたのは、ルイスですよ」
「! ルイスさんが、ですか?」
ルイスさん、レイモンドさんに一体何を頼んでたの?
まだ疑問しかなくて困惑する私に、レイモンドさんは嘆息して冷たい眼差しを向けてきた。
「説明は後です。早くなさい」
「っ! は、はい!」
彼にうながされて、私は急いで馬車に乗り込んだ。
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