ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第三章 レイモンド編◇   毒舌家で皮肉屋の彼は私のことが嫌いみたいです

第八話    「その顔についている目は飾りですか」

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 マクファーソン家の屋敷で本格的に働くことになってから、初めての休日。私は図書館に来てた。

 なんか、久しぶりに来たような気がするよ。たぶん、ここ数日間色々大変だったからかも。
 前まで働く日数が週に3日だけだったのが6日に増えたから、余計にそう感じるのかな?

「……」

 市街地には人がたくさんいたのに、やっぱりここはいつ来ても人がいない。
 ……前に会ったセオドールさんの姿も、今日はない。

 あんな別れ方をしたから、もう会えないのかな?

「……仕方ない、よね」

 気にはかかるけど、だからってどうすることもできないよ。
 もしまた会えたら、その時に考えよう。

「とりあえず、本を読まなきゃ」

 まずは、読み途中だった本を読むことから。


 ◇


「…………あ。終わり、かな」

 めくったら、筆者の名前があった。さっきのが最後のページだったみたい。
 うん、これでちょっとはこの国についてわかったかも。

「……だけど」

『ラビアムも知らないとは、どれほどあなたは浅慮《せんりょ》なのですか』

 レイモンドさんからの冷たい視線と言葉がよみがえる。

「……」

 私がこの国や周りの国のことを知らないのは当然で。異世界から来たんだから、わかるはずがないよ。
 だけどそんなの通用しないし、言ったって彼は信じないと思う。ううん、不信感がますます強くなるだけだよね。
 でも、わからないことは当たり前ってほっといても、レイモンドさんからの追及も疑惑も増すよね。
 ただでさえ信頼性ゼロなのに、これ以上になったら……?

「……追い出される?」

 もしかして、ううん、もしかしなくても絶対そうなる!
 それはマズいよ! さすがに住むところもお金もないのに、生きていけない!

 最近少しずつあったかくはなってきてるけど、まだまだ外は寒いのにそれでホームレスとか……! そこまでたくましくはないかな!?

「全力で他の国の基礎知識も叩《たた》き込まないと」

 誤魔化《ごまか》しきるなんてことができたら苦労しないけど、取り繕《つくろ》ったってボロが出るに決まってる。だったら最初っから知識を身につけておいたほうが、後々トラブルが少なくなるはずだよね。

「一般常識くらいはわかっておこうかな」

 ちょうど今いるのって歴史書が集まってる本棚みたいだし、探したら見つかりそうな気がする。

「ええと……」

 かと言っても、本の数が膨大《ぼうだい》なんだよね。全部を一気に読み切るなんてのは厳しい、かな。
 でも、いずれは元の世界に帰る手段を見つけるために読むつもりだけど…………ううん、できるのかな? でもやるしかないんだし、少しずつ頑張《がんば》らなくちゃ。

「どれを読めばいいのかな?」

 そもそも、他にどんな国があるのかすらあんまりわかってないのに。
 本棚の端から目を通してみる。……あ、『ラビアムの特産品・名所について』ってタイトルのがあった。これをまず読んでみようかな。

「……? あれ?」

 どうして、こんなタイトルの本がここにあるの?
 少し高い位置にあるからここからは手を伸ばしても届かないけど、気になる。

 落ちないように慎重《しんちょう》に脚立に上って、目についたそれを取る。不安定な場所で読むわけにはいかないから、本を抱えて下りてから本の表紙を見た。

「絵本、だよね?」

 表紙には、一人の少女と少年がほんわかしちゃうような優しいタッチで描かれてた。フリフリのドレスを着たお姫様が笑い、その隣に剣を腰に下げた王子様が並び立ってる。

「『おてんば姫と王子さま』?」

 ずいぶん読み古されたみたいで、表紙はすっかり色あせて背表紙なんてボロボロになってる。でもそれが、どれほどこの本が気に入られてたのかわかるよ。

 息抜きに少しくらい読んでみてもいい、かな。
 ……でも、まずは他の資料も集めてからにしようかな。

「……よし」

 うん、早く読んでみたいから急いで他の国の物も探さなきゃ。


 ◇◇◇


 紙袋を抱え込む両腕が痛い。ギシギシ悲鳴を上げそうなくらい、筋肉が限界を訴《うった》えてるよ!

「よ、よくばらなきゃよかったかも……」

 あの後、王宮図書館で他の国の歴史書を一通り選び出した。だけど、夕方になるまでにすべて読むことはできなくって、困った私は借りることにした。いちいち本棚に戻すのも、また今度来た時にもう一回探すのも面倒だから。
 初めて利用した図書館のカウンターでダメ元で聞いてみたけど、貸し出しオッケーだってわかってよかったよ。ただ、紛失した場合は賠償しなきゃいけないから、なくしたりしないようにしないと。

 問題は……借りすぎちゃったんだよね。
 カウンターの人のご厚意《こうい》で紙袋はもらえたんだけど、それがなかったらもっと大変だったよ。この世界だと本は貴重品みたいだから、盗難にあってたかも。

 何度も抱え直して屋敷に向かう。前が見えないってほどじゃないけど、足元は荷物で見えないから気をつけないと。
 屋敷の門をくぐる頃には、私の腕はじんじん痺《しび》れてた。少し感覚が麻痺《まひ》してきてるかも。そして決めた、今度借りるときはもう少し量を減らそうっと、うん。

 やっと、使用人用の裏口の扉にたどり着いたよ。歩くのもだんだんしんどくなってきたけど、あとちょっとだからもうひとふんばり。
 フラフラする足になんとか力を入れる。

 廊下の角を曲がった瞬間、正面から誰かにぶつかった。ゆっくり歩いてたから邪魔にならないようにって、端《はじ》にいたのがアダになったのかも。

「っ!? す、すみませ……!」

 結構盛大にぶつかったせいで、体勢が崩《くず》れかける。踏みとどまって転ばなくて済んだけど、腕が限界だったせいもあって紙袋を落としちゃった。ここまで帰ってこれたから、油断というか安心してたのかな。
 相手の人は大丈夫だったのかな?

「あ、あの! 大丈夫で、すか…………っ? え!? レイモンド、さん……!?」

 渋《しぶ》い顔をしたレイモンドさんが睨《にら》んできてる!? 今にも小言《こごと》を言いそうだよ! 眉と眉の間にあるしわが、メモとかはさめそうなくらい深いんだけど!?
 すっごく不機嫌ですね、ぶつかってごめんなさい!

 焦りと困惑で頭が働かないよ。よりにもよって、レイモンドさんとぶつからなくてもよかったのに! 運が悪すぎるよ、私。

「……前方不注意ですね。その顔についている目は飾《かざ》りですか」
「! す、すみません……! 怪我《けが》とか、しませんでしたか?」
「…………ええ、まぁ」

 レイモンドさんの顔をそろそろとうかがってみる。……うん、レイモンドさんは書類を何枚か抱えてるけど、落とした様子はないみたい。手の甲とか顔とか確認したけど、本人の言うように怪我もなさそう。……よかった。

「それよりもあなたはそんな大荷物、何を抱えて……」
「あ……」

 レイモンドさんの目線が床に落ちる。そこには、紙袋の口からこぼれた本が散らばってた。タイトルを改めて見たけど、見事に文字の種類がバラバラだよね。全部違う国のを集めたんだから当然かもしれないけど。
 ……改めて疑問なんだけど、外国の文字だってことはわかるのにどうして読めるのかな? しかも、読める文字の種類も一つじゃないみたい。便利だから助かるけど、不思議。

 真面目なお堅《かた》い本達の中に、息抜き用に一つだけ絵本が混じってるのにも違和感があるよ。『おてんば姫と王子さま』っていうあの本も、時間が足りなくて読めなかったから借りてきたんだよね。

 このまま床にあっても邪魔になるし、しゃがんで紙袋に本をしまい直す。底が破けてないのを確かめて一安心。さすがにこの量をそのまま両手に抱えるのはきついからよかった。
 紙袋を抱えて立ち上がると、レイモンドさんと目が合った。翡翠《ひすい》みたいな深い緑色の瞳が、細くなる。

「……全てあなたが読むのですか?」
「? はい」

 何を言ってるの? 借りたんだから、読むに決まってるのに。……あ、もしかして全部誰かのおつかいで頼まれて運んでるって思われたのかな。
 頷《うなず》いて肯定《こうてい》したら、レイモンドさんはあごに手をあてて考え始めちゃった。

「…………そうですか」
「? ……あの、失礼します、ね?」

 ずっと本を持ったままなのもつらいし、このままいても特に話すこともない、よね。
 軽くお辞儀《じぎ》をして、レイモンドさんの横を通り過ぎる。

「あなたは――」
「……え?」

 レイモンドさんの戸惑った声なんて初めて聞いたから、思わず振り返る。ちょうど彼も、私のほうをジッと眺めていた。
 首を傾《かし》げると、何故かレイモンドさんに深いため息をつかれた。

「……なんでもありません」
「? わかり、ました」

 気にはなるけど、彼がなんでもないって言ってるんだからいい、よね?
 背を向けて歩き出したけど、レイモンドさんの視線が痛いな。

 結局、私がその廊下から離れるまでずっと、背中にレイモンドさんの視線を感じる羽目《はめ》になった。
 ……一体、なんだったのかな?

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