ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇プロローグ◇

第四話    「よろしく、お願いします」

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「……失礼、つい」

  やっと笑い止んだ旦那様から謝罪をもらったときには、時間がだいぶ経っていた。
  ……さっきまでのピリピリした空気よりマシだけど、なんか、納得いかない。

  でも、あまり言い返す気になれない。剣の人に睨まれたりなんてしたら、考えただけでも怖い。

 「それで。お嬢さん、あなたはどうしてこちらに? 君一人なのも、気にかかるね」
 「……」

  なんて答えよう。『異世界から来ました』、なんて言っても信じてもらえない、よね?
  言われてみれば客観的に考えてみると……今の私って、怪しい人?

  困って口ごもっていると、剣の人が目を細めてきた。

 「答えろ、旦那様の問いだ」
 「……っ!」
 「これ、また脅してどうする。委縮いしゅくして答えないだけだ」
 「……旦那様がそうおっしゃるのなら」

  この人、怖い。なにも見せつけるように、剣を揺らしてみせなくてもいいのに。いつでも切れるぞってこと?
  でも、旦那様って人は、やっぱりさっきからかばってくれてる。
  私が言葉を返すまで待っていようとしてくれるなんて。

  ……嘘じゃなくって、本当のことを話してみよう。全部じゃなくて、話せるところだけ。

 「……いつの間にか、ここにいました」
 「! そうか……」

  旦那様は私の声を聞いて、一瞬虚をつかれたような表情になった。

 「周りには、誰もいなかったのかい?」
 「……はい」
 「服装も、そのとき着ていたものかい?」
 「そう、です」

  服装のことを深く掘り下げられたらどうしよう。うまく答えられるかな?
  だけど、それ以降は服装のことについては特に聞かれなかった。

  旦那様は私と目を合わせて一つ一つ聞いてきた。
  他にも年齢とか出身とか尋ねられたけど、答えられそうなものだけ答えて、それ以外は首を左右に振るしかない。

  異世界から来たなんて突拍子もないことを言っても、不信感が増すだけだから。

 「……わかった。答えてくれてありがとう」
 「……終わりですか?」
 「そうだね。これから私達は王都まで行くんだ。もしよかったら、君も一緒に行かないかい?」
 「旦那様、それはっ!」
 「おう、と……」

  剣の人が制止の声を上げたけど、旦那様はほがらかに笑ってる。
  王都って、街だよね。そこなら、この世界にいる間の働き先とか、宿泊場所とかある、かも?

  剣の人が嫌そうな声を出したってことは、歓迎されてないんだよね。
  当然かな。こんな雪の中に人が徒歩で現れて、しかも寒そうな服装をしてたら、疑うはず。旦那様みたいな反応の方が、変わってる。

 「……どうかい? 君がよければ、だけれど。女性の一人旅は危険だ。雪の影響で減っているとはいえ、モンスターも出る可能性がある。野盗にも狙われやすい。私達と行動をともにした方が、安全だと思うがね」

  モンスターに、野盗?

  私が普段聞かなかった単語の内容が、すっごく不穏。
  異世界って、そんなに危険なの?

  そんなことを知ったら、ますます怖くなる。
  一緒についていきたい。だけど……。

 「迷惑じゃ、ないですか?」
 「いいや。このまま野に放っておくほうが寝覚ねざめが悪い。それに花が増えるのも喜ばしい」

  花? 花って……?

  首を傾げていると、微笑んでいる奥様が近づいてきた。

 「あら、あなたったら。私は花ではないのかしら? 構ってはいただけなくて、さみしいわ?」
 「そんなはずがないだろう? 君が一番可愛く甘やかな香りを放つ極上の花さ。どのような花を集め花束にしようと、君一輪にはかなわない」
 「まぁ! うふふふっ!」

  ま、またイチャイチャ……。旦那様と奥様って人、本当にラブラブなんだ。
  あれ? 奥様と目が合ったけど、すごく楽しそうに笑ってる。

  もしかして、心配ないって言いたかった、の?

  咳ばらいをした剣の人によって我に返った旦那様は、ニッコリと笑いかけてくれた。 

 「ともかく。ここは私を立てると思って、うなずいてほしいところだな?」

  ウィンクするなんて、お茶目な人。おまけに紳士。ナイスミドルって、こういう人を言うんだろうな。
  そばに立ってる奥様も、私の返事を待ってくれてる。すごく優しくて気遣いのできる方なのかも。

  剣の人は、まだ何か言いたそうな顔だったけど。決定権は二人にあるみたいで、文句は言わなかった。

 「……あの。よろしく、お願いします」
 「……ああ。こちらこそ。道中、よろしく頼むよ」
 「……はい」

  コクンと首を振ると、旦那様はホッとしたような安堵の表情を見せてくれた。

 「ねぇ、あなた!」
 「!?」

  な、なに!? 奥様が目を輝かせて、私に身を乗り出してきたんだけど。

 「あなた、名前は何かしら? あ、私はアンジェリカ・マクファーソンよ!」
 「おやおや。先を越されてしまったね。私の名はジョシュア・マクファーソン。アンジェの夫だ」

  奥様が、アンジェリカさん。旦那様が、ジョシュアさん。
  剣の人は二人の視線を受けて、渋々口を開いた。

 「……ドミニク・マクレーンだ。旦那様の護衛を務めさせていただいている」

  護衛? だから、剣なんて持ってるの? 神経質だったのも、二人の身の安全を守るのが仕事だから?

  護衛がつくなんて、さっきも旦那様……じゃなくて。ジョシュアさんが言ってたみたいに、旅って危険なのかな?

  三人の視線が自然と私に集まる。

 「……璃桜りおん。リオン・クガ、です」

  慌てて、頭を下げた。これからお世話になるんだから、あいさつはしっかりしなきゃ。
  緊張してるからところどころつっかえちゃったけど、仕方ないよね。

 「……改めて、よろしく、お願いします」

  私のつたないあいさつに、アンジェリカさんとジョシュアさんは微笑んでくれた。
  ……ドミニクさんは、苦々しい様子だったけど。

  とりあえず、王都に行くまでお願いします。 皆さん!


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