18 / 164
◇第一章◇ 出会いは突然で最悪です
第十四話 「……教えて、ください」
しおりを挟む
いつまでも裏通りにいると、またさっきみたいなことになりそうで怖かったから。
すぐに移動しようと思った私の目にとまったのは、さっきの人が魔法で描いたツタの文字だった。
「え……?」
また、動いてる?
再び動き出したツタが、矢印を形作った。
その矢印の先は、一本道の片方を指していた。
「もしかして……こっち?」
ちょうど私の真後ろを指していたそれは、私が思わず振り向くと、足元をくぐり向けていった。
「っきゃ!?」
え、え!? び、ビックリした!
思わず後ずさると、そのツタは目の前の地面でまた矢印の形になった。
「案内して、くれるの……?」
たどると、表に出れるのかな?
「セオドールさんがかけておいてくれたの?」
やっぱり、あの人は悪い人じゃない。
「……ありがとう」
聞こえてないとは思うけど、お礼を呟いて私は矢印を追いかけ始めた。
◇◇◇
「本当に出れた……!」
私が追い付くのを待ちながら案内してくれるなんて、親切すぎだよセオドールさん!
ちなみにそのツタは、表の通りに出た瞬間に地面に吸い込まれて音を立てて消えちゃった。
人が行き交う中、大きな呼び声を聞いた。
「――オン様! リオン様! どこにいらっしゃいますかー!」
「あの声って……」
もしかして、アンナさん?
声がする方へ向かうと、女の子が顔に手をあてて叫んでいた。
たまに周囲の人を捕まえて、何かを話してる。……もしかして、私の特徴を話して、見た人がいないか聞いてる……?
「! 行かなきゃ……!」
泣きそうな顔してる……!
慌てて走って、アンナさんのもとへ向かう。
「アンナ、さん!」
「!」
頑張って声を上げる。人が多くて、聞こえにくいかもしれないけど。
アンナさんと目が合った。
「リ、リオン様ぁあああっ!!」
「……っ!」
は、走るの早いっ! 早いよアンナさん!
運動場なら砂煙が間違いなく上がりそうな勢いで、アンナさんが向かってくる。
これ、見たことある! たしか、テレビの中の闘牛とかだ!
思わずひいちゃって、私の足が止まりそうになる。
に、逃げちゃ……ダメ?
アンナさんはミサイルみたいな勢いで、私に突っ込んできた。
「! わ……!?」
ギュッと抱きしめられるなんて、予想できなかったよ!
「どこに行かれてたんですかぁ! リオン様、この王都の道、全然知らないのにはぐれるなんて……。私……私! 心配で……すっごく、すっごく探したんですよぉ……!」
「……アンナ、さん」
「うわぁああああんっ!! 見つかってよかったですぅううう!!」
アンナさん、泣いてる。
鼻声で叫ばれて、私は目を瞬かせた。
「ごめん、なさい」
「本当ですよぅ……うぅ。もう会えないかと思いました」
グズグズと泣かれながら、私はアンナさんにしばらくの間抱きしめられ続けた。
こんなに心配をかけてしまって、不謹慎だけど少しだけ嬉しくなった。
落ち着き始めたアンナさんに、私は呼びかけた。
「……アンナさん」
「っぅ? なんです、かぁ」
「ありがとう、ございます」
「! いいえ、どういたしましてです、リオン様!」
少し敬語が崩れたアンナさんに、距離が縮まった感じがして。
それに喜んでしまった私は、ますます反省しなきゃいけないよね?
◇◇◇
アンナさんと再会した後。はぐれてどこにいたのか説明して。もう一回アンナさんに泣きながら怒られて。
今日はそのまま帰ることになった。
「そんなことがあった以上、ご案内はしません! リオン様にご負担が大きすぎます!」って、アンナさんに言われちゃったためだ。
……本当にごめんなさい、アンナさん。
屋敷に戻ったら夕方になってしまったから、時間的にもちょうどよかったかも。
部屋で休ませてもらっていたら、いつの間にか寝てしまったみたい。ノックの音で起こされたら、もう晩ご飯の時間になっちゃってた。
食堂に向かうと、アンジェさんとジョシュアさんが席についてた。
レイモンドさんがいなかったから理由を聞いてみると、仕事の関係で深夜に屋敷に戻るから一緒には食べないみたい。
……よかった、私のせいで部屋にいる、とかじゃなくて。そうだったら申し訳ないよね。
私も朝座った席に座ると、ジョシュアさんがほほ笑みながら話しかけてくれた。
「やぁ、リオン。どうだったかな、王都は」
「楽しかったかしら? あ! そうそう! その服、似合ってるわよ!」
「楽しかった、です。……アンジェさんも、ありがとうございます」
一概には、楽しかったなんて言いきれないことがあったけど。ニコニコ笑ってる二人を、わざわざ悲しそうな顔にさせること、ないよね?
ジョシュアさんもアンジェさんも、とっても良い人達だから。詳しいことを話したら、絶対、悲しそうな顔になっちゃう。
――でも、今日のことで分かった。
私は、この世界の基本的なことを知らない。
危ない場所があるとか。服装とか。……騎士だってそう。あと、魔法も。
騎士の服を着た先輩にそっくりな人と、ローブを着て顔を隠した人が私の頭に浮かんだ。
私は、この世界でどれくらいかはわからないけど、過ごしていかなきゃいけない。
だから、私は。
「ジョシュアさん」
「なんだい」
呼ぶと、ジョシュアさんと目が合った。
「この屋敷で使用人として、働かせてください」
「訳を話してくれないかい? 今朝は、迷っていただろう? それが、どうしてだい? 決めるのには、早いだろう?」
真剣な瞳に、のみ込まれそうになる。
……キチンと言わないと、ジョシュアさんも納得しないよね。私は深呼吸をしながら伝えた。
「生きていくためには、知識が必要です。……掃除、料理、洗濯、そのどれも、私は自信がありません」
元の世界では当たり前のようにやってきたことだけど。この世界に同じ道具があるなんて限らない。
掃除機、コンロ、洗濯機……全部、身近にあったものだけど。
この世界にはないかもしれない。……ううん。たぶん、ないんじゃないかな?
だったら、こっちの世界のやり方を憶えなきゃいけない。
わからないまま、一人暮らしも、宿での生活もできないに決まってるから。
そして、それを手っ取り早く身に着けられるのは、使用人しかない。
「最初は迷惑をかけるとは思います。でも、頑張ります、から…………だから、教えて、ください」
すぐに移動しようと思った私の目にとまったのは、さっきの人が魔法で描いたツタの文字だった。
「え……?」
また、動いてる?
再び動き出したツタが、矢印を形作った。
その矢印の先は、一本道の片方を指していた。
「もしかして……こっち?」
ちょうど私の真後ろを指していたそれは、私が思わず振り向くと、足元をくぐり向けていった。
「っきゃ!?」
え、え!? び、ビックリした!
思わず後ずさると、そのツタは目の前の地面でまた矢印の形になった。
「案内して、くれるの……?」
たどると、表に出れるのかな?
「セオドールさんがかけておいてくれたの?」
やっぱり、あの人は悪い人じゃない。
「……ありがとう」
聞こえてないとは思うけど、お礼を呟いて私は矢印を追いかけ始めた。
◇◇◇
「本当に出れた……!」
私が追い付くのを待ちながら案内してくれるなんて、親切すぎだよセオドールさん!
ちなみにそのツタは、表の通りに出た瞬間に地面に吸い込まれて音を立てて消えちゃった。
人が行き交う中、大きな呼び声を聞いた。
「――オン様! リオン様! どこにいらっしゃいますかー!」
「あの声って……」
もしかして、アンナさん?
声がする方へ向かうと、女の子が顔に手をあてて叫んでいた。
たまに周囲の人を捕まえて、何かを話してる。……もしかして、私の特徴を話して、見た人がいないか聞いてる……?
「! 行かなきゃ……!」
泣きそうな顔してる……!
慌てて走って、アンナさんのもとへ向かう。
「アンナ、さん!」
「!」
頑張って声を上げる。人が多くて、聞こえにくいかもしれないけど。
アンナさんと目が合った。
「リ、リオン様ぁあああっ!!」
「……っ!」
は、走るの早いっ! 早いよアンナさん!
運動場なら砂煙が間違いなく上がりそうな勢いで、アンナさんが向かってくる。
これ、見たことある! たしか、テレビの中の闘牛とかだ!
思わずひいちゃって、私の足が止まりそうになる。
に、逃げちゃ……ダメ?
アンナさんはミサイルみたいな勢いで、私に突っ込んできた。
「! わ……!?」
ギュッと抱きしめられるなんて、予想できなかったよ!
「どこに行かれてたんですかぁ! リオン様、この王都の道、全然知らないのにはぐれるなんて……。私……私! 心配で……すっごく、すっごく探したんですよぉ……!」
「……アンナ、さん」
「うわぁああああんっ!! 見つかってよかったですぅううう!!」
アンナさん、泣いてる。
鼻声で叫ばれて、私は目を瞬かせた。
「ごめん、なさい」
「本当ですよぅ……うぅ。もう会えないかと思いました」
グズグズと泣かれながら、私はアンナさんにしばらくの間抱きしめられ続けた。
こんなに心配をかけてしまって、不謹慎だけど少しだけ嬉しくなった。
落ち着き始めたアンナさんに、私は呼びかけた。
「……アンナさん」
「っぅ? なんです、かぁ」
「ありがとう、ございます」
「! いいえ、どういたしましてです、リオン様!」
少し敬語が崩れたアンナさんに、距離が縮まった感じがして。
それに喜んでしまった私は、ますます反省しなきゃいけないよね?
◇◇◇
アンナさんと再会した後。はぐれてどこにいたのか説明して。もう一回アンナさんに泣きながら怒られて。
今日はそのまま帰ることになった。
「そんなことがあった以上、ご案内はしません! リオン様にご負担が大きすぎます!」って、アンナさんに言われちゃったためだ。
……本当にごめんなさい、アンナさん。
屋敷に戻ったら夕方になってしまったから、時間的にもちょうどよかったかも。
部屋で休ませてもらっていたら、いつの間にか寝てしまったみたい。ノックの音で起こされたら、もう晩ご飯の時間になっちゃってた。
食堂に向かうと、アンジェさんとジョシュアさんが席についてた。
レイモンドさんがいなかったから理由を聞いてみると、仕事の関係で深夜に屋敷に戻るから一緒には食べないみたい。
……よかった、私のせいで部屋にいる、とかじゃなくて。そうだったら申し訳ないよね。
私も朝座った席に座ると、ジョシュアさんがほほ笑みながら話しかけてくれた。
「やぁ、リオン。どうだったかな、王都は」
「楽しかったかしら? あ! そうそう! その服、似合ってるわよ!」
「楽しかった、です。……アンジェさんも、ありがとうございます」
一概には、楽しかったなんて言いきれないことがあったけど。ニコニコ笑ってる二人を、わざわざ悲しそうな顔にさせること、ないよね?
ジョシュアさんもアンジェさんも、とっても良い人達だから。詳しいことを話したら、絶対、悲しそうな顔になっちゃう。
――でも、今日のことで分かった。
私は、この世界の基本的なことを知らない。
危ない場所があるとか。服装とか。……騎士だってそう。あと、魔法も。
騎士の服を着た先輩にそっくりな人と、ローブを着て顔を隠した人が私の頭に浮かんだ。
私は、この世界でどれくらいかはわからないけど、過ごしていかなきゃいけない。
だから、私は。
「ジョシュアさん」
「なんだい」
呼ぶと、ジョシュアさんと目が合った。
「この屋敷で使用人として、働かせてください」
「訳を話してくれないかい? 今朝は、迷っていただろう? それが、どうしてだい? 決めるのには、早いだろう?」
真剣な瞳に、のみ込まれそうになる。
……キチンと言わないと、ジョシュアさんも納得しないよね。私は深呼吸をしながら伝えた。
「生きていくためには、知識が必要です。……掃除、料理、洗濯、そのどれも、私は自信がありません」
元の世界では当たり前のようにやってきたことだけど。この世界に同じ道具があるなんて限らない。
掃除機、コンロ、洗濯機……全部、身近にあったものだけど。
この世界にはないかもしれない。……ううん。たぶん、ないんじゃないかな?
だったら、こっちの世界のやり方を憶えなきゃいけない。
わからないまま、一人暮らしも、宿での生活もできないに決まってるから。
そして、それを手っ取り早く身に着けられるのは、使用人しかない。
「最初は迷惑をかけるとは思います。でも、頑張ります、から…………だから、教えて、ください」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる